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32話 神の武具

「異世界の戦士よ! 『神器』より異能を手にしたのは、お前だけではないっ!!」


 カウフマンが手にしているのは、一枚の鳥の羽。

 手のひらほどの長さがあり、まるでそれが輝いているかのようにはっきりと見える存在感を示している。


「カウフマン、それはまさかっ!?」


「まさか、そのまさかだ。教皇庁に神の奇跡と認定され、神の御使いによって与えられるという運命を切り開く神剣――」


 カウフマンはその羽を、まるで構えるように振るう。

 すると、羽は輝きながら真紅の炎をまとう剣となった。

 強い熱量を発し、赤く輝くそれはまさに炎の形をした剣だった。


「これが私の切り札だ」


「伝承にある天使より授けられし炎の剣か。戦士や剣士であるならば一度は憧れる神の武具。まさかお目にかかれるとは思いもしませんでした」


 ウルシャが声を震わせながら口にした。


「今の私は天使キルケ様から借り受けた『力』を振るう戦士だ。『神器』アイ様の戦士の相手にふさわしかろう!!」


 派手で豪華な鎧を身にまとい、炎の剣を手にするカウフマンは、炎の熱風にマントをばさばささせて、まさにファンタジー的にとてもかっこいい。


「くそっ、炎を使う剣とか、オーソドックスでありきたりなもの使いやがって……」


「ありきたりだと?」


「そうだよ。よく見たよそういうの。剣から魔力とか光とか火が出てきて、ずばーっと剣の間合いよりもずっと遠くのものに攻撃できて、エフェクトがかっこよくていい感じのやつだ。よくあるだろ!」


 くっそっ、ああいうのが俺も欲しかったよっ!!

 そうそう、ああいうのでいいんだよ、ああいうのでーっ。

 ありがちだけど、やっぱり実際に見ると、すっごいかっこいい。

 もう見られただけで興奮しているウルシャの気持ちがよくわかるよ!


 俺もああいうのが欲しかった!! 世界を救ったり惚れた女の子を救うための想いを込めて、技の名前とか、武器の名前を、叫んで振るいたかったなぁ! もうっ!!


「くっくっく。キルケが授けた炎の剣を、ありきたりとうそぶくか。流石イセだ!」


「アイ様が召喚した戦士、やはり侮れぬ」


「…………」


 なんか、すごく不敵に聞こえたらしい。

 そういうことならそれに乗る! だってただの嫉妬で言ったってネタバレしたら恥ずかしいもん!


「俺のレンタカーしたハイエースと、お前の神から授けられた炎の剣、どっちの借り物が強いか勝負だーっ!!」


 恥ずかしい気持ちを覆い隠す強い想いで叫んだ言葉は、なんだかとても情けなかった。

 てか、神が授けた炎の剣に、ただの自動車が勝てるわけないだろ!

 あ、一応魔法の自動車だから……なんとかなる? なるかな?


「相手にとって不足なしっ! いくぞーっ!! うりゃぁぁぁ!!!」


 炎の剣を振るうと、炎をまとった斬撃が飛んでくる。

 それがハイエースのサイドミラーを軽くふっとばした。


 え? ハイエースが……壊された!?

 城壁の上から矢を受けても大丈夫だったハイエースの魔法の装甲が!?


「外したか。やはり扱いが難しいようだ。だが次はしっかり当てるぞ!」


 やっぱりハイエースじゃ、炎の剣には敵わない!?


