110話 不穏な『神器』同盟
夜のうちにハイエースを快調に飛ばす。
昼間は自分が休むので、今のうちに何人かは寝ておいてと伝えると、まずアイとケアニスがすやすやと寝始めた。
その様子を見て、カウフタンが苦笑している。
「『神器』となる方々というのは、こういうものか」
「器がでかい?」
「肝っ玉が座っているな」
そう言いながら、カウフタンも座席に丸まって休むような姿勢になった。
ウルシャとクオンは、アイの護衛なので交代で仮眠をとるつもりのようだ。
今回はサミュエル自治領よりも少し遠い。
エジン公爵領から離れて、皇領へと入り、首都へ行く。
徒歩や馬なら結構掛かる旅程だが、ハイエースなら飛ばせば1日。
だが、夜のうちしか動かせないので、皇領の外れにある町の近くでハイエースを隠した。
アイが言うには、その町でサミュエル卿の使いと会うそうだ。
「ハイエースでやっとってところに、人を派遣できんの?」
「わからん。ただ連絡手段はいろいろ持っているんだろ? 師匠もいるし」
なるほど、シガさんの入れ知恵もあるのか。
ますます、サミュエル卿って侮れないんだけどな。
帝都が『竜』に占拠されて以来、帝都に住んでいた人々は周辺の町や村に移り住んだ。
だからか、全体的に人が増えて、その人たちが困らないような体制づくりが急務となり、町は意外と活気がいい。
だから意外と目立つ俺たちだったが、人ゴミの中に紛れることができた。
そして指定された宿で、サミュエル卿の使いと合流した。
いきなり現れた俺たちに、使いを名乗る者も緊張気味だった。
『神器』と直接会うというのは、相当レアなケースらしい。
「私どもは、帝都の情報をお伝えすると、サミュエル卿から伝え聞いております」
「そういうことか。なら教えて欲しい」
アイの代わりに受け答えしているのはカウフタンとウルシャだ。
今の帝都がどうなっているのか。
『竜』は帝都ではどうしているのか。
そのあたりの情報を教えてくれた。
さらに、サミュエル卿は人がほとんどいない帝都に間者を送り込んでいるらしい。
『竜』に気取られないように、忍ばせて帝都の変化を逐次伝える係らしい。
彼らは俺たちの前に姿を表すことはないが、見守って、いざとなったらアイたちを助けるようにと言い含められているとかなんとか。
そんな話を聞き、俺は昼間のうちに睡眠を十分にとり、夜にまた移動の準備をする。
帝都の様子を聞き、帝都のそばにハイエースを隠し、鬼にローブをかぶせて2体ほど同行させる形で、全員で『竜』の元へ行くという作戦となった。
「意外と簡単だな。帝都に人がいないのが助かってるのかな」
「いや、サミュエル卿のおかげでしょう。大した方ですね」
ケアニスが感心してみせ、それにアイもうんうんとうなずいて応えた。
それに対して、カウフタンとクオンが待ったをかけた。
「警戒は怠らないようにお願いしまっす」
「だな。サミュエル卿の出方は、少し……親切過ぎる」
「というと?」
「わからない。アイ様とケアニス様の行動を援助することで彼にとってプラスになるなら、これくらいの支援は妥当かもしれない。だが、ここまで事を早急に動かそうとするこちらの動きを、まるで止める様子も、様子見をするところもない。『竜』の情報を掴んでいるから止めないのか、掴んでないから止めないのか……とにかく、事をスムーズに進めようとし過ぎている」
「そこまでは読めなかったっすけど、普通はもう少し慎重になるところっすよ。未知の驚異に近付こうとするんすから。先遣隊を先に出すとか、それくらいのことをしてもおかしくないっす」
「それが、帝都にいる間者じゃなくて?」
「責任者を送る前の事前交渉くらい、サミュエル卿ならしてるはずっすよ」
「おっ、ということはすでに『竜』と話をつけている?」
「可能性はあるかもしれないっすけど……」
「クオンとカウフタンの懸念もわかる。サミュエル卿と師匠が何を企んでいるのかわからん。だが、こちらとしては好都合なんだ。『竜』に会いにいけるわけだからな。ケアニスとイセのいるこのタイミングしかないと判断したんだろう」
「だからこそ、警戒は必要ですよ、アイ様」
「わかった。カウフタン、よろしく頼む」
「わかりました。十分に警戒しておきます」
「そうっすね。『竜』の出方より、こちらの出方のせいで、ピンチになってはたまらないっすからね」
こちら、とクオンが言うのは……『神器』同盟のことでも指しているのか。
クオンの言うことに、アイとケアニスも含めて、皆が真剣な様子でうなずいた。
「では、これは気休めですが、こちらをどうぞ」
ケアニスは、黒い羽を懐から出して、ウルシャとクオンとカウフタンへ渡す。
受け取る時に、カウフタンは少しだけ躊躇した。
「警戒は必要ありませんよ。これはキルケさんのものとは違います」
「……カウフマン殿が使った炎の剣ですか」
「これは真力の武器です。武器としての形は使う者によります。もちろん『竜』には叶いませんし、武装した天使たちとまともに戦うことはできませんが、ないよりはましです。あなた方ならこれで、彼らの攻撃を数回しのげるでしょう」
「これはありがたい」
ウルシャは剣を捧げ持つように礼をした。
クオンとカウフタンも、それにならう。
「……俺には?」
「ないですよ。だってこんな素晴らしい『力』があるじゃないですか」
ケアニスは屈託のない笑顔で俺を褒める。
いや、そこまで素晴らしいもんじゃないよ?




