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第22話『君がいいんだよ』


 仲間が全員死んだ。

 ヒツギは自分の言ったことで表情を暗くすることもなく、こんがり焼けた兎の肉を美味そうに頬張りながら答える。

 

 「十年も研究をしてたのか?」

 「他の悪魔は実験開始から六年後に全員死んだけどね。正しくはもう一人の悪魔に殺された。そしてその一年後にもう一人の悪魔が研究所を出ていったよ」

 「出ていったもう一人の悪魔は?」

 「さぁ」

 

 以外にもあっけらかんとしている。

 

 「他の悪魔を殺した奴に恨みとかは無いのか?」

 「別に無いね、過去の事だし。それにボクは今が楽しい、初めて見るものが沢山あるし、健司の料理はボクが食べてきた食べ物の中で一番美味しいからかなり満足しているよ」

 

 同じ研究をしていた悪魔が殺された事に対しても、悲しみの表情や殺した奴への怒りの表情にもならず、まるで他人の事のように話す姿に健司は不思議と感心してしまう 。

 

 もし自分もこれくらい楽観的だったら、そんなふうに一瞬考えてしまった。

 

 「馬鹿なことは考えない方がいいよ」

 

 突然の言葉に健司は驚いた。

 

 ヒツギの言葉はまるで健司が考えていたことを否定するような口ぶりだった。

 

 「君は今、自分の今までの考えを否定しようとしたんじゃないか? 殺された家族を忘れた方が楽なんじゃないかって」

 「何故そう思った?」

 「魔力が揺れ動いた。魔力は精神状態に大きく関わる。特に自分を否定した時に魔力は大きく乱れる」

 

 ヒツギは自慢げに語りながら最後のひと切れを口に放り込む。

 

 「なるほどな。確かに今俺は自分を否定したかもな。復讐を目標に動いているが全部忘れた方が楽だと思ったよ」

 「復讐を肯定するわけじゃないし、死んだ人が復讐を望んでいるかも分からない。それでも健司がどんな事でもその人たちの事を忘れないことが大切なんだと思うよ」

 

 ヒツギは肉を飲み込み言った。

 

 「忘れないことが大切?」

 「そう、ボクは死というのは忘れられる事だと思うんだ。だからボクは研究所の仲間の事を覚えている、忘れられるのは辛いからさ」

 

 健司はヒツギが研究所の仲間の死に対してあっけらかんとしていたのはこういう考えがあるからなんだろうと健司は思った。

 

 「さぁ、飯も食ったしこれで終わりだ」

 「どこへ行くの?」

 「ここらで洋館がある。そこへ行って通信機を探して助けを呼ぶ」

 「なるほどな。じゃあ行こうか」

 

 立ち上がり健司に付いてこようとするヒツギの姿に健司は動きが止まる。

 ヒツギが、なんだ? 行かないのか?、と言った表情で健司を見てくる。

 

 「いやいや、なんでついてくる気満々なんだよ」

 「相棒だからだよ?」

 「違うから、勝手に相棒にしてんじゃねぇよ」

 

 素早く健司はツッコミを入れる。

 

 「むぅ、つれない奴め」

 「何で俺にこだわる? 俺じゃなくてもいいだろ。よりにもよって悪魔嫌いの俺なんかと」

 「君がいいんだよ」

 

 ストレートに君がいいなどと真顔で言われ、健司はどうしていいか分からなくなる。ましてやこんな美少女に言われれば尚更である。

 

 ヒツギは真っ直ぐ健司を見つめる。

 

 「もう、いいや。好きにしろ」

 「ほんと? やったぁ!」

 

 表情が急激に明るくなる。

 

 眩しい笑顔のままヒツギは握った小さな拳を健司に向けてくる。


 「前に本で読んだんだ。人間はこうして仲間の契を交わすんでしょ?」

 「ちょっと違うが、まぁいいか」

 

 健司が本当に悪魔という存在そのものを憎んでいるならヒツギを殺そうとしただろう。

 そうしなかったのは健司自身が楓華を見て、全ての悪魔が悪い奴ではないと分かっているからだろう。そして、悪魔嫌いは親友の姿をしているヴァサゴを殺すことを躊躇わないようにするためのケジメでもあったから。

 

 欲しいと言う前に兎の肉をヒツギの分も盛り付けた時点で健司はヒツギの事を仲間として見ていたのだろう。

 

 「あ、健司ようやく笑ったね」

 

 ニヤニヤと嬉しそうに言ってくる。

 

 「うるせぇ、さっさと行くぞ」

 

 健司は机の横に並べていた武器を装備する。

 

 健司の言っていた洋館の情報はこの森の周辺に住んでいる人々。つまり、本部の保護施設に入れてもらえなかった人々のことだ。

 

 十数人の本部から派遣された軍人と四十人ほどの人々は壁を作り小さな村を作り、本部から送られる壁の補強材と食料や弾薬などを上手くやりくりしてなんとか生きながらえている。

 

 本部もこの人々のことを見捨てるようなことはせず、食料や家の材料や外壁の補強剤以外にも医者を定期的に向かわせたりもしている。

 

 現状では村としてかなり繁栄し、畑や家畜などを始め時給自走ができ始めていた。

 

 健司とヒツギがいた街に人が居なかったのは生き残った人はその村へと集まっているからだろう。

 

 健司や遥は月に何度かその村の周辺に居るアンデットやクリーチャーを一掃し、そのつど村の子供と遊んだりして、いくらか交流があった。

 

 そしてある日突然その洋館は姿を現した。

 

 三人の軍人は周辺のアンデットやクリーチャーの存在を確認するため直径一キロメートル圏内を調べ、数体のアンデットを殺し、いつも通り村に戻ろうとした時にその洋館が目にはいった。

 

 捜索範囲外であったため調べようとはしなかったが昨日までその洋館は無かったらしい。

 

 洋館の説明を聞いたヒツギは、

 

 「わざわざ洋館に行かなくても村に行けばいいんじゃないの?」

 

 と、ごもっとものことを言ってくる。

 

 「確かにそうなんだか、その洋館はいずれ調べないといけないからな。もし通信機がなかったらその村に行くぞ」

 

 なるほど、とヒツギはつぶやく。

 洋館までの距離も情報どおりならかなり近づいてきているはずだった。

第22話を読んでいただきありがとうございます。

第23話も投稿していくので読んでいただけると嬉しいです

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