 アイとウルシャがこっちを「大丈夫?」って感じで見てくる。

 俺は首をぶんぶんと横に振った。「だめだめ、これだめだって!?」という気持ちを込めた。


 それを見た2人は、顔面蒼白になったように見えた。


「いくぞーっ!!」


 少し重そうに炎の剣を振り上げるカウフマン。

 ウルシャは剣を抜き、そこに突っ込んでいく。


「ウルシャ!?」


「アイ様! お逃げくださいっ! 私が食い止めますっ!!」


 やっぱりものすっごい献身精神のウルシャは、熱風まで発しているカウフマンに突っ込む。

 その切っ先を、カウフマンは避けて、両手で握っていた炎の剣を片手で持ち直し、本来の自分の剣を抜いて、ウルシャの剣撃を迎え撃つ。


 ウルシャの全力の切っ先は、一瞬で数人の鎧の隙間を切り刻む。

 その剣を、カウフマンは片腕の剣で全て防ぎきり、さらに反撃をした。

 反撃の剣撃をウルシャは紙一重で回避し、下がって距離をとった。


「アイ。カウフマンってやっぱり強いの?」


「剣の腕で衛兵隊長になった戦士。ぶっちゃけ桁違い」


 そこまで強そうには見えなかったが、そういうことらしい。


「炎の剣を、仮にウルシャが手にしても、扱うことすらできないだろう。カウフマンはそれをいきなり抜いて使っている。戦士として力量差だ」


 これはやばいのでは?

 とてもあれに向かってハイエースできる、気がしないぞ?

 鬼たちがハイエースした途端、車内が炎で充満になるんじゃね?

 その前に鬼たち全滅しそうじゃね?


「ど、どうしよう、イセ」


 アイが焦っているのは、ウルシャが危ないから。

 ここは、鬼たちを突っ込ませるしかない!


 そう思って鬼を出そうとしたところで、カウフマンはウルシャと戦いながら言う。


「クオン。この女騎士を止めろ。でないと殺すぞ」


 そうだ、クオンがいた!?

 カウフマンのそばにいたクオンは、ふたりの戦いから少し離れたところにいた。


「どうしたクオン!」


「それはできない相談っすね」


 クオンは刃物(手裏剣? ほんとに忍者?)を、カウフマンに投げた。

 投げたものは、カウフマンの炎の剣に阻まれ、蒸発するように消えた。

 そんなに熱いの!? 魔法みたいなものか?


「なるほど、そういうことか。私が動いたらアイ様を捕まえろと言ってあっても動かないのはそういうことか。裏切り者が」


「裏切りはしてないっす。最初の最初っから、僕はアイ様の間者っす!!」


 クオンは、カウフマンへ迫る。

 炎の剣をかいくぐり、例の格闘術をかけようとする。だが剣にまといつく炎は、まるでその動きがわかっていたかのように、クオンに襲いかかる。

 炎に合気は通じない。クオンは後ろへ飛んで距離を取るしかなかった。


「ウルシャさん! この火、すっごいやっかいっす!!」


「わかってる。ふたりでやるぞ」


「あいあいさっ!」


 ウルシャ&クオンvsカウフマン。


 俺が見てきた女傑2人は、正直どんな相手にも負ける気がしなかった。

 なのに、この炎の剣と、自分の剣を二刀流で構えるカウフマンには、勝てる気がしなかった。


 カウフマンは、剣と炎を振るう。

 個人としての力量だけなら、ふたりでなんとかできるのだろうが、武装の差が大きく、ふたりが追い詰められていく。

 特にクオンの本領は関節技なので、超接近戦にせねばならないのに、距離を縮められない。

 むしろウルシャの足を引っ張っているように見える。

 正直、あのクオンがここまで苦戦するのか? とショックな光景だった。


「ウルシャさん、この人やっつけないと、森が火事になっちゃいますっ」


「火事なら、うちの衛兵隊が何とかするさ。安心して……死ねっ!!」


 戦う3人から離れ、俺に近づいてくるアイ。必死になって訴えてくる。


「イセ、戦ってくれ! 頼む!!」


「……ああ」


 少しだけ、ウルシャさんに言われたように、アイを連れて逃げることも考えた。

 ハイエースなら逃げ切れる。

 そうなったら、ウルシャとクオンを見捨てることになる。

 アイに、その選択はなかった。


「いくぞ……『至高なる(エース・オブ)鋼鉄の移動要塞(・ハイエース)』!!」


 おまえの真の『力』を見せてみろ!!


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