100話 ケアニスの提案
俺との話を終え、カウフタンは皆を通した応接間へ戻る。
「だいたいの話は、イセ殿から聞きました」
言いながら、カウフタンはもてなす側の席に座る。
そのタイミングで、何故かクオンがお茶を持ってきた。
「何故、クオンが?」
「カウフマン殿にお世話になっていた時に給仕をしてたっす」
二重スパイやってた時か。
カウフタンもクオンを見て苦笑いしている。
「だからといって、クオンがお茶を入れるのはどうかと思うぞ?」
言いつつもアイは、お茶を美味しそうにすする。
注意しつつも、クオンがカウフタンの子供2人になつかれているのがわかったので、それ以上は何も言うまいという態度だった。
「それで私は……女になってどうだったかについて語ればいいですかね」
「ええそうです。実際になった後の自分の体調の変化や、日常生活や非日常生活で気付いたことを教えてください」
ケアニスは遠慮なく質問し、カウフタンも落ちついて語りだした。
「全然、違いましたね……」
体のつくりが違うから起こる生理現象の差。
そして女としては恵まれた容姿を得たことによる好奇の視線。
苦痛ではあるが、耐えられないこともない。
これが日常と認識できた頃には、耐えるという感覚もなく、まあこうだろうなという普通の感覚になっていったこと。
認識できるデメリットの大きなところは、単純に兵士として無理が効かないこと。
筋力と体力も減り、業務が落ち着いたら体にあわせたトレーニングを導入し、カウフマンであった頃の体力を取り戻そうと試みるとのこと。
そしてメリット。
自分を個人的に支援してくれる者たちが、組織化して助けてくれている。
市民の支援者も増え、隊長代理としての仕事はだいぶ楽になっている。
「それと……妻とオフィリア様の支援も、ありがたいですね」
そう言った後、ふっと微笑む。
ん? 今の素が出てきたような笑みが、なんか可愛い。
「どうしました?」
ケアニスが質問すると、カウフタンは苦笑する。
「いえ、本当に支えてくれる者たちが増えたなと思いまして。男であった頃のように精力的にこなせなくなった分を補って余りある支援を受けていますよ」
言いながら、カウフタンは俺の方を見た。
「これも私をこんな体にした、イセ殿のおかげしょう」
こんな体にした責任を取れ的な怒りも含まれている気がする。
だが、ちょっとそれ萌える。
俺にとってはご褒美だ。
「いえいえ、それはカウフタンの人望の為せる技でしょう」
余裕そうにお茶の香りと味を楽しむ俺。
何余裕ぶっこんてんだ、っていうカウフタンの視線が少し痛い。
「なるほど……そこまで冷静に言えるにしても、女になったことを受け入れていないわけですね」
カウフタンの視線の意味を察したケアニスが言う。
「ええ。アイ様とイセ殿に認められ、元に戻してもらうのが私の望みです」
きっぱりと言う視線は、ケアニスではなく俺とアイの方を向いている。
当然、俺もアイも目をそらした。
戻せないってはっきりわかったら殺される!
「だいたいわかりました。具合が悪い中、ありがとうございます」
「はい。これくらいの話ならいつでもいいので、また来てください」
「ご厚意に感謝します、カウフタンさん」
あれ? 引き下がった?
俺はアイとウルシャとクオンの方を見るが、何故引き下がったのか分かってそうなのはひとりもいなかった。
なので、カウフタンの家を去った後、しばらくして俺は聞いた。
「あれでいいのか?」
「はい。だいたい掴みました」
そう言って、ケアニスは少し歩きながら話しましょうと言う。
どこか人に聞かれなさそうなところを所望してそうだったのか、クオンが道案内をする。
そこは町外れの、あまり人通りのない広場だった。
「イセさんの『力』、相当危険なものとわかりました」
「ん? そんな話、あったか?」
「アイさんにはわかりませんでしたか……あなたはおおらかで懐が深い方ですからね。気づかないのも無理はありません」
どういうこと? と疑問に思うアイと俺たち。
「カウフタンさんは、元のカウフマンさんとは知識を共有した別人のようですね」
「え?」
「カウフマンさんをベースに、別の人物を作り出したようなものです」
「…………」
突然のケアニスの報告に、皆口を閉ざす。
そこまでの、もの?
「ですので、今の私がその『力』で性別を変えてもらうのは、危険と判断します」
それってつまり……キルケと同じ判断?
であるなら、ひょっとして俺たちの同盟は破棄?
天使側にケアニスが戻る?
人気のないところに来たことが、消すためだったらどうしよう。
ケアニスの『真力』は見た。
ハイエース無しでは何もできない。
いや、鬼たちが揃っていたとしても、彼を避けられるとは思えない。
「それでひとつ、提案があるのですが」
「……なんでしょう?」
「イセさんの『力』で、帝都の『竜』攻略をしてみませんか?」




