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時間の騎士様  作者: 灯
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第7章 真実と自分の気持ち


晴れやかな表情をしているセレスに二人は安堵の表情を浮かべ、彼女の近くに移動した。

「セレス姫……」

「よくご無事で…」

「試練はどうなりました?」


ロッシュはセレスに結果を確認した。

その言葉に優しく微笑んだ。


「合格して、これを手に入れました」


そう言って彼女が見せたのはあの黒い棍だった。


「黒い……棍?」

「ええ、何の変哲もない、棍です」

「これが黒い玉から手に入れた力ですか? というよりもセレス姫、棍なんて扱えるのですか?

「その二つの問いの答えは二つともはいです」


それを聞いたロッシュは笑顔でセレスに近づき威勢よく彼女に話しかけた。


「よかったですね、姫様。これで一歩あいつらよりリードしましたね」

「……何かあったのですか?」


彼女は首を傾げてから、彼らに何があったのかと問いかけた。

ロッシュはその彼女の言葉に先ほど外で起こったことを話した。

すると彼女は納得したような顔で辺りを見渡した。


「だから辺りの風景が違うのですね」


ロッシュはそれに頷いた。

そしてグリスが意を決したように、彼女に近づいてきた。


「……セレス姫、いえ師匠」


彼のその言葉に驚いた彼女だったが、今から話すつもりだったので、すぐにいつもの表情に戻った。


「グリス、待ってください、そこから先の事は私がいいます」


彼女はそこで一旦言葉を切った。

そして黒い棍をお守りのように握りしめた。


「二人に言いたいことがあります」


その言葉に二人の身体は硬直した。しかし彼女は止めずに話し出した。


「私は今まで二人に黙っていたことがあります……」


そして彼女は、少しずつ話した。

自分が二人の師匠であり死んだと嘘をついたことや、グリスの父が死んだ原因は自分にあるのだということを、そして彼女は全部話した後にこう呟いた。


「ごめんなさい」


そして彼女は大粒の涙を流した。

そんな彼女の話しを二人は黙って聞いていた。

グリスには衝撃が大きかったはずだが、彼はそんなに強い反応を見せずに問いかけた。


「セレス姫、それは本当ですか?」


セレスは黙って頷いた。


「怒っていますよね……憎いですよね」

「……怒ってはいませんし憎んでもいません。僕は師匠が生きていてくれただけで嬉しいです。確かに父のことはショックです。しかし師匠は父のために何かをしようとしてくれました。それだけで十分です」


