78話 『神器』同盟成立?
ひょっとしたらケアニスさんは、俺の想像もつかない欲情……ではなく欲望をお持ちなのかもしれない。
「天使も、女の子になれるんでしょうか?」
ケアニスの質問に、アイがこっちを向く。
「できるかもしれないんだよな?」
「どうかな。できない可能性の方がひょっとしたら高いかもしれない」
「そうか? 天使の加護を受けたカウフマンに思いっきり効いただろ」
それ言っちゃだめ!
ほら、俺ができない可能性が高いって言ったら、残念そうにしてたのに、今またちょっと希望を見出しちゃった笑顔になってきたじゃないか!
「ほら、炎の剣を使った人間がいたんだけどな。その加護をイセは無くしたんだ」
「なるほどです。だからキルケ先輩は危険という風に見たんですね」
皆の話を聞いていたモードだったタブレットから、声が発せられた。
「それでケアニスはどうなんだ? なんでそんなことを聞くんだ?」
こいつ……ディスプレイ越しだからって、一番の危険地帯に突っ込んだな!
「私、女の子になってみたいんです」
言ったぞ!? こいつ言った!!
俺、ガチなのと初めて会った!!
「マジか?」
「マジです」
「むむ、そうか……天使でもいるんだな」
あれ? 衝撃で声も出せない俺とくらべて、アイは意外と平然としているな。
「そういう趣味嗜好みたいたぞ」
「お、おう」
「どうする?」
「どうするって……カウフタンが聞いたら激怒しそうだなとしか……」
「キルケも激怒するだろうな」
そう言ってケアニスを見ると、言ったことを少し恥ずかしそうしながらも、真剣ですアピールをしてこっちを見ている。
どうするんだ、これ……
「……くっくっ、腹痛い」
「おい」
タブレットの向こうの人が笑ってる。
「いやぁ、面白いな。そっち戻りたい」
「交代しろ! 俺と交代しろ!!」
こいつ、ディスプレイ越しで他人事だからって、面白がりやがって!!!
「なぁ、ケアニス。こう言っては何だが、止めた方がいいぞ。おまえが女になるといろいろと問題があってだな」
「わかります。私にも立場がありますから。しかし……」
ケアニスが、ぐっと小さな握りこぶしをつくる。
「しかし、この機会、また回ってくるとは思えません。もし女の子にできるなら、是非ご助力いただきたい」
「もし女の子にでもなったら、今度はキルケが天使の軍勢を引き連れてくる。カウフマンが女になった時、キルケは速攻で調査に動いた。あの比ではないだろう」
「それは私が止めます。こう見えても、天界で私に敵う者はいません」
「マジか……」
「女になったら身体が小さくなるぞ? 筋力が減るぞ。カウフタンもそれで苦労してた」
「天使の力は、単純な筋力ではありませんから、その点はご安心を」
なんだかどんどんと、女の子にしてもいい、むしろした方がこっちにとってはお得……という風な流れになっている?
ケアニス、押し強いな。
アイが俺の服のそでを引っ張ってきたのでしゃがむと、耳打ちしてきた。
「……なあ、イセ。これ上手くいくんじゃないか?」
「わかる。話を聞いている限りは、俺たちの味方になってくれそうな予感がする」
「なら、してもいいんじゃないか?」
「だけど、天界と確実に敵対するぞ。そこまでの準備はできてない」
「あ、そうか……」
「あ、あの……!」
ケアニスが、ドキドキしてる感じで、声の音量も調整できない感じで、俺たちに話しかけてきた。
「それで……私は、女の子になれるでしょうか?」
少し目がうるうるしてる姿で懇願しているケアニス。
そこまでしてなりたいの? 俺にはわからん!
このままだと、断るか女の子にするか、という話になってしまいそうだ。
逆に怒らせて不機嫌にさせるとか、こちらの信用がなくなるとかは避けたい。
「わかりました。この件は保留にしましょう」
「え……」
「俺たちをキルケから守ってくれるって話を最初に聞いてもらえましたよね?」
「あ、はい。そうですね」
「でしたら、もう俺たちとケアニスさんは仲間です。仲間として行動した上で判断をしましょう」
「なるほど……」
「幸い、先に女の子になったカウフタンが、エジン公爵領にいます。彼、じゃなくて彼女の様子を見て、女の子になるとはどういうことなのかを知った上で、もう一度考えてみましょう」
「なるほど! わかりました!! 是非、お願いしますっ!!」
こうしておにゃのこ化したカウフタン見学会ツアーが決定した。
「イセ、頭いいな!」
「くそっ、早急に俺もサミュエル自治領から出ても大丈夫なようにしないと! こんなにおもしろいことに着いていけないなんてっ」
師弟がなんか言ってるが、ひとまず丸く収めた(?)ので、俺はホッとした。
……態度を保留にしただけだけどねっ。




