114話 共闘の提案
「師匠、アイたちに戦えと?」
「まあ、そうなんだが……そんなにやる気ない?」
「ないぞ」
アイのにべもない返事に、俺たちは安堵し、鬼王は呆れたため息を吐いた。
「シガースちゃん、だめじゃん」
「うーん、鬼王さまは説得できる?」
「アイちゃんたちの? んー、そっちは?」
そっちと言い、視線を向けたのはキルケたちの方だ。
彼らは不機嫌な様子を崩さず、話にはのらない素振りで言う。
「無理なら私たちだけでやるまでだ」
「はっはっは、まさかそこまで傲慢でもないでしょう、キルケちゃんは」
ご冗談をという感じで笑い出す鬼王。
「時期を見て、情勢を見て、動いていたからこその今の天界がある。その動きを作っていたのが天使長様だ。自分たちだけで『竜』を倒したとしても被害甚大。我々やシガースちゃんたちに追い打ちかけられたら目も当てられない。そういうのは今やることじゃないでしょ」
相手に敬意を払いつつも、どこか上から目線で柔らかく語る鬼王に、シガさんが言う。
「相変わらず上手いもんですね、鬼王さん」
「上手いものか。失敗だらけでまいってるよ」
「まあそうだな……あの『竜』は鬼王さんが召喚したものだしね」
え? ええっ!?
声も出ないほど驚き、鬼王を見るのは……俺だけだった。
「お? あれ? みんな、知ってる?」
「おっと。俺の大失敗を知らないのがいるとは。相当なモグリだな」
「お前が言うな。イセには教えてなかったな」
アイが鬼王を指さして言う。
「あそこにいる『竜』は鬼王が帝国を攻め落とすために召喚した異世界の『竜』なんだ」
「攻め落とす……」
「そうそう。でもまさか召喚主の言うことまったく聞かずに、あそこまで勝手に動くとは思わなかったんだよ」
「魔法も使えずに召喚術を使うからそうなる」
「じゃああれか。アイちゃんは召喚した彼に手綱でもつけてるの?」
「そんなものはない」
アイはこっちを見て、それから鬼王を見てにやりと、どちらかというとドヤッと笑顔をつくる。
「イセとアイは、信頼関係で結ばれているからな」
「ほほう。そうなの?」
俺に聞いてくる鬼王。
この人、っていうか鬼、人懐っこい顔してるけど、さっき見た『竜』みたいに強い存在感そのものが威圧してくる感じが強いなぁ。
「ま、まぁ……」
「ふーん。とんでもない『力』を持っている割には、自由にさせてるんだね」
「当たり前だ。アイは魔法で強制は好かないからな」
「俺だってそうだよ。だからああなっちゃったんだけどさ」
ああ、と帝都の方を見て言う。
「って、強制されてないなら、なんでアイちゃんの言うこと聞いてるの?」
ずかずかと近付いて顔を覗き込んでくる鬼王。
人の大きさ的には大男に部類する彼が、近付いてくると圧がすごい。
「あの『竜』を押さえられる『力』があるんだろ?」
「えぇ……」
「違うの? そもそもこの作戦は、君の能力が通用する可能性が高いから立てられたものだ。ねぇ、キルケちゃん」
「いや、違うな。私たちは、お前の力が『竜』に通用すると聞いたから来た」
キルケが言うお前とは、鬼王のこと。
あの『竜』に通用する力?
「そのために準備してきたんだ。通用するだろうね」
「どういうことだ……師匠」
「聞いての通りだ、アイ。彼らは『竜』退治のために集まってもらった」
「師匠!!」
いきなりアイが激昂する。
その理由は俺たちにはわかる。
「これは裏切り行為だ。アイとケアニス、そして師匠との『神器』同盟の破棄か?」
「違うな、アイ。これは我々の同盟と天界、そしてそこに亜人連盟との共闘だ」
「共闘だと!?」
アイはケアニスの方を見るが、彼は肩をすくめた。
ケアニスもこの件は聞いていないのが今のでわかった。
「先手を打たせてもらった。我ら同盟には『力』がある。アイの魔法、ケアニスの真力、そして……イセの『力』」
「天界と亜人同盟に匹敵する『力』が集まった。今なら『竜』をなんとかできる戦力がここに集結した。だからあとは、アイとケアニス次第だ」
先手とはそういうことか。
俺たちがイエスと言えば、共闘が成立する状況にしたということか。
そしてこれは、半ば強制的なものだ。
断れば、キルケと鬼王が何しでかすか分からない。
自ずと選択肢は限られる。
「……やはりサミュエルの二代目とシガース殿は、侮れない」
カウフタンが苦い顔をした。
まったくもって同意する。
「師匠。わけを聞かせてくれ。それを教えてくれたら、乗らなくもない」
「おっと、譲歩してきたよ。シガースちゃん、話しちゃえば?」
「そうだな。話すか。まあもともと話すつもりではあったがな」
シガさんは話し始めた。
時は遡り、帝都へ行くというアイの連絡を受けた直後のサミュエル自治領でのことだ。




