31話 忌むべき力
カウフマンは交渉決裂を認めた後も、まだ話を続けた。
「では、私たちがこの後に戦い、勝者が決まった後の話をしましょう」
「アイたちが勝った後の話?」
「はい」
カウフマンは、ふっと微笑んでみせた。
「もし私がアイ様たちに捕まり殺された場合ですが、衛兵隊にはAI機関を潰すようにと言い含めております」
「なんだと」
「当たり前でしょう? あなた方は、私と衛兵隊を潰すつもりで戦うのではなかったんですか? 私はそうされることも考えてこの話し合いに応じましたよ」
戦場に身を置くことを決めた者の覚悟は、ちょっと尋常じゃない。
それに、同じように戦場に身を置くウルシャとクオンも、カウフマンの言葉に動揺した素振りは一切見せていなかった。
驚いているのは、アイと俺だけ。
「彼らは、オフィリア様を救うためにひとりで向かった私を、AI機関が騙し討ちしたと思うでしょう」
「みんながそんなことするかっ」
「アイ様がそうおっしゃったとしても、彼らはそう判断します。仮にアイ様の言うとおりに考えたとしても、潰すいい口実にとして利用するでしょう」
アイはそれを聞いて、苦虫を噛み潰したような顔をする。
この勝負、勝たなければそもそも意味はない。
公爵令嬢を救い、閣下を殺した逆賊を討つための戦いだ。
だから今、ここでカウフマンを捕らえなければならないし、実行するだけの戦力はある。
だが、その後はどうするのか。
当然ながら考えておかねばならないことだった。
カウフマンの宣言は、むしろ当たり前のことだった。
そのことを失念していたアイは……どうする?
「カウフマン、悪いがそうはならない」
「ほう」
「アイの魔法で、アイの命令をお前の命令と思うようにする」
カウフマンから笑みが消えた。
「できるでしょうね、アイ様の魔法ならば。ですができますか? そのような非道なこと」
アイはぐっと口をつぐむ。
非道と言われたことで、少し悔しげな顔をする。
「人の心を操る行為は、確かに非道だ。酷い。えげつない行為だ」
あ、気づいてたのか。
「だが、アイは変わったんだ。ためらいはあるが使える。目的のためにこの魔法の力を行使する。その覚悟はできている」
カウフマンに向かって、アイは宣言した。
彼が言った戦後処理に対して、アイはそれを潰すと宣言した。
先程の降伏勧告以上の、アイが示した覚悟の宣戦布告と言えた。
「覚悟ができたのは、イセのおかげだ」
え? 俺?
「イセ? 異世界の戦士ですか?」
「そうだ。イセは女の子に性的に酷いことをする『力』を持っている」
「なんと。うちの娘には絶対に近づけさせられんな」
まるでゲスを見るような目を、俺が乗るハイエースに向けてくる。
やめてくれーっ。
「そうだな。とてもじゃないか人前では見せられない、ゲスの異能だ」
そこまで言うの!? 泣きそうなんだけどーっ。
「イセはその『力』に苦しみながらも、アイのために使ってみせた。こんなにも役に立つということを体現してみせた」
アイは、何故か優しげに言葉を続ける。
「前向きに使うことで、お前からオフィリアを救ってみせた」
「……なるほど」
カウフマンは目を細めて俺を睨む。
今まで抑えていたのか、怒気を含んだ敵意を俺に見せた。
自分の計画を潰したり、娘の貞操がやばい相手に向ける目として相応しい感じだった。
すっごい恨みぶつけられそうなんですけど!
「アイは魔法使いだ。イセの『力』と同じような異能だ。魔法は『魔』法。この世界にとって忌むべき『魔』なのは明白。だが、私の魔法も前向きに使うことで、役に立つことができる。そのことをイセは行動によってアイに教えてくれた」
アイがこっちをちらりと見て、にこりと微笑んで、それからカウフマンと向き合う。
少し晴れやかな顔をして見えた。
「だから使うぞ。アイの魔法を、お前の衛兵隊に」
カウフマンから余裕の笑みは消えた。
そして、先程から抑えていた敵意をアイたちにぶつけている。
「で、その魔法は私にも使うつもりですね」
「そうだ」
「どう洗脳なさるおつもりですか?」
「反省してもらう。猛省してもらう。公爵閣下を殺してごめんなさいと深く反省してもらう」
「してますよ。反省しています。このやり方で、まさかここまで追い詰められるとは思ってもみませんでしたから。本音ですが、私に敵対する者たちを舐めてました。ここまでするのは私しかいまいと思ってました。ですが、いたんですね……今、私の目の前に」
ウルシャがぴくりと体を動かす。
柄に手をかけないが、鞘を押さえる手が動いた。
「私はやるべきことを間違えました。まずはアイ様、あなたを何とかすべきでした。まさに反省です。魔法は効いてますよ」
「そんな魔法はかけていない」
「では、そのイセという異世界の戦士の魔法ですかね」
「ならまだまだだ。イセの『力』はそんなものでないぞ」
「でしょうね。女性にとって性的に酷いことでしたっけ? だからこそ……」
カウフマンは、腰の剣に手をかける。
同時にウルシャも柄に手をかけ、腰だめに構え、クオンも動ける姿勢を作る。
一触即発の緊張状態が、一瞬で生まれた。
俺もブレーキから足を離そうと、右足をすぐ浮かせられる用意をする。
ウルシャのハンドサインは、待て。
行け、という指示を出す直前サインが出ている。
「歯がゆいですが、私もこいつを使わざるを得ない」
剣を抜こうとする瞬間に、いつでも飛び出せるようにする。
だが、俺には見えた。
カウフマンの手が、剣ではなくその剣を吊るすベルトの隙間から、何か別のものを取り出そうとするのを――
「切り札にしたいなら、使う直前まで隠しておくものだ!!」
カウフマンは剣を抜くよりも早く、それを引き抜いた。
突然の行動に、ウルシャもクオンも一瞬出遅れた。
やっぱり、何か切り札持ってた!?




