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115話 幕間 その2

 時間は遡り、アイたちから『竜』と交渉しにいくという連絡を受けたサミュエル卿とシガースは、結構深刻に困っていた。


「危ないですね」


「わかってるねサミュエルくん」


「『神器』同盟の危機的状況です。このまますんなり行かせたら、今後の作戦に支障が出ます」


「そう。そしてアイたちはわかっていないのがなぁ」


 シガースも『神器』であるから、『竜』が『神器』であることは百も承知。

 だが、帝都を占拠し、そこに居座り続ける『竜』は、他の『神器』と比べても常軌を逸している。

 まず会話が通じない。

 そして、何故帝都を占拠しているのかが不明。

 それでいて、実力を持って帝都から追い出すことができない。

 今、この世界で暮らす者たちの中で『竜』に対抗できる存在がいない。


 そんなものを相手に交渉? 冗談じゃないというのがシガースの本音だ。


 どこでどう、『竜』の逆鱗に触れるかわからない。

 現に、皇族や貴族、それに町の人々は、何もできずに帝都から追い出された。


 その『竜』に、アイは会いに行くと言い、場合によっては事を構えるとまで言う。


「『竜』によってイセ殿という『神器』同盟で最も重要なカードを無くす可能性は極めて高いです」


「この提案をしたのって、ケアニスみたいだな。守りきれる自信があるのはわかるし、本気を出してないだけとはいえ、亜人たちをひとりで食い止めていた実力も認めるところだが……」


「危ない橋を渡らせるのは避けたいですね。『竜』に会いに行くのは許さないという話をしましょう。いざとなったら私が直接出向きます」


「そこまですれば止まるって? あのアイとケアニスだぞ? サミュエル卿が動く価値をどこまでわかっているか疑問だね」


「……あぁ、それはわかります」


 自分のやり方が通用しないことへの絶望を感じさせる吐息をサミュエル卿は漏らした。


「子供なんだよ。目の前に捉えたものにしか価値を見出さない子供だ」


「価値を循環させる商売人とは対極ですね。しかしなんとしてでも止めなければ」


 シガースは、サミュエル卿が部下を呼ぼうとしたのに待ったをかけた。


「ちょっと待ってくれサミュエルくん。ここはひとつ、お互いにどれほどの価値を、彼に見出しているかの摺り合わせをしようか」


「イセ殿の価値、ですか」


「うん。私は……イセくんというカードは、意外と使い捨てなんじゃないかと思っているんだ」


「彼は『神器』同盟の要ですから、切り捨てる時は同盟が立ち行かなくなる時と考えてましたが……使い捨て?」


「果たして、彼というカードを使える時が来るのか? いや、それ以上に、我々がずっと持ち続けることができるのか?」


 それを聞いたサミュエル卿は、はっとして見せた。


「天界の真力にも対抗しうるという『力』に対して、あのキルケ様が黙り続けられるわけがない。現にエジン公爵領の城下町近くで、派手な交戦があったと報告がありました」


「あの時はケアニスが撃退した」


「だがそれも自ずと限界はくる、と」


「そうだ。個としてのケアニスはずば抜けているが、相手は天界だ。『神』を失っても天界であり続けた連中だ。そして彼らを率いるのが天使長たち」


「ケアニス様の力だけでは、いつか限界がきますか」


「その時は、あまり遠くないだろうね。そこまでの『神器』同盟だ」


 サミュエル卿は部下を呼ぶベルを置き、腕を組んで深く考える。

 無くす可能性が高い戦力が、今手元にある。

 同盟の敵である天界に、何らかの手が今なら打てる。


「……シガース様。どうすることを考えたんですか?」


「教皇庁の天使たちに即連絡」


「それだけですか? まだありますよね?」


「魔境城塞が実質サミュエルくんの管轄になったからこそ可能なことだ」


「まさか……亜人連盟にも声をかけると?」


「鬼王を誘い出そう」


「本気ですか?」


「大マジだよ。愛弟子を助けるためだ。使える手はいくつあっても足りない。何せ相手はあの『竜』だからな」


「それは逆ですよ。『竜』退治のために、アイ様を犠牲になさるつもりですか?」


「その逆だよ。『竜』退治という名目で、アイたちの犠牲を最小限に抑えようっていうんだよ。それに……このままではとても危ういハイエースを救う可能性を高めるためでもある」


「で、鬼王ですか」


「ああ。あの噂が本当なら、亜人連盟も動くぞ。彼らがいれば天界へのいい牽制にもなるから我々『神器』同盟にとっても好都合だ」


 つらつらととんでもないことを話すタブレットに向かって、サミュエル卿はため息を吐く。


「博打打ちとしては、最低ですよ、これ」


「でもやらざるを得ない。そう考えているだろ?」


 からかうような声に、サミュエル卿はまたため息をつく。

 そして今度こそ、部下を呼ぶベルをつまんだ。


「やってみましょう」


「話が早くて助かるよ、サミュエルくん」


「恐れ入ります。では、我々で鬼王の『竜』への対抗策の噂の真偽を確かめましょうか」


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