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79話 『神器』同盟成立 その後

 ケアニスは、自身の女の子化のために、先になった先輩カウフタンの見学会に参加することになった。


 その点に関しては、かなり熱意があるみたい。

 まさか、天界から追放された理由になった魔境城塞から離れてまで着いてくるとは思わなかった。


「んじゃ待ってるから。そっちの用事を済ませたら来てくれ」


「はいっ。めどがついたら、これで連絡します。アイさんの魔法、便利ですね」


「うん。すごく便利」


 魔境城塞で亜人の侵攻から人間たちを守っている天使ケアニスは、晴れやかな笑顔で飛び去って行った。

 行き先は、魔境城塞。

 今のケアニスの住処へと戻り、俺たちとエジン公爵領へ向かう準備をしてくるそうだ。


 連絡は、アイの小鳥を使う魔法でするらしい。


「ケアニス、職場放棄するわけじゃないよな?」


「違うと思う。亜人の侵攻もケアニスが防いでから、一度もないはずだぞ」


 それって、ケアニスがいるから抑止力になっていただけなんじゃないかと思ったけど言わずにおいた。

 それでまた、別の問題が出て来ても困るから。


 ケアニスは、エジン公爵領へ俺たちと来ることになった。

 目的は、女の子になりたいから。


 何を言っているのか分からないかもしれないが、真実だ。

 これ以上の問題は、もういらない。


 そして、ケアニスが俺たちについてくるという話になって、同盟話がだいだい落ち着いた頃に、ウルシャがこっそり教えてくれた。


「天使って男しかいないんだって?」


「ああ。知らなかったのか?」


「うん」


 マジで女の子にしようとしないで良かったと胸をなで下ろす。

 少し前の俺、よくあの時に、カウフタン見学会を思いついたと、褒めてやりたい。


 まさに現状保留が大正解だった。

 それくらい、ケアニスの女の子になりたい発言は、とんでもない大問題だったのだ。


「ケアニスが女の子になるのって、どうなの?」


「前代未聞」


「そっか」


「レ○プまでされたら、イセの名は天界に弓を引いた男として、後世まで語り継がれただろう」


「しないよ? 何? 何でアイはそんな疑いの目で俺を見てるの?」


「…………」


「そこで黙らないでくれる?」


 アイは目をそらして、ケアニスが飛んでいった空を見上げる。


「しかし、ほんとに仲間になるとはなぁ」


「「まったく(です)」」


 俺の発言に合わせてきた声は、後ろに控えていたサミュエル卿のものだった。


「まさか大したトラブルも起こらずに同盟成立……大変な手腕ですな」


 嫌味にしか聞こえないよ!?

 またトラブルの種を増やしたようにしか見せませんねっ、って類の嫌味に聞こえるからっ!


「偶然ですから」


「偶然にしても、ですよイセ殿」


 嫌味ではなく、本当に感心したような視線を向けてくる。


「このような決着がついたのは偶然かもしれません。しかし、ここまで天使と対等に渡り合う人など、アイ様とシガース様以外おられません」


 『神器』にしかできないこと、と暗に言っているようだ。

 キルケの時にも似たようなことを言われた気がする。


「それとも、召喚戦士という存在が、どんな者に対しても対等ということでしょうか」


「いや、サミュエルくん、それは無いだろう。おそらくこっちの人間の特質だ」


 タブレットから、シガさんが声をかけてきた。


「それは、先ほど言っていた、ドウジンという世界の……」


「違います」


 俺が否定するとサミュエル卿は、そうですか、という感じで頷くが、強く否定しなきゃならないほど大変な世界だったんだろうという同情の視線が入っていて、大いに勘違いされている気がしている。


「まあその辺は置いといて、今後どうするかなんだが、イセ」


「ん?」


「いよいよ解き明かさねばならないところに来たかもしれないぞ」


「何を?」


「おぬしの女の子にする『力』だ。そこらの者たちを女の子にして、元に戻せないとなったら……おぬしが危ない」


「それって、もしかして……」


「うん。戻せないような『力』、危ないから消そうって考える者たちが、キルケ以外にも出てくるぞ」


「おおぅ……」


 そもそも、ハイエースがどう動いているのかすらわからない。

 あの鬼たちが出てきて引っ込んで、んでもってどうやって怪我を治したりしているのかも分からない。


 さらにその上、女の子にしちゃう『力』とか、もっとわからん。


「この力の手がかりって……ネットスラングと同人ネタと……」


 なんだろう……娯楽的欲望って思った以上に思いつきで手がかりないな……


「その『力』、見せてくれないか?」


 シガさんが言ってきた。


「実際に私にも見せて貰えれば、イセくんの元いた世界にいるから手がかりが掴めるかもしれない」


「できれば使いたくはないんです。元に戻す方法がないから、緊急事態以外には使いたくないというのが正直なところなんです」


 アイの方を見ると、同じ意見というのが分かった。


「使っても問題ない相手ならいいだろ? よし、サミュエルくん」


「冗談は止めろ。シガース様」


 様付けだけど、ガチ怒りのサミュエルさんの声、ちょっと怖い。


「わかった。ならさっき言ってた椅子を女の子に変えてみたらどうだ?」


 ケアニスが言っていたあれか。

 確かにそういうのも可能なのか否か。

 試してみる価値はあるかもしれない……


「イセ、止めておけ」


 すかさずアイが止めた。


「そういう物までやると、どんな影響が出てくるかわからない。天界側が、何が何でも排除という話になりかねない」


「まあな」


 まあなって、シガさん分かってて提案してた!?

 この人、発想が怖い。


「そういうのは、私がそっちに帰れるまで取っといてくれ」


「帰る? 戻れるのか?」


「わからん。だがこうして連絡は取れるし、イセくんはそこに召喚されている。可能性はなくはない」


 そう言うシガさんの声は、ほんとに楽しそうだった。


「よし、なんとかするぞー。まずはタブレットをもっと遠くまで持ち歩いていけるようにするところからだなぁ。できるようになったら連絡するからな、アイ」


「わかった。師匠の知恵は借りたいから、大助かりだ」


 そんなこんなで、アイとシガさんと、そしてケアニスの協力体制が出来上がった。


 その中心に俺がいる。

 とても居心地の悪い中心だと思った。


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