EP 12
章ボス戦(中編)〜機神の弾幕と、雷兎の超電光流星脚〜
白夜。
ポポロ村の広場を包み込んだのは、夜明けの太陽を凌駕するほどの、圧倒的で暴力的な『光』だった。
『ギュルルルルルルォォォォォォォォォッ!!!』
変異型ワイバーンの口腔内で極限まで圧縮された超高濃度のプラズマ球が、ついに臨界点を突破した。
放たれたのは、熱線の奔流。
触れるものすべてを原子レベルで蒸発させる、神の裁きにも似た一撃が、優太たち三人に向かって真っ直ぐに解き放たれる。
逃げ場はない。回避するスペースもない。
「マスター! 正面から撃ち合え! 奴のブレスの『核』を物理的質量で押し返せ!」
プラズマの熱波で髪を焦がしながら、優太が叫んだ。
その指示に、龍魔呂は恐怖するどころか、ニヤリと凶悪な牙を剥き出しにして笑った。
「ハッ! 言うじゃねぇかヤブ医者! だったら出し惜しみはなしだ!」
龍魔呂は右手にはめた『鬼王の指輪』に、自身の赤黒い闘気を限界まで流し込んだ。
そして、何もない虚空に向かって吠える。
「おいガジェット! 視てんだろ引きこもり野郎! 俺の前に『ゲート』を開けやがれ!!」
——その瞬間。
次元の壁がガラスのようにひび割れ、ポポロ村の広場に巨大な黒い『コンテナ』が突如として落下してきた。
遠く離れた異次元の要塞に引きこもる狂気の天才マッドサイエンティスト、ガジェット。彼が龍魔呂のためだけに用意した、専用の武器庫である。
ガシャンッ! とコンテナの扉が開き、中から姿を現したのは——本来ならば護衛艦の主砲として搭載されるべき、異常なサイズを誇る『127mmガトリング砲』だった。
「おっしゃ、特効薬のオデマシだぜェッ!!」
龍魔呂は常人なら持ち上げることすら不可能なその鉄塊を、赤黒い闘気による筋力強化で強引に抱え上げる。
銃身が回転を始める。キュイィィィンというモーター音が響いた直後。
ズガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!
毎分2000発。
龍魔呂の赤黒い闘気を纏った127mmの砲弾が、文字通りの『弾幕の壁』となって、迫り来るプラズマの奔流と正面から激突した。
魔力と物理兵器の、純粋な正面衝突。
空間が歪み、凄まじい衝撃波が周囲の建物を粉々に吹き飛ばしていく。
「オラオラオラァッ! どうしたデカブツ、その程度かよ! こちとら一発一発が戦艦の主砲クラスだぜ!」
龍魔呂が反動を両足で強引に抑え込みながら、狂笑と共にトリガーを引き続ける。
だが、相手は四十トンの巨体に無尽蔵の魔力を秘めた章ボス級。プラズマの熱線は弾幕を溶かしながら、じりじりと龍魔呂たちの方へと押し迫ってきていた。
「チッ、ヤブ医者! やっぱり火力が足りねぇ! このままじゃ押し潰されるぞ!」
「十分だ! 俺が欲しかったのは『時間』と『道』だ!」
優太は医療リュックのモニターを睨みつけ、極限の集中力でプラズマ・ブレスの『密度』を解析していた。
龍魔呂のガトリング砲がプラズマの奔流に風穴を開け、熱線の中心にほんのわずかな『真空のトンネル』が生じている。
「今だ、キャルル! マスターが開けた射線を抜け! 狙うは奴の眉間だ!」
「はいっ! 行きます、優太様!!」
優太の号令と同時に、キャルルが大地を蹴った。
本来、月兎族が真の力を発揮するのは『満月』の夜だけだ。今は新月。彼女の力は半減しているはずだった。
だが——。
(優太様が、私を信じてくれている……っ! 私に、背中を預けてくれている!)
キャルルの胸の奥で、優太への狂信的な愛情が爆発的に膨れ上がっていた。
優太から向けられた確かな信頼。それが、キャルルの脳内麻薬を異常分泌させ、満月時と同等——いや、それ以上の『擬似ハイ状態』へと彼女の精神を強制シフトさせたのだ。
「優太様の村を燃やす害虫は、私が一匹残らず駆除しますぅぅぅっ!!」
バチバチバチッ!!
キャルルの履くタローマン製の超重安全靴。そこに仕込まれた『雷竜石』の魔力が、彼女の銀色の闘気と呼応して紫電の雷光を放ち始める。
彼女はプラズマの熱波が渦巻く中、崩れ落ちる火の見櫓の残骸を蹴り、宙を舞う瓦礫を三角飛びで駆け抜け、龍魔呂の弾幕が切り開いた『真空のトンネル』へと飛び込んだ。
ドォォォォンッ!!
