66話 第三の力に関する考察
「結果、という意味では何も出てないな」
アイは、腕を組んで目をとじて首を傾げる。
困った、という感じらしい。
「さっぱりわからんのだ。おぬしが発揮する『力』が、どう出て来て、どう作用しているのか。アイが分かっている範囲の魔法では、解読不能だ」
「魔法、じゃない?」
「魔法ではあるが、ただの魔法じゃないな。魔力は感じられるし、魔素も使っている。だがそれだけじゃない」
アイは、それからまた俺にはよく聞き取れない言葉を呟く。
魔法の呪文、と分かった時には、その魔法の作用が現れた。
俺の部屋にあった、明かりが宙に浮かんだのだ。
「おお……」
「魔法はこうなのだ」
こうと言われてもわからない。
俺にはアイが手を掲げた先にあった明かりが、突然浮かんだだけだ。
「呪文による魔法の構築。そのための魔素の使用、そして魔法の効果発現。で終わりだ」
「ふむふむ」
「おぬしの魔法は、魔素の使用と、効果発現の間に何かある。だがその何かがわからん」
「ほうほう」
「おそらく、その間に外の『力』が働いている」
「どういうこと?」
「魔法は元々は外の力を使うものだ。この世界の外の力を、この世界の中に取り込んで使うことで効果が発揮される。元々はそういうものだ。故に『魔』法だ。この世界にとって『魔』でしかないからな」
「ふむ」
「今はその点が薄くなっている。『魔』という概念が廃れ、この世界にあるものとしての魔法がある。今、アイが使った魔法も、この世界の力だけで発現している。それが今の魔法だ」
「…………」
「ここまでの話、理解できたか?」
「ぜんぜん」
あのハイエース運転したいだけのだだっ子だったアイが、専門分野の話になると、説明おばさん的になるのは……
いいな。萌える。
このまま眺めていたい。
「続けるぞ」
無視して続けるその姿勢もクールで最高だ。
「天界は、元々の魔法を、今の魔法にした。魔法を危険なものとして排除を試み、失敗したがめちゃくちゃにして破壊した。だから魔法使いがいなくなった」
宙に浮いていた明かりは、静かに机の上に降りた。
魔法の発現が終わったようだ。
「アイも一時期そうだった。だから壊れた魔法を再度紐解き、アイが構築した魔法と組み合わせて、今の魔法にしている」
「壊れた魔法と、アイの魔法?」
「簡単に言うとだ。魔法が『神』によって作られる前の、すっごい手間暇かかる魔法を、アイが自力で壊れたのを使ったり、新たに構築したりして、使っているってこと」
うん、さらにわからない。
「さっき使った魔法だけど、アイはああいう物を動かす魔法、すっごい苦手なんだ。だから今のも実は前々から準備してたものを使った。昔は、あんな魔法、魔法使いなら簡単に使えたんだ。それこそ、指をちょいちょいと動かすだけでできた」
「あー、その頃に来たかったなぁ」
「ふふっ、そうだな。でも今は、明かりくらいなら手で持った方がずっと簡単だ。と聞いて、おや? と思わないか?」
「何が?」
「おぬしの自動車だ。あれを走らせるには、さっき明かりを宙に浮かせた魔法より、遥かに大きな魔法を構築しなければ、動くことすらできんはずだ」
延々とこの世界の魔法の話を始めたから何事かと思ったら、そう繋がるのか。
「だが、そんな大きな魔法を構築した様子はない。おかしいだろ?」
まるで本当に可笑しいものを見つけたかのように、アイは笑った。
「魔法は、天界の連中に壊される前から、不可思議なことばかり見つかる代物だ。非常に奥が深い。最後の魔法使いのアイをして、まだまだ分からないことだらけだ」
アイは俺の手を握る。
小さくて柔らかい手だが、今までの話を聞くと、とても頼もしい手に思えた。
「だからな、イセ。天界の思惑はなんとしても阻止だ」
「お、おう」
「おぬしと、おぬしの自動車は、アイの切り札……いや、もはや人間にとっての切り札だ。アイはおぬしを守るためなら全力を尽くすぞ」
「う、うん」
頼もしさついでに、なんだか少しマッドなハカセにターゲッティングされたような気がしてきた。
危ない人に、おもしろいもの発見したーと喜ばれているみたいだ。
「だから自暴自棄になるなよ。何があっても。まあイセなら、そんな風にならないと思うけどな」
「それはまあ……」
せっかくの異世界転生だし。
拾った命だからこそ、この生を満喫したいって思っているのは事実だ。
そして、目の前の少女が、俺を生かしたいと言っている。
これが多分、アイの頼もしさの正体、かもしれない。
「自暴自棄なんてならないよ。だからアイ、これからもよろしく」
「うん、よろしく」
楽しそうな無邪気な笑みに、俺も釣られて笑った。




