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71話 サミュエル自治領内へ

「そろそろ落ちる。サミュエルくん、コンウォル辺境伯への非公式会見をよろしく。『神器』アイが、ケアニスに会いたがっているって伝えといて」


「それならあちらも無碍にはできないでしょう。わかりました」


「それと、そのハイエースって魔法で仕舞ったり、隠したりできる?」


 俺に対して言ってきたことに気付いて慌てて答えた。


「あ、いえ。できないです」


「だよね。なら例の隠し通路を使って、案内してくれる? この辺に置いといても問題だし、正門から入れると目立つでしょ」


「わかりました」


「すまないね。あ、やばいやばい、遅刻する。今日の授業は出ないとやばいみたいなんだよ。んじゃ、よろしく」


 そう言った後、こちらが止める間もなく、タブレットがスリープモードへ。

 一方的に話して終わりにされた。

 その様子を確認した後、サミュエル卿は慣れた手つきでカバーをして鞄にしまった。


 シガさんのマイペースには、もう慣れている感が漂っている。

 はぁ、とため息をつく様子に、苦労してるんだなと思わざるを得ない。


 あっと言う間に、ここの皆の変な空気を作った原因が消え、ほんの少し沈黙が続く。


「なあイセ、師匠の言ってた授業って?」


「学校通っているんじゃないか? 日本では学生とか。遅刻って言ってたから、向こうでは朝なのかも」


 異世界転生して学生か。

 赤ん坊から始まらなかったんだな。


 あ、学生といってもひょっとしたら大学生とか、社会人で仕事しながら夕方から夜にかけて学校に通っている系かもしれない。


「まあ、詳しい話は、後で聞こう。俺も興味ある」


「……おぬしが来た世界にいるからな」


 そう。そうなのだ。

 やはりというか、元々こうして俺がこの世界に来ている時点で予想範囲内だった。


 この世界と、元々俺のいた世界とは繋がりがある。


「イセのいる世界について師匠から色々聞いていたが、まさかそっちの世界に行ってたとは……」


「驚きました。イセ殿、今後ともよろしくお願いします」


 いきなり会話に混ざってきて、よろしくされてしまい、俺も恐縮してこちらこそと頭を下げた。

 なんつうかこのおじさん、えらい腰がひくくて威圧的な人たちとは全然違うから話しやすい。


「あ、すみません。そのタブレットを見せて貰えませんでしょうか?」


「そういえば、そちらの世界の通信装置なんですよね。扱えるのですか?」


「多分」


 貸してもらい、スリープモードの解除を試みたがダメだった。

 ちゃんとパスワードが設定されていた。


 こっちから設定解除できたりしないかな? と思って設定いじってみたがダメだった。

 シガさん、俺よりもこの手のにもう詳しくなってそうだ。


「……流石、元魔法使い。タブレットの機能、いろいろわかっているっぽいですね」


 俺の様子を見て、サミュエル卿とアイは、顔を見合わせる。

 シガさんの言ってたこと、マジっぽいとお互いに確認したのだろうか。


 しかし、タブレットのこの操作感覚、ちょっと懐かしい。

 俺はスマホしか、持って無かったけど。

 まさか、こっちの世界に来てタブレットをいじれるとは思わなかったので、感動している。


「あの、そろそろよろしいですか? そちらは大切なものなので」


「シガさんとの唯一の通信手段なんでしたっけ」


「ええ。それと、そろそろ移動しましょう。こちらの戦車を動かしていただかないと」


 そういえば言っていた。隠し通路でどうたらと。


「はい、すぐ動かします。アイ、いいよな」


「もちろんだ。むしろありがたい」


 俺とアイはハイエースに乗り込み、動かす。

 エンジン音と、その動きに、びくつくサミュエル卿たち。


「ここから遠いのでしたら、乗って下さい」


「いえいえいえ、近いですので、案内します」


 まさか、乗ることを拒絶されるとは思わなかったので、驚いた。

 あとからウルシャに、サミュエル卿たちの反応が普通で、運転したがっていたアイやカウフタンが肝が据わっているのだと教えてもらった。


 その後、サミュエル卿たちが教えてくれた大きな洞窟に入り、そこにあった隠し通路をハイエースごと通り、結構な距離を移動した後、開けた地下空洞に出てきた。


 これもあとでウルシャが教えてくれたが、いざとなった時にまとまった兵を動かせる秘密の通路を使用したのだろうとのことだった。


「この隠し通路に関しては、くれぐれもご内密に」


 サミュエル卿は軽く言っているが、部下の護衛たちからは若干の敵意的な威圧を感じた。

 ほんとに一部の者しか知らない、秘密なのだろう。


 うかつに話せないと、アイとウルシャとは確認しあった。


 だが、その辺のことを抜かして考えると……


「ここ、車庫に使えれば安全に町の中、回れるな!」


 と、アイが喜んだのに対して、俺は手をポンと打った。

 まったくその通りだ。


 そんな呑気な俺たちに、ウルシャとサミュエル卿は苦笑するだけだった。





【幕間】


「イセマコト、イセマコト……」


 いつもの通学路を登校中の志賀飛鳥は、スマホでニュースサイトを検索していた。

 イセマコトという人物がニュースになっているかどうかをまずチェック。

 派手な事件性でもあれば、ニュースに名前が出ているかもしれないからだ。


 歩きスマホをし、電車の中でもスマホをいじり続け、ひたすらネット内をくまなく探し続ける。

 すると、学校に到着する直前に、目的の記事を見つけた。


 少し前の交通事故の記事。

 事故を起こした加害者の方は、現在行方不明。

 もらい事故をされたレンタカーを運転していたのが、大学生の伊勢誠。


 その記事を見つけた時、志賀は驚いて……そして笑った。


「伊勢誠、重体?」


 ニュースには、そう書かれていた。

 淡々と事実だけ書かれたニュースに、志賀は興奮を覚えていた。


「あっちに戻る手段、ひょっとしたらあるかもな……」


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