1−1 カフェ
今日はいるかな。
悠真は今日もカフェに入った。カフェといっても、駅前にあるチェーン店で、メニューも変わり映えしない。
*
学校が終わって電車に乗り、最寄り駅まで来る。
「悠真、今日もカフェに寄ってくの?」
駅ビルを出たところで拓斗が訊いてくる。
「ああ、うん。バスまで時間あるから」
「そのへんで待ってればいいじゃん。三十分程度でしょ? お金も馬鹿にならないんじゃ?」
まあ当然の疑問だよな。高校生に毎日カフェで四百円のコーヒーを飲むほどの甲斐性も財力も普通はない。
「ちょっと最近コーヒーにハマっててね」
「そうか。じゃあ、また明日な」
そう言って拓斗と別れる。
駅ビルのエスカレーターを降りて一階。カフェの自動ドアの前に立つ。
入口の張り紙に「ブレンドコーヒーの値上げのお知らせ 400円→450円」と書かれている。開始日は……明日から。
「マジか……」
これを毎日払うのは、正直きつい。でもしょうがないじゃないか、これが一番安いメニューなんだ。
レジに向かう。
今日の店員さんは……。
「いらっしゃいませー」
ああ、棒読みの鈴木さんか。20代前半くらいの女性の店員さん。真面目そうな雰囲気で、少し硬い。表情はほとんどない。
「ご注文はお決まりですか?」
もちろん一番安いブレンドコーヒー。決まっているが、一応「それらしく」振る舞いたいので、手元のメニューに目を落とす。
「ブレンドコーヒーのレギュラーサイズで」
「はい、では400円になります」
「PayPayで」
スマホを差し出して決済をする。
鈴木さんがレシートを渡してくる。
ここで悠真にはこだわりがあった。
悠真は必ず店員さんの目を見る。目を見て小さく「どうも」と言ってみる。まあ、どうせ特に何があるというわけでもないのだけど。この鈴木さんはそもそも目線を上げないタイプの人だ。
*
翌日もカフェに行く。
今日の店員さんは……中田さんだ。少し茶髪の女性。たぶん大学生くらい。
「いらっしゃいませ」
中田さんは他の店員さんと全然違う。この時点でもう視線を感じる。
「じゃあ、ブレンドコーヒー、レギュラーサイズで」
何が「じゃあ」なんだろう。
「お客様、申し訳ございません。本日より450円になりますが、よろしいですか?」
ふと目を上げてみる。そこにいるのは、やはり中田さんだった。目を見て話す中田さん。少し申し訳なさそうな表情。演技未満、自然以上の表情。
「あ、はい、知ってます」
そう答えていつも通りに決済する。
最後にレシートを渡してくる時も、やはり。
「ありがとうございました」
目を見てくれるのだ。
*
ある日のこと。今日も中田さんだった。
いつも通りテキパキと注文と決済処理をしてくれる中田さんだったが、目を合わせることがなかった。
軽いショックを受けながら悠真は席につく。
そこから一時間。勉強と読書をした後に下げ口にカップを持っていく。
中田さんは背を向けて洗い物をしていた。
中田さんは不意にこちらに振り向き、
「ありがとうございました」と言った。
そして、大きな目を向け、ニコッと笑った。
俺は馬鹿だ。
月に一万円もかけて、好きでもない苦い汁を飲みに行く。その理由はたったこれだけ。
中田さんの笑顔が見たいから。
本当にただそれだけなんだから。