音の壁を突破する、ソニックブームの炸裂音。
キャルルの身体が、マッハ1の速度を超越した。
「——超電光流星脚(スーパー・ライトニング・メテオ・ストライク)ッ!!!」
紫電を纏った一筋の流星が、プラズマの奔流を真正面から切り裂いていく。
一億ボルトの雷撃エネルギーと、マッハの速度がもたらす運動エネルギー。そのすべてが、キャルルの右足の一点に極限まで圧縮されていた。
質量換算で277トンのダンプカーが激突するのに等しい、戦術兵器クラスの破壊力。
『ガッ……!?』
ワイバーンの巨大な瞳が、迫り来る小さなウサギの姿を捉えて驚愕に見開かれた。
だが、遅い。
メキャァァァァァァァァァァンッ!!!!!
キャルルの右足が、ワイバーンの眉間——最も強固な黒鋼の頭蓋骨を、正面から完璧に粉砕した。
凄まじい雷光が炸裂し、ワイバーンの口腔内でチャージされていたプラズマが暴発。巨大な頭部が右方向へ大きく弾き飛ばされ、魔獣の巨体がドクシャァァァッ! と広場の地面に叩きつけられる。
直後、暴発したプラズマの余波が上空へと抜け、夜明けの空を真っ白に染め上げた。
「……見事な穿刺だ、キャルル。マスターの麻酔(弾幕)も完璧だった」
爆風をワスプ薙刀を地面に突き立てて耐え凌ぎながら、優太は小さく息を吐いた。
頭蓋を粉砕され、自らのプラズマを暴発させたワイバーン。
ドローンのサーモグラフィ映像は、魔獣の脳の活動が完全に停止したことを告げていた。バイタル・ゼロ。生物としての死である。
「やったぁ! 優太様、私やりましたよっ♡」
空中から軽やかに着地しようとするキャルルが、満面の笑みで優太の方へ手を振る。
龍魔呂もガトリング砲の銃身から煙を上げながら、ニヤリと笑ってマルボロを口に咥えようとした。
——だが。
優太の瞳孔が、戦慄に収縮した。
「キャルル! 避けろォォォォッ!!」
優太の悲痛な叫び。
同時に、G-SHOCKのタクティカル・モニターが、けたたましいレッドアラートを鳴らした。
脳を粉砕され、生物としては完全に死んだはずのワイバーン。
しかし、その胸部に宿る『魔石』だけが、暴走状態を引き起こしていた。
主を失い、行き場をなくした莫大な魔力が、ワイバーンの長大な『尻尾』へと一極集中していく。
死後硬直の反射行動——いわゆる、死んだ蛇が噛み付くような、執念のカウンター攻撃。
ビュォォォォォォッ!!!
音速を超えた、黒鋼の尻尾の一閃。
それは、空中に投げ出され、着地姿勢に入っていた無防備なキャルルを、完璧なタイミングで薙ぎ払おうとしていた。
「え……?」
空中で体勢を崩しているキャルルには、回避する手段がない。
龍魔呂のガトリングは銃身が焼け焦げており、次弾の装填が間に合わない。
優太のシステマの歩法でも、絶対に届かない距離と速度。
(私が死んだら、優太様、悲しんでくれるかな……)
死を悟ったキャルルの脳裏に、そんな呑気なヤンデレ思考がよぎる。
直撃すれば、間違いなく肉片すら残らない。
優太は絶望に歯を食いしばり、ワスプ薙刀を握る手を血が滲むほど強く握りしめた。
——ピロンッ。
その時。
絶体絶命の戦場に、間の抜けた、しかし極めてクリアな『電子音』が響き渡った。
『システム通知:ポポロ村全住民、および敵対勢力全員の安全な避難完了を確認しました』
『救命行動の連鎖による因果律を算定。これより、ボーナス善行ポイントを付与します』
優太の視界の端に浮かぶ、【地球ショッピング】のインターフェース。
先ほどまで『残高:ゼロ』だった数値が。
スロットマシンのように猛烈な勢いで回転し、跳ね上がっていく。
【+50,000 P】
「……ッ!!」
優太の瞳に、極北の海の冷徹さと、狂気的なまでの『生への執着』が戻った。
誰も死なせない。
それは敵だけではない。自分に命を預けてくれた、愛すべきイカれた相棒たちを失うことなど、戦術医官のプライドが絶対に許さない。
「マスター! 奴の尻尾を撃ち落とせ!! キャルル、そのまま空中で待機しろ!!」
優太は吠えた。
ポイントはチャージされた。ガチャの確率は、彼自身の『無私無欲の覚悟』と『仲間を救うための運命力』に依存する。
優太は全ポイント——50,000Pを、一切の躊躇なく全放出した。
「——来いッ!! 最高のメス(特効薬)を!!」
光の陣が、優太の足元でかつてない規模で展開される。
絶体絶命の窮地。
戦術医官が引き当てた、章ボスを完全に葬り去るための最後の地球兵器が、異世界の大地に産声を上げようとしていた。
読んでいただきありがとうございます。
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