その言葉に彼女は少しだけ表情を和らげた。

そして頭を深く下げた。


「ごめんなさいグリス……でもありがとう」


そして彼女はその後にロッシュの方を向いた。

彼の表情はいつもと変わらないように見えた。

そして彼はゆっくりと話し出した。


「貴女の正体は知っていましたよ、セルマ師匠、あの事件の時に貴女の傍にいましたから」

「なぜ、今まで黙っていたのですか?」

「今はそんな余裕はありませんでしたからね、それに貴女がどんな反応をするのかわからなかったので言えなかったんです」

「そうですね……」


彼女はうつむいた。

それを見たロッシュは慌てて弁解した。


「うつむかないでください、そうするしか方法がなかったのでしょう? だったらしょうがないことですよ」

「……ロッシュ、ありがとうございます」


彼女の表情は暗いままだったがロッシュの顔はしっかりと見ていた。


「そしてもう一つ話しがあります」


彼女はそこで言葉を切り、思考をまとめる。

そして口を開いた。


「あたし一人であの人を倒すことはできません。だからあたしと共に闘ってください、あたしを助けてください」


彼らは呆れたような表情を浮かべた。

その表情を見てセレスは恐怖で縮こまった。


「そんな当たり前のことを何言っているんですか、姫様」

「……そうですよ、少なくとも僕は最初から貴女を助けるためについてきたのですから」


セレスはその言葉に声を上げて泣いてしまった。


「し、師匠、急にどうしたのですか」


その泣いている姿に二人は慌てふためいた。

ひとしきり泣いてからセレスは二人に謝った。


「いきなり泣いてしまって申しわけありませんでした。あの言葉が嬉しくて……」

「驚かせないでくださいよ」

「本当にびっくりしましたよ」


そう口では言ってはいるが二人は内心嬉しいのだろう。

セレスもセルマも彼らが知っている限り、他人に明確に頼っている場面を見たことがなかったからである。


「すいません……」

「謝らんでくださいよ」

「……そうですよ、僕らは嬉しいですよ。貴女が僕らを頼ってきたことが

「でも貴方は帰るべき時間があるでしょう? それなのにいいのですか?」

「僕がこの現状を見て何も解決させないで帰るなんて言うわけないですよ」

「だからガンガン頼ってくださいね」


二人の言葉にセレスは思わず笑みを浮かべ心中で思う。


――セルマ……貴女の言った通りだった、それを教えてくれてありがとう……。

セルマは彼女の中で微笑んでいるように思えた。

そして彼らの話しが終わって、間髪入れずにのんきな声がこの時計部屋に響いた。


「さて、ぬしらの話しも一段落したようじゃな」


その声の主はいつの間にかいなかったエトラであった。


「エトラさんどこに行っていたのですか?

「このシリアスな空気耐えきれなくてのう、宴の準備をしておったのじゃ、丁度終わったところじゃよ」

「脈絡がないですよ」


この軽い調子に彼らは力が抜け、短いため息をついた。


「あの申しわけないのですが、私たちにそんな余裕はありませんので辞退をしたいの……」


セレスが丁重に断わろうとしたがエトラがそれを笑顔でさえぎった。


「そんなもん、百も承知じゃ、じゃが息抜きも必要じゃろ?」

「でも、拠点に残っている仲間に申しわけがないです」

「ああ、そやつらなら呼んどいたから、心置きなく楽しみなさいな」


そう言われて彼女は耳をよく澄ます、確かにいつも聞く声が聞こえる。


「ねぇ、セレス姫、せっかくエトラさんが言っているのだから、楽しみましょう? セレス姫は先ほどの試練で疲れていますしね」


そう言って彼はセレスの手を掴んで外に出ていった。その時のセレスの表情は少し複雑そうな表情だったが笑ってもいた。


「しかし時間ぴったりに宴の準備が終わったんだな、まるで姫様が試練をクリアする時間がわかっていたみたいじゃないか……」


そこで彼は気がついた。これは……。


「まさか予知か?」

「その通りじゃ。ただグリスにこの場所に来るように言ったのはワシの別の能力じゃが」


「他人の見ている夢に介入できる、魔法の一つの夢渡りとか?」


彼の冗談めいた発言にエトラは目を丸くしたが、すぐに笑いこう返した。


「とても制限のある魔法じゃがな」


それに対してロッシュは特に驚いた様子もなく、またからかうように呟いた。


「もしかして、グリスのいつもの夢のお告げの正体はあんたか?」

「ほう、この情報だけでそれに辿りつくとのぅ」


笑顔であっさりと肯定する彼に少しだけロッシュは脱力感を覚えた。

だが、すぐにいつも通りに戻った。


「俺の冗談が本当に当たるとはな……」


 彼は少しだけ楽しそうに笑うと、また話しを続けた。


「それじゃあ、あんた、グリスに似ているけど、あいつのじいちゃんとか言わないよな?」


彼は自分より小さい彼に対しての皮肉のつもりで言った発言だった。

しかし彼の返答は彼にとって斜め上だった。


「そうじゃよ」

「まいったな、そんなに簡単に言われると反応に困るぜ」


その言葉に対してエトラは笑顔を消し去り、真顔で彼を見た。


「嘘をつくでない、ワシがあの子と何かしら、縁があることぐらい、お見通しだったのじゃろ?


