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十歳からやり直して大富豪になるはずだった――未来のビットコインもAIも知っていた俺が、知らない明日を生きるまで  作者: 野狐禅


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22/22

高校

高校のことを考え始めたのは、中学校へ入る前だった。自分でも早いとは思う。でも僕にとって高校は、単なる次の学校ではなかった。

十五歳から十八歳までの三年間。その先には大学進学と家を出ることがあり、二〇一二年にはビットコインを確認する予定もある。十八歳が近づくにつれて、今まで遠かった計画が一気に現実になる。

だからといって、今から学校を一つに決めるつもりはなかった。未来は変わるし、学校の状況も変わる。何より、十五歳の僕が何を学びたいと思っているのか、十歳の僕には分からない。

決めるのではなく、条件だけ考えておく。

僕はノートに書いた。

大学進学に困らないこと。数学と理科を十分に学べること。費用と通学時間が無理のないこと。そして、進路を途中で変えられること。

そこまで書いてから、「できれば自宅から離れる」と続けそうになって手を止めた。

高校から家を出れば、大学まで待たずに済む。寮のある学校へ行けば、十五歳で親元から離れられるかもしれない。

魅力はあった。

でも、それだけで高校を選ぶのは違う。

寮費や食費がかかる。学校によっては、家より細かく生活を管理されるかもしれない。大学受験の環境が良くなるとも限らない。

十八歳で大学進学と同時に家を出る。それが基本だ。

高校から出るのは、遠方に行くだけの教育上の理由があり、費用や生活条件まで含めて有利な場合に限る。

僕は「高校から家を出る」の横に「条件次第」とだけ書いた。

家を出ること自体を、高校選びの目的にはしない。

ある日、図書室で進学関係の本を見ていると、先生に声をかけられた。

「高校調べてるの?」

「どんなところがあるのかなって」

「早いね」

「やっぱり?」

「調べるのはいいけど、今から決めなくてもいいよ」

「はい」

「高校で何したいの?」

聞かれて、少し困った。

大学へ進みたい。数学や理科を学びたい。英語も続けたい。十八歳になったら家を出られるよう準備したい。

どれも本当だった。

でも、高校生活の三年間を全部そのために使いたいのかと聞かれると違う気がした。

「まだ分かりません」

「だったら、いろいろ選べる学校の方がいいかもね」

「選べる?」

「途中でやりたいことが変わるかもしれないでしょ」

途中で変わる。

その言葉には納得できた。

普通科、高専、工業系の高校。調べれば、それぞれに利点があった。

高専なら十五歳から電気や情報を専門的に学べる。実験も多く、就職にも強い。今の僕にはかなり面白そうに見える。

一方で、専門を決める時期も早い。

十五歳になっても電気やコンピュータが好きなら、それは有力な選択肢になる。でも、そのころ別のものを学びたくなっている可能性もある。

僕は高専の横に「専門を早く始められる」、普通科には「進路を広く残せる」と書いた。

どちらが上とは決めなかった。

進路は、未来の出来事を当てる問題ではない。

そのときの自分が選ぶ問題だ。

そのころ学校で、「今頑張っていること」という作文を書いた。

題材にはパソコンを選んだ。古いラジオを開けたことや、コンピュータが情報を0と1で扱うことを調べた話を書く。

書き終えてから気づいた。

未来のため、という言葉を一度も使っていない。

ビットコインのためでも、エヌビディアのためでもない。ただ、仕組みを知るのが面白いと書いていた。

返ってきた作文には、「好きなことをどんどん調べてください」と先生の字があった。

好きなこと。

以前なら、あまり進路の基準に入れなかったかもしれない。

食べていけるか。失敗しても働けるか。将来役に立つか。そういうことばかり考えていた。

でも、何年も学ぶなら興味も必要だ。

僕は十八歳までの計画に書き足した。

専門は、興味と実用が重なるところを探す。

必ず重なるとは限らない。それでも、どちらか一方だけで決めるよりはいい。

やがて僕は中学生になった。

教科ごとに先生が変わり、課題も試験範囲も増えた。知らない同級生も多く、最初の数週間は学校へ行くだけで少し疲れた。

三十二歳までの記憶があるから、環境が変わっても平気ということはなかった。

