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15話 初HA

 ぎりぎり通れる街道を、結構なスピードで走る。

 道を歩いている人に驚かれながらも、できる限り速度は緩めず、大通りに出る。


 大通りには、衛兵たちがいた。

 まだびっくりしてて、対応できていない今のうちに、大通りから見える広場へ向かう。


「あの辺!! あの辺から出てくるぞ!!」


 アイが指さすあの辺は、今向かっていう広場の一角。

 そこに向かってアクセルを踏む。


「これ、説得する余裕ある?」


「な、ない。どうしよう」


 この状況だと、急ブレーキ後に扉を開けて、そこに飛び込んでもらって扉を閉めて、急発進しかないだろう。

 でないと、衛兵たちに止られてしまう。

 となると、やれることはひとつ。


「俺に任せろ」


「えっ、それってひょっとして……」


「こんな時は、それしかないだろう」


「……ほんとはしたい?」


「んなわけあるか! 苦渋の選択だ」


 ほんとはちょっと楽しんでいるのはわかっている。

 中世ヨーロッパな石畳の街道を自動車で爆走し、女の子を救うためにかっさらうなんて体験、できるとは思ってなかった。

 しかも、このハイエースは自分の『力』として発現したものだ。

 走れば走るほど、まるで手足のように動くのを感じる。

 『力』を発揮するのは楽しい。これが偽らざる自分の心境だ。


 訂正。ちょっと楽しんでいるのではなく、かなり楽しんでいる。


「しかたなかったんだ」


「嘘だ。わらってる」


「それもしかたないんだ」


 アイにも、今が緊急事態とわかっているのだろう。

 こっちは本当に苦渋の選択という感じで口にする。


「できる限り、痛くしないでやってくれ」


「初めてだから、こっちもそこまでの余裕はないけど、頑張ってみるよ!」


 聞きようによってはあやしい会話をしているが、こっちは真剣だ。


「いくぞ! アイ、しっかり捕まってろ!」


 アイが衝撃に備えるように両手でシートベルトを掴むのを確認したあたりで、広場にたどり着き、アイが示した広場の出口で急ブレーキをかけた。


 車を止めたと同時に、窓から見えたこっちに向かってきた女の子。

 そしてその後ろを走っている衛兵たち。

 全員、ハイエースの前で止まって、同じような顔をしてこっちを見ている。


「「「「これは何?」」」」


 全員の心の声が一致しているように見えた。


「アイ!」


「オフィリアだ! 助けてやってくれっ!!」


 一瞬で、アイが彼女の救済を願う声をあげた。

 このために、俺たちはここまで来た。

 アイは、そのために俺を召喚までした。

 その想いに、今ここで俺の『力』で応える。

 そう感じ、思った瞬間、自分の中で爆発するかのように魔力がほとばしり、外へ向かう。


  『人喰い(オーガ・)鬼の分隊(スレイバー)』!!!


 アイの叫び終わりと同時に、顕現した鬼たちがハイエースを飛び出す。

 以前見た時よりも、明らかに力強いそいつらは、動きも疾風のようだった。


 後部座席から先に跳び出した二匹が、オフィリアの背後に迫る衛兵を雑草でも引っこ抜くように縊り殺し、さらに腕を振り回しただけで、そこに立っていた衛兵たちは街路に伏した。

 その二匹が彼女の背後で死の暴風を撒き散らしている間に、一匹の鬼が彼女の側面に立つ。


「――ひっ!?」


 オフィリアが軽い悲鳴を出すと同時にお姫様抱っこされ、流れるように車内に入ってきた。

 衛兵たちがやられて、倒れるのとほぼ同じ瞬間だ。


 俺はあまりの速さに驚きに目を見張る。

 そんな刹那の間しかないくらいのスピードだ。


 だから、その後に行われることを止めるのが遅れた。


 気づいたら、後部座席は閉まり、広い車内に屈強な鬼が三匹。

 女性にしては背はある方に見えるオフィリアの体を押さえつけている。


 そして、服の首元にぶっとい指をした大きな鬼の手がひっかかって、今にも力が込められ――


「ストップ!! マジでストップ!!」


 俺は慌てて止めた。

 ピタリと止まる鬼たち。


「……はぅ」


 その鬼たちに見つめられながら、オフィリアは気絶した。


「…………」


 今、目の前で行われたことに、目が奪われる。

 アイが助けてと叫んで、すぐのことだ。

 あまりにもとんでもなく速くて、ことが終わって呆然とする。

 どっと汗が出るほど、心臓がばくばく言ってる。


「ふ、ふぅ……助かった……しかし、危険過ぎるぞこれ……」


 あやうく、鬼たちによるレ○プショーが始まるところだった。


 だが、これが鬼たちの行動のテンプレートなのだ。通常行動なのだ。


 ワゴン車の後部座席という荷台みたいな空間から跳び出した鬼3匹は、跳び出した先の美少女を捕まえて車内へ連れ込み、その屈強な肉体で力無き少女の体にひどいことをするための存在なのだ。


 アイも俺と同じように、疲れた顔をしていた。

 まだ若いのに背負う気苦労にやられたのだろう。心の底から同情する。


「よし、急ぐぞ。目的は果たした」


 俺はハイエースを走らせる。

 まずはこの城下町を出て、そのままとんずらだ。


「公爵令嬢は救い出した。良かったな」


 俺がやってみせた行動を、頑張って自画自賛してみるが、助手席に座ったアイは少し顔が引きつっている。


「……すごいな」


「ああ。すごいぞ、これ」


「誘拐してレ○プする能力とか、最低すぎる」


「言うな! 使い方次第なんだよ!!」


「そうかこれがハイエースか。聞くと冗談だが、見るとほんとひどいな」


 まったくその通り過ぎて、ぐぬぬと押し黙る俺。言いながらも唖然としているアイ。


 わかっている。俺は、この異世界でやったことは、ハイエース。


「……俺、異世界でハイエースしました」


「おぬしの元いた世界ではいいのかもしれないが、ここでやったら犯罪だからな」


「元いた世界でもそーだよっ!」


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