それに対してロッシュは彼とは逆に笑顔で返した。


「ばれてたのか……まあ別にいいさ、隠す気なんてあんまりなかったし」

「そういう言い方はお前さんのおじさんの若い頃にそっくりじゃな」


彼は自身が言ったその言葉に少し昔を思い出していた。

しかしそう言われたロッシュは疑問符を浮かべていた。


「何言っているんだ? 俺にはおじさんなんていないぜ」

「わからないなら、いいんじゃよ」


その言葉でさらに疑問符を浮かべたロッシュだったが、その思考はグリスによって中断された。


「ロッシュ、何をしているの? 早く来ないとパーティー始まっちゃうよ」


彼はなかなかこちらに来ないロッシュを心配して、この部屋に顔を覗かせた。


「わかった、今行く」


そして急かされた彼はやれやれといった調子で歩き出す。

そして扉に手をかけた時、エトラの方を向いてこう一言、言った。


「エトラさんよ、グリスに自分が祖父だってことを教えてあげなよ、あいつ喜ぶぜ」


その言葉にエトラはにっこり笑いながら何も言わなかった。しかし心の中で呟いた。


――ワシにはそんなこと言える権利なんてないんじゃよ。





宴会で出てきた食事はグリスたちには見たことのなかったものだらけであった。

しかし味はとても美味く、みんなは旅の疲れを癒すかのごとく飲んで食べて騒ぎ続けた。

その中でもグリスだけは妙に騒いでいた。

それをロッシュは不審に思ったがあえて今は何も言わなかった。

その大騒ぎをしばらく続け、一段落したところでグリスはある一人の中年男性に声をかけられた。


「君の名字って、エタロンっていうけど、まさか、お父さんはアルドさん?」


グリスは幼い頃に亡くなった父の名前を思い出すのに時間が、かかったがこの名前で間違いないと思い頷いた。


「ああ、やっぱり。君の瞳の色がそっくりだからそうかなぁと思ったよ」

「父を知っているのですか?」

「ああ、君のお父上たちはこの町の前で倒れていたことがあってね、その時に助けられてここで療養していたのさ」

「そうなのですか……」

「とてもいい人たちだったよ、セリスちゃんとも仲良くなってね」


その言葉の響きになぜか懐かしさを感じ、彼に聞き返す。


「そのセリスって人は、誰なんですか?」

「君は名前を知らなかったのかい、セリスちゃんっていう子は長の娘でね、君の父上と結婚してこの国を出ていってね」

「えっ、僕のお母さんここの出身なの?」


さすがにグリスも驚いのか、目を見開いた。


「知らなかったのかい? まあ、君が知らないのも無理ないか、彼女は君と一緒にいられた期間は短かったみたいだしね。ねぇ、セリスちゃんのこと、聞きたいかい?」


その言葉に甘えてグリスは母のことを聞かせてもらった。

彼の知らなかった母親のことを一つずつ埋めるように。




そして聞いている間に夜もふけてしまい、宴会は終了した。

そして彼らは各自に用意された部屋へ向かった。その途中でロッシュはグリスに一声かけた。


「少し外で話しをしないか?」


グリスはそれに応じて外に出た。

外は月に照らされ、風は冷たく気持ちよかった。

二人はとりあえず話しやすいように開けた場所に向かった。

そこに到着した時、ロッシュは前置きなど一切置かずに、グリスに単刀直入に伝えた。


「お前、言いたいことがあるなら無理せずに言えよ」

「な、何を言っているの? 僕は言いたいことなんて別にないよ」


その言葉が嘘だとわかるぐらい今の彼の顔は泣きそうだった。


「ここには俺しかいない。だから言いたいことがあれば言えばいい、泣きたければ、泣いていい」


その言葉にグリスの目に涙が浮かび、そのまませきを切ったように泣き出した。


「……本当は……師匠のことが許せなくて、でも辛くて、でも師匠も辛かったと思うと何も言えなくて、ああするのがいいと思ったから……でも自分の気持ちを偽るのも辛くて」


彼はそれから大きな声で泣き続けた。彼が泣いている間、ロッシュは彼の頭を優しく撫でていた。


