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70話 もうひとりの転生者

石版(タブレット)? そうだが?」


「いや、そうじゃなくて」


 アイの言う石版という方じゃなくて、タブレットだ。

 持ち運び用の小さな薄型ディスプレイみたいな、スマホをでっかくしたような、あのタブレットだ。


 って、どう説明したらいいやらっ!?

 というか、いきなりそんなものが出てきて、俺は混乱している!


「あー、召喚戦士くんだね。ちょっと待っててくれ。後で説明するから。先にアイと話させてくれ」


 まるでこちらの混乱がわかっているかのような台詞が聞こえた。


 俺は言われた通りに、黙って引き下がる。

 サミュエル卿を守る護衛たちも、ウルシャも、今にも俺に掴みかかってきそうだったので、少しびびったというのもある。


「アイ、久しぶりだな。元気か?」


「うん。そちらの変わりないようで。相変わらずそんな身でも研究を続けているようだな。こんなところまで持ち運んでもらえるようになって」


「まあな。こんな格好と言うが、むしろやれることは増えているよ」


「流石師匠。魔法使いとしてはアイに次いで2番目に凄い人だ」


「まあな。アイが天才なら、私は秀才だからな。ところで近くにある戦車だがな……サミュエルくん、タブレットの光っている方を戦車に向けて」


 パシリにされているサミュエル卿は、ハイエースにそれを向ける。

 そしてパシャリと音が鳴った。

 カメラのアプリをリモートで動かしているみたいだ。


「ふむふむ! なるほどなるほど!! こいつは確かにハイエースだ」


「おおっ!? 師匠わかるのか!! 『至高なる(エース・オブ)鋼鉄の移動要塞(・ハイエース)』という異世界の自動車だ」


「わかるぞ。はっはっは、いやまた楽しいのを召喚したな。流石アイだ」


「うんうん。楽しいし頼もしいヤツだ」


「頼もしいか。それは良かった。召喚戦士くんも、そんな名前をつけちゃって、異世界転生を満喫しているようで何よりだ」


 異世界転生という単語を聞いて、やっぱり俺も聞きたかった。


「なあ、そろそろ教えてくれないか、シガースさん」


「教えるもなにも、キミの想像の通りだよ。もう少しだけ待ってくれ。アイとの話が終わってない」


 ピシャリと遮られ、俺も強く言い出せない。

 アイも俺の方をみて、すまなそうな顔をした。

 これは待つしかないだろう。


「アイ、それでケアニスに会いたいという話だったが、どういうことだ?」


 アイは、今まであったことをかいつまんで説明した。

 鬼たちの能力のことも話さず。

 カウフマンをカウフタンにしたことは話さず。


 ただ、俺の『力』によってアイがエジン公爵領にとってただの食客から重要な位置につき、天使キルケたちからそのせいで狙われるようになった、という話だけに終始した。


 その間、シガースさんは黙って聞いていた。


「つまり、場合によっては、キルケくんのおじゃま虫であるケアニスくんを倒すというわけだな」


「うん、そうなる」


「返り討ちにあっても対抗策はあるの? その召喚戦士くんの『力』で何とかなるの?」


「……うん。なる」


 アイは俺の方をちらりと見てから答えた。

 俺も、そうなったら使うしかないと覚悟は決めていた。

 だから、アイの宣言を止める理由はない。


「わかった。ならケアニスくんと会える算段をつけよう」


 そう言った時、ある意味一番ハッとしたのはサミュエル卿だった。

 そのことに俺も、アイも気付いた。


「師匠、いいのか? 天界や教皇庁、それにケアニスとも事を構えることになったりしないか?」


「心配無用だ。そうなっても……いや、おそらくこの件がなくても、そうなりそうな予感はしてたんだ」


「ん?」


「そこで、ようやく召喚戦士くんと話が出てくる」


「そうそう! なんで師匠とイセが、なんかそんな風に話しているんだ? 親しかったのか? それ知りたかった!」


「まあ、それこそ待て。召喚戦士くんと話してからだ。で、ちょっといいかい」


 俺に声をかけるように言ってきたので答えた。


「はい。まずは俺の聞きたいことを――」


「私の方が先。キミの名前を教えてくれ」


 おっと、自己紹介か。

 こっちは、『神器』シガースと知っているけど、向こうはアイが召喚した者としか知らないよな。


「俺はイセマコト。異世界から来た」


「では私からも」


 タブレットの向こうからの声は、少し嬉しそうに弾んでいた気がした。


「今の私の名前は、シガアスカ。そちらの世界から異世界に飛ばされて、今は異世界の日本にいる」


 やっぱり!!

 と、思って背筋からゾクッときた瞬間――


「「なんだって!?」」


 俺と同じくウルシャは声もなく驚いていた。

 だが、声を出して大声で驚いたのはアイと、サミュエル卿だった。


「そうだったのですか!?」


「うん。今まで黙っててごめん。サミュエルくんが大事に持ってくれているのは、ただの通信装置なんだ」


「通信……装置……」


 相当なぶっちゃけ話だったらしく、サミュエル卿は呆然としていた。


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