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黒塚の陰翳  作者: 猫田たい子
終章
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60/60

終章

 舞台は終わった。

 拍手が収まり、客席の騒めきが次第に現実の音へと戻っていく中で、一人の観客がまだ動けずにいた。

 視線は舞台の中央にはなかった。囃子方でも、地謡でもない。隅に座っていた男に釘付けになっていた。

 一切の言葉を発せず佇んでいた男――後見。

 何をしていたわけでもない。だが、舞台を操っていたような気がしてならなかった。全ての仕草、一歩の間合い、背後に漂う空気さえが意思のまま動いていたように感じられた。

 その存在は圧倒的だった。

 ほんの一滴の気配が言葉より雄弁だった。

――真実は誰も知らない。

 あの目を見てしまった者はもう戻れない。その観客はまた舞台を見るだろう。いや、あの後見を見るためだけに舞台へ足を運ぶだろう。


――また一人、陰翳に囚われていく。


了





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