118話 鬼王の不快
「一応ほら、俺も『神器』同盟の一員だからさ。体くらい張るさ」
「このがらけーっていうのが壊れても、師匠は別に死なないだろ?」
「あ、うん。そうだった」
「それに裏切っておいて、いまさらだぞ。もはや『神器』同盟の体をなしてない」
「その件に関しては謝罪しかないが、私としては次善の策で少しでもイセを生きながらえる手を使ったつもりだ。もし私がこうしていなければ、ただ単に『竜』との戦いに巻き込まれていたぞ」
「裏切り者はいつもそうやって自分を正当化するんだ。覚えておけ、師匠」
「うーん、全然ありがたがられてないな」
そりゃ当たり前だろうって思う。
いくら自分のためとはいえ、自分の意図の外から大上段にやられて愉快なやつなどいない。
むしろ、この場でそのガラケーを壊されても文句言えないのがシガさんだろう。
「それでどうするのですか? 支援と言いましたが、『竜』を相手にいったいどんな支援ができるんでしょうか」
カウフタンが言うと、それが聞きたかったとクオンも身を乗り出した。
「その辺は、さっき師匠から聞いた。まあ無茶ぶりだがやるしかないだろう。アイの魔法と、イセの『力』で『竜』の動きを止める。イセの方はすぐだろうが、アイの魔法は時間がかかる。その間、ケアニスと一緒に守ってくれ」
アイの明確な指示に、カウフタンとクオン、そしてウルシャがうなずく。
「で、作戦なんだが……」
「師匠、待て」
シガさんが言いそうになった時に、アイが止めた。
鬼王が、部下の亜人たちから離れ、こっちにひとりでやってくる。
「ちょっといいかい?」
そう言いながら、アイやシガさんに話しかけると思ったら、俺のところへまっすぐ来た。
存在感の圧に押されて、思わず一歩下がる。
「このオーガたちって、キミが操っているんだっけか」
嘘をついてもしょうがないのでコクコクとうなずいた。
「ふーん……これ、ただの亜人じゃない。魔素を固めてオーガの形にしただけのような、不思議な存在だな」
「そう、なんですか?」
「理屈がわかってこうしてるわけじゃないか……ひとつ忠告しておこう」
鬼王は、大きな体で俺を見下げる目に不穏な光を宿らせる。
「これ……亜人たちにとって不愉快極まりないんだ」
ぞくっと鳥肌が立つほどの怒気が、俺の体を覆い尽くした。
それに気づいたカウフタンたちが、武器を抜こうとするが、そこで止まる。
ケアニスが、皆を制したからだ。
「足並み揃わない上、戦う前に争い事は止めませんか?」
「止めてるよ。本来なら俺も部下を押さえず、自ら殺してる。それを止めてるんだ」
言いながら、俺の方を見続ける鬼王。
「それに教えてやりたくて。なんで不愉快なのか」
「どうしてですか?」
思わず敬語になって聞いてしまう。
「亜人って呼ばれてる俺たちは、そう呼び始めた人間たちの言うことを聞くのが大嫌いなんだよ」
鬼王は、そばにいる鬼の頭を掴む。
「人の言うことを聞くだけのオーガなんていう矛盾した存在、気にならないわけがないだろ」
言いながら、握力で頭を潰しかねないくらい、敵意がむき出しになっている。
鬼たちは、主人である俺の危機でも察したのか、取り囲むように鬼王に視線をぶつけている。
一触即発の状況が出来上がってしまった。
「鬼王。そこまでにしてくれ。それよりもお前たちの『竜』対抗策をそろそろ教えてくれ」
「シガースちゃんには伝えてるだろ。俺だよ」
「だからそれが分からないんだって」
「俺が、『竜』をボッコボコにして舎弟にするんだ。それ以外にない」
「力でねじ伏せる? てっきり魔法でも使うのかと思ったが」
「あれは難しい。召喚術ですら、出てきたのがあの『竜』だ。あれでもう諦めたよ」
ようやく彼から敵意が消え、ガラケーのシガさんと話す方に興味が行ってくれた。
どっと疲れた。
「ただ、あの『竜』は俺のものにしたい。そのためのいい機会だ」
鬼王は嬉しそうに笑う。
その笑顔がまた心底怖かった。




