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67話 サミュエル卿からの連絡

 ウルシャが運転を覚え、アイが俺の『力』はさっぱりわからないという話をしてからその後。

 ハイエース運転したいとワガママを言うアイに運転を覚えてもらうためと称して俺が覚えている限りの運転免許取得の座学を教え続けた。


 そんなせこくて涙ぐましい努力を始めて2日目に、城下町のクオンから連絡があった。


 オフィリアは急ピッチで準備してサミュエル卿へ正式な使者を派遣したとのこと。

 他にも執務はあるだろうに、優先してくれたらしい。


 領内の混乱を収めたというのは、すでにサミュエル卿も知っているだろうけど、エジン公爵が直々に連絡を入れたというのは、効果的だろうと踏んだ、というのがクオンの説明だった。


「サミュエル自治領は、通商連合の本拠地ですから。彼らの協力無しに領内の統治はありえません。オフィリア様はやはり聡明なお方です。エジン公爵閣下が得ていたご信頼を受け継ぐ聡明な領主になられるでしょう」


 ウルシャが嬉しそうにそう言ったので、多分そうなのだろう。


「で、正式な会談は2週間後か。ずいぶんとかかるんだな」


「公爵閣下と通商連合の盟主のトップ会談です。こちらの準備と、あちらの準備、水面下では多くのやりとりがありますから」


「そのやりとりのひとつが、アイたちが持ち込む問題だな」


 通商連合が、帝国の外との交易が再び可能になるかもしれない、天使ケアニスと召喚された戦士とのやりとり。

 あちらが、興味をひかないはずがない。


「彼らにとっても天界絡みの難問だ。だが交易を続けたい通商連合と、亜人と人間の間を取り次ぎたい天界と、本来は利害一致しているからな。もしかしたらあっさりとアイたちをケアニスの元に連れていく段取りを整えてくれるかもしれない」


「もしかしたら?」


「ああ。天界と通商連合の間には教会があるから。あそこは商売敵だ。通商連合も有利な条件でもなければ、静観を決め込むだろう。まあそれはそれで想定内なんだがな」


 直接交渉の腹芸はできないが、こういう視点だけは持っているアイ。

 魔法使いって、きっと奇人変人だらけなんだろうな。


「それでアイ様、クオンはそれ以外は何か言ってこなかったのですか?」


「サミュエル卿から、シガースがアイたちと直接会いたいって連絡来たって」


 軽く一番の懸念事項を言われた。


「なんでさっき、サミュエル卿に連絡用の魔法を使っておいた。1日もあればそちらに行く手段があるって言っておいたから、すぐ返信来るんじゃないか?」


 と言う話をした後、アイは椅子から立ち上がって俺の手を掴む。


「さあ、今日こそ運転するぞ。行こう!」


「お、おう」


 アイは、ケアニスのことより、ハイエースを運転できるか否かの方に夢中だった。

 そして、ハイエースを車庫から出して、アイを運転席に座らせる。


 ハンドルに手は届くが、アクセルとブレーキに足が届かなかった。


「イセ、これで運転できるのか?」


「無理」


 アイが今にも泣き出しそうな顔をした。

 そんなアイに、優しい小鳥が慰めるために肩にのってきた、わけではなく、口にくわえた葉っぱをアイに渡した。

 アイは無言で中身を読む。


「なに?」


「今日明日中に来てくれって。召喚戦士の力が見たいって」


「ケアニスの件は?」


「書いてない。1日もあればそちらに行けるって伝えたから、きっとその力の方に興味津々なんじゃないか? 師匠はすぐ目移りするからな」


 通商連合の副会長シガースは、『神器』で魔法のアイテム状態で、アイの師匠の元魔法使い。

 ケアニスを何とかする話し合いの前に、難問が待ち構えている気がしてならない。


「それじゃ今夜に出発だ。行く準備するぞ」


 運転できなかった悲しみは、もう忘れたみたいでよかった。


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