81.エピローグ
私がニール様と結婚式を挙げてから、2年の月日が経過していた。
私は1年前に、死ぬ思いで女の子を出産した。
「死ぬ思い」と大げさに言ったが、まあ、普通分娩である。
まさか出産があんなに痛いとは思わず、出産中にぎゃあぎゃあ叫びすぎて母に叱られた。
15回転生しても、初体験のことにはめっぽう弱い私は、赤ちゃんのお世話でもかなりアタフタしてしまった。
子育て経験有りの女性使用人さんたちには頭が上がらない。
私とニール様の娘は、ジュリエットと名付けられた。
似ている名前をつけたが、別にジュリー様の生まれ変わりではない。
私の力は出産でさらに弱くなったけど、それはなんとなく分かる。
きっとジュリー様は、お義父様と同じ世代に生まれ変わる。
おしかけると言っていたしね。
「おお! ジュリエットはあんよが上手だなぁ!」
朝食後のダイニングルームでヨタヨタと歩く金髪で緑の瞳のジュリエットに、お義父様が付きっきりになっている。
「お父様、本日は王城で会議でしょう? ジュリエットにかまっていないで準備をお願いします」
ニール様は転びかけたジュリエットをひょいと抱き上げると、侍女のサーラさんにあずけた。
そう、お義父様は孫のジュリエットにデレデレなのだ。
「ジュリエットも一緒に行ってもいいのではないか?」
お義父様はサーラさんに抱っこされたジュリエットを愛おしそうに見つめる。
「いいわけないでしょう? クロック、お父様をお願いします!」
「はい。旦那様、準備をお願いします」
師匠がお義父様を押すように連れていく。
その様子を見送って、ニール様は私に目線を向けてほほ笑んだ。
「ココは今日は『占い茶会』でしたか?」
「はい。本日は第2王女様ですので、私も王城に参ります」
私とシンディ様は、ジュリー様の後を継いで……というわけではないが、「貴族界の女仲人」を目指して貴族のご令嬢やご婦人たちと交流を重ねている。
ただ、シンディ様は奥ゆかしい性格で、私は平民育ちのガサツさがあり、どうしてもジュリー様のようには立ち回れない。
ということで考え出したのが「カード占い」だ。
いわゆる前世の「タロット占い」で、私の前世の記憶を頼りに絵師に作成してもらったのだが、霊感の強いシンディ様と霊感が弱まった私が使うと、驚くほど当たるのだ。
「恋占い」がよく当たると貴族界ですっかり有名になった私たちは、「恋愛以外は占わない」を約定にして貴族女性の方々と日々交流を深めている。
「第2王女様ですか。ココが広げてくれた人脈には感謝しています……」
ニール様は言いながら、私のお腹にスッと手を当てた。
突然お腹を触られた私は、「ひゃっ」と声を上げる。
「ああ、やっぱり、赤ちゃんがいますね。性別はまだ分かりませんが……」
「本当ですか! 2人目!? やったー!」
あんなに出産が痛かったのに不思議だが、私は2人目の赤ちゃんを心待ちにしていたのだ。
私が飛びあがろうとすると、ニール様が私の肩を押さえた。
「決して飛び跳ねたり走ったりしないでください。マーチさん!」
母は話を聞いていたようで、私の隣にスッと立つ。
「若旦那様、お任せ下さい。若奥様、本日からメイドを増員いたします。食事や運動も以前のように……」
「うう、またあの監視体制ですか……」
私は溜息をついた。
ニール様も母も、私に過保護すぎるんだよね。
「ココ、性別がわかりますか?」
ニール様の質問に、私は首を横に振った。
「力がだいぶ弱まったので、もう分からないですね。カードを使えば分かるかもしれませんが……」
「いえ、また私に当てさせてください」
ニール様の表情はやる気満々である。
本当に試したり練習したりが大好きである。
ニール様はサーラさんからジュリエットを受け取り、私のお腹に近づけた。
「ジュリエット、もうすぐお姉さんになりますよ」
ニール様の声に、ジュリエットは「あうあー」と言っている。
ニール様の表情は、ちゃんと「お父さん」である。
とはいえ、ニール様はお義父様のようにジュリエットにデレデレというわけではない。
私はニール様からジュリエットを受け取り抱っこした。
私に頬をすり寄せるジュリエットはしっとり温かくて、朝食に食べさせたミルクパンがゆの匂いがする。
完全に親の欲目だが、金の透けるような髪に、緑の大きな瞳、ぷくぷくとした桃色の頬のジュリエットほど可愛い子もいないと思うのだけど……。
私の視線に気付いたのか、ニール様は私の頭にポンと手を置いた。
「ジュリエットも大切で可愛いのですが、私はココが可愛くて仕方ないのですよ」
「なっ!? 何言って……!」
私の顔が真っ赤に染まる。
「ああ、私も今日は堤防の視察がありました。ジュリエット、お父様とお母様はお出かけしますので、リコスと仲良く遊んで待っていて下さいね」
ニール様はジュリエットにほほ笑んでいる。
分かっている。
また、からかわれたのだ。
私はこりもせず、毎回引っかかってしまう。
「もう、もう! ニール様は性格悪いです!」
「……本当なのですけどね」
ニール様は小声で呟いて、笑った。
完
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