図書委員にはまた手を挙げた。

部活動は陸上部にした。

体験で何度か走ったあと、短距離より長い距離の方が自分には合っていると思ったからだ。速さだけで勝負するより、自分の呼吸やペースを考えながら走る方が面白かった。

練習は楽ではない。

今まで一人で走っていたときとは違って、決まった距離を走り、タイムも取る。自分より速い人はいくらでもいる。

それでも、やめたいとは思わなかった。

図書室とは違う居場所ができたのもよかった。教室でそれほど話さない相手とも、走っているうちに言葉を交わすようになる。

未来のために選んだわけではない。

走るのが好きだったから入った。

それで十分だった。

最初の定期試験では少し緊張した。

小学校より範囲が広く、順位まで出る。数学と理科はよくできた。英語も問題ない。国語では記述を落とし、社会では覚え違いがあった。

全体では上の方だった。

結果を見て、ひとまず安心する。大学進学を選べる状態を作るには悪くない。

ただ、順位を見た瞬間に別の考えも浮かんだ。

このまま成績が上がれば、周囲からは偏差値の高い高校を勧められるだろう。

実際、しばらくすると友達から聞かれた。

「どこの高校行くの?」

「まだ決めてない」

「頭いいとこ行くんじゃない?」

「どうだろ」

「一番上のとこ?」

「それもまだ」

「まだばっかじゃん」

「まだ一年だし」

「まあそうか」

僕は笑った。

偏差値の高い高校には利点がある。授業の水準、進学実績、周囲の学習環境。無視する理由はない。

でも、「行ける中で一番高いところ」を自動的に選ぶつもりもなかった。

通学に毎日長い時間がかかれば、その時間は三年間続く。部活や学校行事の雰囲気もある。数学や理科をどこまで学べるかも違う。

高校は数字ではなく、実際に三年間通う場所だった。

僕は学校について調べるとき、進学実績や費用だけでなく、通学時間や授業、部活についても見るようになった。

学校ごとに点数をつけて表にしようとして、一度やめた。

やろうと思えばできる。

偏差値何点、通学時間何点、費用何点。重みを決めて合計すれば順位まで作れる。

でも、それで一位になった学校へ行けば正解というわけではない。

実際に見て、人の話も聞く。

数字は使うが、数字だけでは決めない。

高校受験が近づいたときに、その時点の僕が判断すればいい。

中学生活が進むにつれて、有力そうな高校はいくつか見えてきた。

一つは自宅から通いやすく、大学進学実績も十分だった。数学や理科もしっかり学べる。

もう一つは少し遠いが、理数系の教育に力を入れている。寮もあり、条件が合えば十五歳で家を出ることもできる。

以前の僕なら、後者に強く引かれたかもしれない。

三年早く家を出られる。

それだけで大きな価値に見える。

でも今は、二校の資料を並べてもすぐには決めなかった。

遠い学校へ行くことで、本当に得られるものは何か。費用はいくらかかるのか。寮生活はどんなものか。大学進学にはどちらがいいのか。

十五歳になった自分が、それでも行きたいと思うのか。

全部確認してからでいい。

僕は二つの学校名の横に、同じ丸をつけた。

候補。

それ以上の意味は持たせなかった。

その日の夜、十八歳までの計画を開いた。

中学、高校、大学。

以前は大学だけが大きく見えていた。

今は、高校の三年間もはっきり見える。

十八歳で自分の進路を選べる状態になる。そのために高校へ行く。

でも、高校は大学へ入るためだけの三年間ではない。

十五歳から十八歳までの僕が、実際に生活する場所でもある。

僕は高校の欄に書いた。

受験のためだけの三年間にしない。

高校三年になれば、二〇一二年は目前になる。

大学受験も、家を出ることも、ビットコインも、今よりずっと現実味を帯びているだろう。

そのときの僕は、未来へ急ぎたくなるかもしれない。

だから今のうちに残しておく。

十八歳のために、十五歳から十八歳までを使い切らない。

高校は、未来への待合室ではない。

どこへ行っても、予定外の先生や友達に出会う。面白い授業もあれば、合わないものもあるだろう。僕自身の興味だって変わるかもしれない。

なら、正しい高校を当てようとする必要はない。

選んだ場所で学び、必要なら進路を修正し、十八歳になったとき次を選べるだけのものを持って出る。

高校に求めるものは、それで十分だった。


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