109話 帝都へ出発
帝都の『竜』へ接触するというミッション。
まず行くメンバーたちで、準備をする。
一番、準備に時間が掛かったのは、隊長代理職のカウフタンだった。
それでも、数日で終わらせたのは、カウフタンの能力の高さと、彼女を支える者たちのおかげだろう。
カウフタンにとっては不満だろうが、妻のステファニや切り込み隊長のセディ等、カウフタンを慕う者たちは大勢いる。
それが不満っていうんだから、まったく欲深いなと思う。
思っただけで、何故か睨まれたりするから、カウフタンの感知能力は侮れない。
そして、帝都へ向かう出発の日。
夜のうちに移動ということになり、城下町の外に主だった者たちが集まっている。
公にするようなものでもないので、機密性を優先して、見送る者たちも少ない。
まず行くメンバーは、俺、アイ、ウルシャ、クオン、ケアニス、そしてカウフタン。
見送るのは、オフィリアと側近、そしてステファニとセディだ。
このような出発になることを想定している俺たちに対して、オフィリアたちはあまり心配していない様子だった。
一度、魔境城塞を守る天使ケアニスと会いに行くといって、結果的には成果をあげて戻ってきている俺たちだ。
信頼されているのだろう。
だが、そんな彼女たちでも、カウフタンに対しては別だった。
「隊長代理、ご武運を」
戦士の礼を取るセディ。
「必ず戻ってきてください。カウフマン隊長と、あなたまで戻らなかったら、衛兵隊は本来の力を発揮できませんから」
「ああ。留守は頼んだぞ。セディ」
「はいっ!」
感極まった様子のセディ。
初めて見かけた時と比べて、素直になった印象がある。
なんというか……忠犬的な感じ?
その様子を見ているオフィリアとステファニも、その様子を少し残念そうに見ている。
頼もしさはあるけど、男としてはちょっと……みたいな。
異世界世界にまできて、いい人だけど男としては見られない的な様子を見ることになるとは……
どこも世知辛いみたいで。
「あなた。ご武運を」
「うん。必ず勝って帰ってくる」
「命を大切になさってください」
「ああ」
「武人の妻としては武功をと願うべきでしょうが……私はあなたが生きて戻ってくるだけで十分です。必ず、戻ってきてください」
カウフタンの目尻にじわりと涙がたまる。
男から女になって戻ってきた自分を、快く受け入れてくれた愛する妻の優しさに、感動しているのだろう。
カウフタンは、ステファニに抱きつく。
彼女の方が少し背が小さいので、若い母か姉にでも抱きついているかのように見える。
そしてカウフタンは、セディには聞こえないように小声で妻に言う。
「ステファニ。我が愛する妻よ。私は必ず、必ず……男に戻ってみせる」
「…………」
「何故そこで黙るのだっ!」
「……よしよし」
頭を撫でるステファニ。
可愛がられているけど、可哀想という不思議な光景だ。
そして悔しいけど、妻の優しさが嬉しそうなカウフタンにも、ちょっと萌える。
「よーし、それじゃ出発するぞー」
車旅行にでも行くかのような気楽な声で、アイが宣言し、俺たちはハイエースへ乗り込み、帝都へ旅立った。
6人乗ってもスペースは広々なので、皆くつろぎながらの旅だ。
舗装されていないデコボコ道も難なく進む。
「ところで、帝都まで行くとして、行ってすぐ『竜』に会えるのか?」
『竜』と言えばラスボス。
やっぱりたどり着くまでに、数々の障害を乗り越えるとかあるんだろうか?
他にモンスターはいたりしないのだろうか?
「この件は、すでにサミュエル卿のところへ連絡を入れて、師匠にも相談している」
「まあそうだよな。一応同盟としての動きになるか」
「ああ、だからサミュエル卿も手を貸してくれる。帝都近くについたらまた連絡を入れることになっていて、帝都内の今現在の情報をくれるそうだ」
やっぱり、サミュエル卿ってめっちゃ優秀な人みたいだ。




