117話 足並みそろわず
「で、どうするんだ? どうやったら退治するんだ?」
アイが聞くと、半笑いのシガさんの声が聞こえた。
「私にはそっちの様子はわからない。現にほとんど話さないキルケが近くにいるのかさえもな」
「偉そうに言うことじゃないでしょ。キルケちゃん呼んでるよ」
言いながら、鬼王がキルケに話しかける。
「我々は我々で動く」
「おいおい」
「ま、俺たちもだ。こっちは俺以外、お前たちとの共闘に納得してないんだ」
「えぇー」
「いきなり仲間割れですか」
そこに口を挟んだのは、ケアニスだ。
「我々は、私くらいしか『竜』と戦える者はいません。アイさんもイセさんも戦闘そのものには参加しませんから」
「そっちはそれでいいさ」
鬼王は手を振って、亜人の部下たちとその場を離れた。
同じように、キルケたちも離れる。
それぞれ作戦でも話しているのか、意見交換し始めた。
シガさんのガラケーのそばに残ったのは、俺たちだけ。
「まとまりないな」
「今更、師匠が言うな」
「うーむ、面目ない。うちに集まった時は、うまくまとまったんだ。『竜』をなんとかしたいって気持ちだけは同じなんだが、いざとなったら欲が出るな」
集団行動あるあるネタみたいだ。
『竜』を倒すという目的は同じなれど、その意味も意図もそれぞれ違う。
結果、個々の力が強いだけの烏合の衆に。
それでも、通用しそうな個の力があるぶん、かなりましだが。
「アイ、ちょっといいか?」
アイがシガさんに呼ばれて、ガラケーがスピーカーモードから通常の電話と同じように使い始めた。
護衛につくウルシャとクオン、そしてキルケへ話しかけにいくケアニス。
俺とカウフタンだけ残されて、皆の様子を見ていた。
「カウフタンは、戦いに参加したい?」
「当たり前だ。この錚々たるメンバーが共闘だぞ。それも『竜』を相手に……まるで神話の戦いだ。心踊る」
意外とやる気満々だった。
「だが、これだけいたとしても、あの『竜』に勝てるかどうか……」
カウフタンがみつめる自分の握りこぶしが微かに震えている。
武者震いと同時に、恐怖の震えでもあるんだろう。
「お前は冷静だな。そんなにあの『力』に自信があるのか」
「実感がわかないだけ」
天使同士の戦いを見た後だと、さらには圧倒的な存在感を放つ『竜』を見た後だと、どっちも強すぎて測りきれない。
それでも、戦わざるをえないのはわかる。
とてもこのメンツから逃げられる気がしない。
「イセ、カウフタン。ちょっといいか?」
アイたちが戻ってきた。
そこにさらにキルケの元から、ケアニスが戻ってくる。
「アイたちは『竜』と戦う彼らの支援をすることになった。だが全員じゃない。クオンとカウフタンは戦いの影響がないところまで下がって待機だ」
「僕も行くっす」
「私もだ」
ふたりはケアニスからもらった黒い羽を見せる。
戦うための武器はある、という主張だ。
「わかった。ならアイと共にイセの自動車に乗り込め。指示あるまで車内で待機だ。そしていざとなったらイセの盾となれ」
クオンとカウフタンはうなずいた。
それからアイはウルシャを見る。
「ウルシャはアイのそばから離れるな」
「了解です」
彼女は何もいわなくともそうだろう。
そして、俺のことも守ると言った。
性格からして、本当に実行してしまうだろう。
俺が自分の身を守るのは、ウルシャたちに無理をさせないという意味ができた。
「『真力』の使い方は大丈夫ですよね」
カウフタンは一度使ったことがある。
クオンとウルシャは、真力の使い手であるケアニスとの手合わせで、真力の武装の特徴を教えてもらっていた。
大丈夫だろうということで、3人はうなずき、その反応をケアニスも信じてわかりましたと答えた。
「私はハイエースの屋根にでも待機してましょう。どうやら私が前へ出なくても、天使も亜人も前に出たがるでしょうから」
どうして? という俺の疑問が顔に出ていたのか、ケアニスは苦笑して応えてくれた。
「彼らは根っからの戦士です。だからこそ力で抑えつけられた現状に不満で仕方ない。『竜』退治はどちらにとっても悲願なのです」
「ケアニスの言うとおりだ」
今ここにいる俺たち以外の方から声がした。
サミュエル卿の部下が、シガさんのガラケーを掲げながらやってきた。
そしてその部下は、ガラケーをアイにわたす。
アイも、得に疑問を持たず受け取った。
「師匠もこちらに合流する」
アイは少し不満げにそう言った。




