65話 自動車運転のルール
ウルシャに運転を教えて3日目。
屋敷内と屋敷周辺を走り回り、もうだいぶ運転できるようになっていた。
すでに屋敷から礼拝堂までハイエースで走っているのだから、あとは慣れの問題かと思ったが、操作の細かいところはわかっておらず、結局細かく教えていった。
それでも、基本的にハンドルとアクセルとブレーキだけでいいし、交通ルールなんて覚える必要もなく、対向車の存在も気にする必要がないと、遊園地のゴーカートでも乗るかのようにあっさりと運転できるみたいだ。
ウルシャに教えている中で、いくつか日本の交通ルールでしか使わないんだなというのがあった。
ウインカーとか、まさにその類だった。
そしてもう一つ、気づいたこと。
それはウルシャが運転しても、まるでアスファルトの上でも走っているかのように安定していたことだ。
俺が、チート能力の一貫で運転がうまくなったわけじゃなくて、このハイエースならそう走れるみたいだ。
屋敷周辺を走ってきて、ウルシャが車庫入れしたところで、俺は俺から教えることはもうないと伝えた。
「ご指導ありがとうございました。こう言ってはなんですが、馬に乗るより簡単ですね」
「馬の方がかなり難しいと思うよ」
「どちらかというと、簡単に使えるが故に、気持ちの制御が必要になります」
「というと?」
「もっとスピードを出したくなる気持ちを抑える、みたいな感じですかね」
「あー」
それに負けて、俺は城下町まで行く時に川に突っ込んだった。
「おそらくイセのいた世界の運転免許証というのは、その気持ちに配慮したものになっているのでしょう。そのこっちの世界にはない交通ルールの話を聞いてそう感じました。この進む方向を示すウインカーという装置なんて、まさにそれですね」
おお、すごい。ウルシャ、慧眼だ。
まったくそのとおりだと思う。
「そういうものがないと、これはただの武器……いえ、凶器になりえるものです」
「そうですね。まったくそうだと思います」
こういう見方ができるウルシャさんをマジ尊敬する。
……天使の長を轢き殺しそうになったからこその結論かもしれないけど。
「なあなあ、ウルシャが運転できたから次はアイの番だなっ」
わくわく顔で運転席の方を見ているアイ。
今の話を聞いて、余計に教えたくなった。
「よし、もうそろそろ日が沈むからまた明日な」
「えー」
「アイ様。明日にしましょう。これ以上アイ様のお時間を私の練習の付き添いに使ってしまうと、他の者に怒られてしまいます」
「むぅ、そうかー、また明日だなー」
素直に引き下がるアイ。それを見てホッとするウルシャ。
これからウルシャのアイの気持ちコントロール力が試される。
がんばれ、ウルシャ。
俺もハイエースの運転をアイに任せたくないから、協力は惜しまないぞ!
ウルシャがこっちを見て苦笑する。
気持ちが通じ合っているみたいで萌える。
そして俺の時間がある時は、ウルシャの運転練習の付き添いの他に、アイの魔法研究の付き添いだ。
アイは、AI機関関係の仕事がない時、俺とハイエースについて調べている。
魔法使いならではの、魔法的なサーチ方法を試して、データ収集し、それを研究している、みたいだ。
みたいというのは、アイがそう言っているだけで、俺にはアイが何をしているのかさっぱりわからないから。
研究している姿を見ると、自分のいるところとハイエースの車庫、そしてアイの執務室をうろうろして、なにやらぶつぶつ言って、俺にはわからない文字を紙っぽいものに書き写して、というわけわからんことをしているだけで、ほんとにわからない。
そんなことを続けて、3日目。
丁度、ウルシャの運転が落ち着いたその日、アイが夜中に俺の部屋に尋ねてきた。
「調査の区切りがいいんで、今現在の調査結果を伝えに来たぞ」
夜中に男の部屋に来る理由にしては、なかなか良い理由だ。
今のアイから漂う、男女の関係的な雰囲気は毛頭ない感じ。
そうそう、アイはこれでいいんだよ、と悟ったような気持ちを視線に込めた。
このウルシャもついてきていない、俺への安心感。
きっと、とても信頼されているんだと思う。
「ん? どうした?」
「少しだけ葛藤してたけど、なんでもない。それよりも、結果を教えて」




