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サキュバスは、性犯罪を許さない  作者: ウロノロムロ
サキュバスは、人間家庭の事情に首を突っ込む
32/58

恋は盲目

地下にある喫茶『カミスギ』。


ここでレジェンド級サキュバスの愛倫アイリン

自称ウェイトレスとして働いているが、

新たにリリアンも

店のスタッフとして働くことになる。


「今彼氏、お金が無くて大変なんですよ」


リリアンの彼氏である

引きこもりのヒロナリ、

彼の両親は仕事で忙しく

家にはほとんどいなかったが、

ヒロナリの食費などは

きちんと置いていってくれてはいた、

これまでは。


だがさすがに二十歳を過ぎ

成人したヒロナリに対して、

親が食費や生活費は自分で出せと言い出し、

家に置いて行く、

ヒロナリに渡す金を減らしはじめたのだ。


二人でほぼ同棲状態だった

ヒロナリとリリアン、

このままでは二人分の食費には

全然足りないため、

リリアンがバイトをはじめた

というのが事の経緯である。



「あんたの彼氏、

それヒモって言うんじゃないかい?」


その話を聞いた愛倫アイリンは、

リリアンがいいように

貢がされているんじゃないかと心配になる。


「ナリくんはヒモなんかじゃないですよ!

なんですか!

もしかして私に彼氏が出来て

嫉妬でもしてるんですか?」


恋は盲目とはよく言うものだが、

経験の少ない十代ならいざ知らず、

百歳を超えたサキュバスまでも

盲目にさせるとは。


「引きこもりのヒモってのも

あまり聞かないしねぇ」


「まぁでもヒモなんて野郎は、

女を外で働かせて、

自分は家でダラダラ、

ゴロゴロしてるもんだからね、

引きこもりみたいなもんかもしれないけどね」


異世界でも人間世界でも、

ヒモと言う存在は左程変わりがないようだ。


これまで親に依存していた引きこもりが、

自分の女に依存するようになって

立派にヒモへと進化を遂げたということか。

それはそれでレアなケースという気もするが、

進化する方向が

そもそも間違えている気がしないではない。


-


ということで、

新しくスタッフとして入ったリリアンだが、

職場の先輩である愛倫姐アイリンねえさんを

見習ってしまったのか

いつもノロケ話ばかりしている。


毎日リリアンにノロケ話を聞かされ、

少々ウンザリしている愛倫アイリン。


もちろん愛倫アイリンも祝福はしており、

最初はその初々しさ、

甘酸っぱさに感動すら覚えたものだが、

最近は内容があまりに幼稚過ぎて

どうにも聞いていられない。


人間で例えるなら、

バツ三ぐらいの女性が

中学生の恋愛を何度も何度も

自慢されるようなものであり、

それはやはりウンザリしてしまうというものだ。


「慎さんが来てくれて、

あたしに愛を囁いてくれたりしないもんかね」


愛倫がそんな寂しいことを言っていると、

ちょうど守屋もりや慎之介しんのすけが喫茶店を訪ねて来る。


「慎さん、ちょうど今、慎さんが

来てくれやしないかなんて思ってたとこだよ、

さすが慎さん、以心伝心ってやつかね、これは」


浮かれて出迎える愛倫だが、

慎之助の後から女がついて入って来る。


「あたしという者がありながら、

ひどいじゃあないかっ」


わざとそんな焼きもちのひとつも

妬いてみせようとする愛倫アイリンだが、

慎之助の連れが

同じサキュバス移民団の仲間だとすぐに気づく。


-


彼女の名前はミルリン。


愛倫アイリン達と共に

人間世界に移民して来たサキュバスは

数百人を下らないが、

その中でも一、二を争う

生粋のゆるふわ天然系サキュバス。


ほがらかなのは性格だけではなく、

二つの胸のふくらみもかなり朗らかで

たゆんたゆん、ばいんばいんだと

移民者の間でももっぱらの噂だ。



愛倫アイリンはミルリンの姿を見て、

瞬時にいろいろと察する。


あまりにわかり過ぎて仕方がないので、

とりあえず先に謝っておく。


「すまないねぇ、

うちのが迷惑かけちまって……」


苦笑いを浮かべ、頭を掻く慎之介。


「えぇぇっ! なんでわかったんですかぁぁ?」


びっくりして不思議がっているミルルン。


その様子を見て

『あぁ、やっぱりなのか』と

愛倫アイリンは天を仰ぎ顔を手で覆う。






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