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第23話『洋館』


 「そういやお前の言ってた生きているもう一人の悪魔ってどんな奴なんだ?」

 「気になるのかい?」

 

 嫌い嫌いと言っている悪魔のことを聞く健司に意外そうな顔をした後、嬉しそうな顔で見上げてくる。

 その顔に健司は少しイラッとしたがぐっと堪えて素直になる。

 

 「そうだな。気になるな」

 

 そう言うとヒツギは嬉しそうに話し始めた。

 

 「そいつの名前はドラス。魔術の研究ではボクとドラスが中心になって研究してたんだ。ボクとは考え方が全然違うやつだからぶつかることも度々あったよ」

 

 言葉とは裏腹にヒツギの表情は自慢げで明るいものだった。

 そのヒツギの表情に健司はヒツギとドラスの関係性を想像しようとして途中でやめた。

 

 「ドラスはかなり強くてさ、ぶつかる事はあってもまともに勝てた事が無いんだ」

 

 あれほどの魔術を使うヒツギがまともに勝てたことがないと聞き健司は少し驚いた。

 

 「魔術だけじゃなく体術もなかなかでね。体術なら健司に匹敵するほどで魔術はボクより少し劣るくらいなんだよ。魔術だけじゃないと勝てないんだよ。ん? どうしたんだい?」

 

 ヒツギは少し険しい顔になっていた健司の顔をのぞき込む。

 

 「どうもしてねぇよ」

 

 もしそのドラスという悪魔が敵になっていたとすればかなりの強敵となる。そう考えるだけで嫌気がさした。

 

 「どうやら、ドラスってやつの話は終わりみたいだ。洋館が見えた」

 

 会話を中断させるためのように洋館がタイミング良く目の前に現れた。

 

 「ここだな……」

 

 健司はホルスターからレイジングブルを抜き、扉をそっと開ける。

 

 鍵はかかっておらず、簡単に侵入できたが人の気配が一切ない。それなのに室内はホコリが一つもなく、ついさっき掃除が終わったかのように綺麗だった。

 

 「ボクはここかなりヤバイと思う」

 「同感だ。お前なんか武器は使えるか?」

 「そういえばさっきから思ってたけど、お前じゃなくてちゃんとヒツギって呼んでよ」

 

 不満げな顔で健司を軽く見上げてくる。


 「はぁ……ヒツギはなんか武器は使えるのか?」

 「ふふーん。銃はからっきしダメだよ。剣ならそれなりに使えるけど」

 

 名前で呼ばれた事に満足して自慢げに慎ましい胸を貼る。

 

 「日本刀はどっかに落としたしな……これ一応持っとけ魔術が使えても持っといた方が良い」

 

 健司はサバイバルナイフを取り出しヒツギに渡す。

 

 「でもボク肉弾戦は……」

 「三秒間耐えれたら問題ない」

 「まぁ、三秒くらいなら……」

 

 ヒツギは渋々健司のナイフを受け取る。

 

 「通信室は──」

 「ボクに任せてよ」

 

 ヒツギはキョロキョロと部屋を探す健司の視界に割って入る。

 

 「分かるのか?」

 「魔術を使えば簡単さ!」

 

 くるりと長い紺色髪を(ひるがえ)し健司に背を向け詠唱を開始する。

 

 「我を導く精霊よ。我求む道を教え、我が赤き瞳に映したまえ」

 

 ヒツギの足元に青白く光る魔法陣が展開される。健司は少しばかりその姿に見とれてしまう。

 

 「《嚮導(サーチ)》」

 

 魔法陣が静かに消えるとヒツギのルビーのような瞳が更に赤く光る。

 

 「さぁ健司。ボクについて来て」

 

 迷う事なくどんどん進むヒツギの小さな背中を健司は追いかける。

 

 歩いていくと壁の前に着いた。

 

 「おい、道を間違えたんじゃないのか?」

 「いや、大丈夫。この置物をこうしてっと」

 

 ヒツギは壁の近くにある花瓶の花を抜き手を突っ込むと、カチッというスイッチ音が聞こえる。すると壁の一部が開き、電子ロックが出てきた。

 

 「これはかなり手の込んだ仕掛けだなぁ」

 

 ヒツギは手早くパスコードを入力する。入力を終えると壁は横へ移動し中には通信機器がズラリと並んでいる。

 

 「ふふーん。どうだい? 凄いでしょ?」

 「はいはい、凄い凄い。早く助けを呼ぶぞ」

 

 得意げな顔を健司に向けるヒツギを健司は適当にあしらい通信室の中に入っていく。

 

 最新の物から旧式の物まで乱雑に積み上げられている。

 

 「俺が使えるのは、あったこれだ」

 「ずっと聞こうと思ってたんだけど、健司が魔法を使った時に左目が紅くなってるのはなんで? 視力でもあげてるの?」

 「目が紅くなってる?」

 

 健司は手早く周波数を合わせながら聞き返す。

 

 「そう、え? 知らなかったの?」

 「おう、知らなかった」

 

 部屋には機械音が響く。

 

 「それってもしかして──」

 「そんなことより、準備出来た」

 「え、あ……繋がりそう?」

 

 健司に言葉を遮られたヒツギは健司が触っている通信機をのぞき込む。

 

 健司は何やら文字を打ち込み送信していた。

 送信内容は自分たちのいる場所、状況。そしてヒツギとの遭遇とこれから洋館を調べるという事。

 

 伝えたいことを伝え終えた時、健司の背中に嫌な汗が吹き出た。

 ヒツギも固まっていることから同じものを感じたのだろう。

 

 気配よりハッキリしていて殺意や敵意より重いものを感じた。のしかかる重圧。意を決した健司とヒツギはゆっくり振り返る。

 

 「あれ、誰も……居ない……?」

 

 健司は思わず声が漏れた。振り向くとさっきまで感じていた重圧が嘘のように消え去った。

 

 「健司、今の魔力は」

 「ああ、かなりヤバいな」

 

 ヒツギは今までの魔力に対する知識から、健司は今までの戦闘で培った感覚から、通信室から直線上にある扉から驚く程に禍々しい魔力を感じた。

 

 魔力量だけなら恐れる相手ではない、健司とヒツギが恐れているの魔力の質だった。

 

 「こんな魔力初めて感じ取ったよ」

 「ああ、ヴァサゴが荒れ狂う様な狂気の魔力ならこの魔力は……」

 「静かで冷淡な殺意の魔力」

 

 健司の顔みて言ってくるヒツギの顔を見て健司は小さく頷く。

 

 「逃げる?」

 「逃げれると思うか?どう考えてもさっきのは俺らに向けての魔力だろ」

 

 諦めの交じる言葉。

 

 健司も出来ることならここから一刻も早く逃げたしたかった。

 

 「だよね。ボクもそうも思うよ」

 

 健司とヒツギは生唾を飲み込み、ようやく動き出した。

 踏み出す一歩が驚くほど重かった。扉に近づくにつれ足が重くなる。

 

 「これを開けるのか……」

 

 健司とヒツギには目の前の扉がとても大きく見えた。

第23話も読んでいただきありがとうございます。

第24話は約24時間後に投稿されるので読んでいただけると嬉しいです。

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