そして一時間後、グリスは泣きやみ、気まずそうに空を見上げていた。


「そんなに気にしなくてもいいじゃんかよ」

「そんなこと言ったって、やっぱりロッシュの前で泣くのは恥ずかしかったの」


ロッシュには彼の顔が見えなかったが、声は弾んでいたので安心した。


「バーカ、今のお前は俺より年下なんだし、恥ずかしがる必要なんてないだろう?」


「歳なんて関係ないよ、ロッシュだから恥ずかしいんだよ」

「ある意味、酷いなお前」

「……冗談だよ、でもロッシュありがとうね」

「気にすんな、親友だろ、俺たち」


その言葉に安心したのか彼は嬉しそうに笑う。

それを見てロッシュも安心したのかこう一言、言った。


「じゃあ、帰るか」


グリスはそれに頷いた、それを見てロッシュは先に歩き出す。

グリスはそれを追いかけるように歩き出した。

先に歩き出したロッシュの顔は先ほどと打って変わって、とても苦しげな表情をしていたがグリスは気がつくことはなかった。




セレスは眠れなかった。

だから彼女は少しだけ外に散歩に出かけた。

外は風が冷たかったが優しかった。


「気持ちいいな……」

「そうじゃな」


いきなり声が聞こえたので彼女は武器である棍を構え辺りを見渡す。

しかし誰もおらず空耳だったと片づけようとした彼女だったが、再び声が聞こえたので棍を構え直す、それに驚いたのか声の主は慌てて名乗った。


「ワシじゃよ、エトラじゃよ」

「貴方でしたか……」


見知っている人だったのでセレスは棍をしまいながら、ため息をついた。


「しかし話しかけただけで武器を構えるなんて物騒な姫さんだ」

「すいません、癖がなかなか抜けなくて」

「あのアルドも同じことを言っておったよ、さすが師弟じゃな」


その言葉に昔、彼からこの国のことを聞いたことを思い出して、少し嬉しくなったが、彼の真意がわからず顔をしかめさせていた。

彼は彼女のその表情に少し苦笑をしてから一冊の本を彼女に渡した。


「この字は師匠の……まさかこれは師匠の奥義書」


彼女は驚き声が震えた。


「その通り、あやつは自分に何かあった時のためにここに残したのじゃよ、お前たち二人にな」

「でも、師匠がここにいた時の話しは聞いたことがあるけど、私に修行をつけてくれるようになってからは来ていないはずじゃあ……場所も教えてくれなかったし……」

「あいつらは来ておらんよ、ワシがアルドが処刑される少し前に、会いにいった時に託されたんじゃよ」

「師匠……」

「それと君に手紙じゃよ」


エトラが懐から手紙を取出し、セレスに手渡した。その手紙を彼女は読み始めた。


セレスへ

この手紙を読んでいる頃は僕はいるかもしれませんが、いないかもしれません。

どちらにせよ直接言うのは恥ずかしいので手紙を残しておきます。

力に飲み込まれるな。力だけでなく心を鍛えよ。

そして自分の力を見極めよ。

そして時には退くことを覚えよ。さすれば力は汝に答える。

これは僕の師匠から受け継いだ言葉なんだ。

今は難しいかもしれないけど覚えておいてね。

アルド・エタロン


その手書きの文字に彼女は涙腺がうるんだが、最後に書いてある言葉のおかげで泣かずに笑った。


追伸  セレスがグリスの師匠になっていた場合は君の口からグリスに伝えて。


「こういう手紙に追伸を使うなんて師匠らしいです」

「そうじゃな……」

「この言葉、いつかグリスに伝えます」


その言葉に彼は無言で頷いた。


「ありがとうございます。エトラ様」

「何、気にすることはない男と男の約束を守っただけじゃからな」


エトラは微笑んだ、セレスもそれにつられて微笑み、一礼をした。


「それでは私はこれで失礼しますね」

「それじゃあの」

エトラは手を振り、自室に戻るセレスを見送った。

見送った後にエトラもその場から離れて、自宅へと戻った

そして誰もいなくなったこの場は静寂に包まれた。



