85話 好戦的な人たち
「何をしている?」
ケアニスが何かに気づき、警戒を見せる。
それを見たクオンは、追撃を止めない。
「何って、手合わせっすよ。ようやくお見せできそうっす!!」
クオンは打撃を一瞬止める。
大きな体当たりが来ると思ったのか、ケアニスの動きも止まった。
目には見えないが、ケアニスから感じる圧からして、真力を強く展開していると感じた。
「それっす」
体ごと突っ込むかに見えて、右手が軽く伸びる。
その手は、ケアニスからだいぶ距離があり、空を切るかのように見えたのだが……
「っ!?」
クオンは何もない空間を掴むようにして、そのまま腕を体全身を使うように膝の高さくらいまで下げただけ。
だがケアニスの体がガクッと揺れ、転びそうつっかけた。
その瞬間、ケアニスは背後に跳んで距離を取る。
クオンはその場にとどまる。
形成逆転? ケアニスが逃げたように見えた。
「なんだ、今の……」
ケアニスが警戒心から敵意へと変化し、クオンに対してもっと緊張感のある構えをした。
ここからさらなる戦いが始まる、と思われた。
「まいったっす」
クオンは、その場で諸手を上げて戦意のなさをアピールした。
対して、ケアニスはまだ構えを解かない。
「これ以上、できることはないっす」
ケアニスはそれを聞いて、ようやく構えを解いた。
「クオンさん、いったいなにをしたんですか?」
ケアニスは手首をさすりながらクオンに聞く。
よく見ると、手首が少し赤くなっていた。
「僕の格闘術は相手の体に触れて、関節にダメージが行くように作用させるんす。今回は体に触れられなかったので、武器や防具に触れて、関節へのダメージを通した感じっす」
「そんなことができ……るんでしょうね」
「これが僕の格闘術っす」
「こんな技が使える人間を、私は知りません」
「僕も、あまり知らないっす。でも、武器や防具を避けたり利用したりして、ダメージを与えるのが武術ですから。人間のやってることは一緒になるかと思うっす」
ケアニスは、それを聞いて少し考える素振りを見せた。
「なるほど、人間はここまで突き詰められるんですね」
「人によってだ。アイもクオンくらいしか知らん」
アイがケアニスに近づく。
まるで、自分の部下をドヤっているように聞こえた。
「人間による違い……面白いですね。クオンさん、手合わせありがとうございました」
「こちらこそ。今後ともよろしくお願いするっす」
お互いに握手しようとした時、少しだけケアニスがまた関節を取られるんじゃないかと警戒して一瞬止まったが、その後すぐに素直に握手しあった。
「また手合わせを」
「もちろんっす」
「次は負けません」
「負けているのはこっちっすから。それ、僕のセリフっすよ」
お互いに笑い合う姿は、拳と拳で語り合った後みたいで、一気に友情を育んだように見えた。
なんかいいなぁ、ああいうの。
まさに友情って感じで。
「やっぱりああいうの好きなのか? お前たちの世界の住人は」
隣に来ていたサミュエル卿だが、話しかけてきたのは彼が持っているタブレットだった。
お前たちの世界の住人っていうのは、日本人って意味だろう。
「そっちの世界に行ったシガさんなら、わかると思いますけど、戦った者同士が認めあってライバルとしてお互いを認識しあうってありがちですから」
「やっぱりああいうの好きか。関係性としては危険だと思うけどなぁ」
「娯楽だから、喧嘩後の友情が成立する?」
「いや。そもそも競い合うことに友情が成立するっていうはどうもね」
こっちの世界の住人は、みんなそんな感じなのだろうか。
「私には、今度はこっちがとっちめてやるって見えるね」
なるほど。
こっちの世界の住人って、好戦的なんだな。




