119話 人外の『神器』
「ならん。『竜』は滅ぼす」
いきなり違うところから声がして、ハッとそっちを見る。
俺は気付かなかったが、近くまでキルケが来ていた。
気付かなかったのは俺とアイだけで、ウルシャもクオンもカウフタンも、そしてケアニスも気付いていた様子で、キルケと鬼王の両方を伺っている。
「ははっ、できないことを口にするな天使ども。お前らじゃ無理だ」
鬼王が笑う。
その瞬間、キイイィィンという金属音が鳴る。
キルケのまとう黄金の鎧が鳴っている。
「お前がうそぶく対抗策。我々にはあるぞ」
「ほほう。ならば見せ合いっこでもするか。男の子だもんな。力ってのは自慢しあってなんぼだ」
まるで俺の筋肉の方がすげぇよ? と言いたげなノリでいう鬼王。
キルケの殺気を、むしろ楽しげに受け止めている。
彼らが何故ここまで自信満々なのかが今わかる。
この両者の存在感は、あの『竜』と同格かそれ以上だ。
「なんすかこれ……」
「すさまじいな……これが人外の『神器』……」
クオンとカウフタンが、恐れおののきつつも口元がにやける。
支援とはいえ、こいつらと一緒に戦うことは、どうやら戦士ふたりにとっては喜ばしいことみたいだ。
なんとなくウルシャも興奮しているように見える。
「ではどちらから力自慢をしますか?」
仲裁役でも買って出たように、ケアニスが聞く。
「じゃ、俺から見せてやるよ」
どう見せるのか、という話が始まる前に、鬼王は歩いて亜人の部下たちの方へ。
そして何かしら話している。
言葉が分からないのは、彼らの言語で話しているからだ。
「……なるほど」
ケアニスがつぶやく。
「なんて言ってた?」
「『竜』を町の外に連れ出すから、ここに待機しておくようにだそうです」
ケアニスに何を話していたのか聞いた直後、鬼王は俺たちに手を振った後、走り出した。
その後に続くように、キルケが飛び立ち、続いて天使たちも空から追いかける。
「俺たちはどうする?」
「追うぞ。イセ、出してくれ」
鬼王と天使たちの移動スピードは速いが、ハイエースなら十分に追える速さだった。
帝都に入り、大通りを行き、宮殿へ入る。
舗装されていない道路も、でこぼこさをまるで感じさせることなく走れるハイエースは、道幅さえ確保できれば階段すら勾配のある坂くらいの認識で走り抜けられる。
だから、あっさりと目的地に辿り着いた。
宮殿の中央付近にある中庭――『竜』の寝床。
少し前に、シガさんらと合流する前に、ここでアイたちと一緒に『竜』と話そうとした。
だが話せなかった。
話にすらならなかった。
『竜』は、俺たちが来たことに気付くが、気付いただけだった。
話しかけても、ずっと無視し続けていた。
だが、今度は少し違う。
アイとケアニスというふたりの『神器』は話し合いに来ていた。
今回、表に立って正面にいる鬼王とキルケというふたりの『神器』は、戦いに来ていた。
『竜』は、ふたりの危険な存在から、敵意を真っ向に受けていた。
「よお、久しぶり。元気か?」
話しかけるが、『竜』は鬼王を見ているだけで無言。
「話になんねぇな。部下連れてこなくてよかったよ。王が無視されたとあっては、面目丸つぶれだからな」
鬼王は笑ってそう言い、それからまるで格闘技でも始めるかのように構える。
武器らしい武器は持っていない。
亜人は体の強化をする術を持っているというが……
「じゃ、先陣は俺だ」
それだけ言った途端、屋根にいるケアニスがコンコン叩きながら叫ぶ。
「下がって!!」
言われた途端、ギアをRに入れてアクセルを踏んで、バックで離れる。
そして、離れて正解とわかるほど、鬼王から爆発したかのような圧力が車体を震わせた。
「よく見ててください!! あれが鬼王の『剛術』です!!」
『竜』への対抗策と言っていた鬼王の『力』を見られるのが嬉しいのか、ケアニスの嬉しそうに弾んだ大声が、目の前で繰り広げられた『剛術』の効果と、全然合ってなかった。