翌朝グリスはさわやかな朝を迎えた。

世界が侵略されていることを感じないさわやかな朝だった。

グリスは与えられた部屋から外に出てみるとそこは広間で、すでにロッシュたちがいた。

彼は彼らに軽く挨拶をした。

それに気がついた二人は下に向けていた顔をグリスに向け微笑んだ。


「おはよう」

「おう、はよう」

「おはようございます。グリス」

「何をしていたのですか?」

「これからどうするか話し合っていたの」

「それでどうなりました?」

「話しあった結果、学術都市にいるミネルヴァ博士に意見を伺いに行こうと思いまして……」

「それで何かわかるのですか?」

「可能性は低いです。しかし彼女のおかげでエテルノセノクの場所がわかったのですから、わずかですが希望はあります」


セレスは妙に嬉しそうだと感じたが、反対にロッシュは少しだけ憂鬱そうだった。


「どうかしたのロッシュ?」

「俺あの人苦手なんだよ……強烈で」

「ふうん」


グリスの冷たい反応にロッシュは少しだけ拗ねてしまった。その行動に彼は少しだけ苦笑した。


「ロッシュってば大人げないよ」

「たとえそう思われても苦手なもんは苦手なんだよ」

「へえ、そこまで苦手なんだ、じゃあ僕も楽しみだな」

「鬼か、お前は」


そんな二人を見てセレスはただ優しく微笑んだ。






リアンゲール城の奥にあるこの部屋はやはり城の一部だと思える豪華な作りをしており、ベッドに机、椅子などが置いてあり、誰かの部屋だったことを感じさせるものだった。


しかし今は机と椅子以外は埃まみれだった。そしてこの部屋の中にはエテルノセノクのことを報告するためにヴァンとユダがおり、彼らは机の近くにある椅子に座っているロキに報告していた。


「……というわけで、あの三人を捕らえそこね、結界を解くための玉も持ち逃げされました、報告はこれで以上です」


 その報告を聞いたロキの表情は特に変わらずにただ短くそうかと返事をして、こうつけ足した。


「ノルンに学術都市に行かせて、新しい情報を受け取ってくるように伝えてきてくれ」

「わかりました、ではこれで失礼いたします」

 

二人はこの部屋から出ていくために扉に手をかけた、ちょうどその時、後ろで苦し気にうめき声を上げて、ロキが机の上に倒れた。

 それに驚いたヴァンは彼に近寄り、ロキの身体を揺らして意識の確認をした。


「ボス、ボス、大丈夫ですか」

「……大丈夫だから」


 彼はそれでもまだ苦し気だったのでヴァンは心配そうに彼を見つめていた。


「本当に大丈夫だから、ノルンに伝えてきてくれ」 

「……わかりました、行くぞ、ヴァン」


ユダがそう答え、まだ心配そうなヴァンを引っ張りこの部屋を後にした。

そして彼らはノルンがいる場所へ向かって廊下を歩いていた。

お互いに黙ったままだったがユダが少しだけ不満そうに口を開いた。


「なあ、ヴァン。いくら何でも心配しすぎじゃないか」

「ボスのこと?」


 ユダは頷いた、その彼の表情は読み取れなかったが、仮面の下の表情はすごく子供じみているように思えた。


「三十路三つ前なのにそんな子供じみた顔をするなよな」

 

呆れ半分、諦め半分といった表情をしていたが、ユダはそれを意に介さずに詰め寄った。

それに負けたのか、ため息をつきながら彼は答えた。


「ボスに関しては確かに心配しすぎかもしれないと思ってはいるが、俺と同じような道を辿っているボスを見ていたら、ほっとけないんだ」

「……でも救う気なんてないくせに」


 彼はヴァンの顔を見ずに宙を見て言った。

この言葉に対して彼は弱々しく否定をした。


「……救う気はあるさ、どんな形でもな」


 ユダは小さく嘘つきと呟いたが、ヴァンは聞こえなかったふりをした。





ここまで読んでいただきありがとうございます。

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