第21話『君を選ぶ理由』
遥が健司のGPSに気づく一時間前。
「ん、んぅ……」
健司は肌寒さと腕に当たる柔らかい感触と聞こえた漏れたような声、そして鼻を抜けるいい匂いで目を覚ます。
寝ぼけた視界の中、至近距離に絶世の美女ならぬ絶世の美少女が可愛らしい寝息を立てている。
健司はギョッとしたが、その美少女であるヒツギの姿を見て美少女が近くにいる事より、その美少女が自分のコートにくるまっている事の方に驚いた。
昨日の夜にヒツギと話した後、寝ることにしたがヒツギの横で寝た記憶も、ましてやコートをかけてやった記憶もない。
そもそも健司はコートかけてやるほど悪魔に優しくない。
健司はヒツギがくるまっている自分のコートをひっペがした。
「うぎゃ!」
コートをひっぺがされた勢いでゴロゴロと転がり停止した。
むくりと起き上がり健司を睨む。
「おい、なんでお前が俺を睨む」
「君という人はもう少し優しく起こしてくれてもいいじゃないか……」
「悪魔に持ち合わせる優しさはねぇ。そもそも、なんで俺のそばで寝て、俺のコートを着てるんだよ」
健司は質問しながらコンロに火をつける。
「ボクの格好を見て」
ヒツギは立ち上がりその場で回って見せた。へその出たシャツと黒の短パンとニーハイという寒そうな格好。
「一人で寝るというのは寂しいのもじゃないか、それにボクの格好は寒い。だから君のコートを拝借したんだよ。ぎゃう!」
自慢げに理由を語ったヒツギは思いっきり健司のデコピンを食らった。
「寒いも何も知るか! 寒いなら腹の隠れた服を来たらいいだろうが」
健司はコートに袖を通し、昨日捕まえ、絞めておいた兎を手際よく捌き、枝に刺し火にかけた。
「で? お前はなんでわざわざ俺を追いかけてきた?」
「何故? ああ、言い忘れていたよ」
焼いている兎の肉から目を離し、嬉しそうに健司を見つめる。
健司は嫌な予感がした。
「ボクのパートナーになってよ」
「嫌だ」
健司は即決で断った。
味方であることは認めても悪魔に背中を預けるれるほど信用していない。
「ビックリするほどの即決にもう、酷いとすら思わないよ」
感心するように言ってくる。
「良いじゃないか。ボクたちはもう一夜を共にした仲じゃないか」
ヒツギは少しばかりいやらしいポーズをとり、健司に見せつける。
「うっせぇ! 俺は元々一人で一夜を過ごすつもりだったつーの!」
健司はヒツギから目をそらす。
「健司もしかして欲情しちゃった?」
ヒツギは嬉しそうに聞きながら健司に擦り寄ってくる。
「してねぇし! ウザイから近寄るな!」
「ぎゃう!」
健司は再びヒツギをデコピンで吹き飛ばす。
「痛い……」
「だろーな。痛くしてるからな」
「君は冗談も通じないのか!」
ヒツギに背を向け健司は兎の肉に塩を振り返る。
「されて笑える冗談と面倒臭い冗談があることを覚えておくんだな」
あっさりしたものが食べたいと思いながらも兎の肉を串から外し、適当なサイズに切り分けヒツギ前に置く。
ヒツギの表情が凄く明るくなる。
「そもそも、なぜそんなにも怒る?」
兎の肉を美味そうに頬張りながら聞いてくる。
「あのなぁ、まず一つ悪魔でも女なら相手に向かって欲情したとか聞いてくるな。そして、俺は悪魔が嫌いだからだ」
ズバズバと答えた健司の言葉にヒツギは、そうなのか、聞かない方がいいのか、などとブツブツ言っている。
健司はヒツギの常識外れであることに驚きを隠せなかった。
「君はどうしてそんなにも悪魔が嫌いなんだい? と言っても全ての悪魔を嫌ってるってわけじゃなさそうだね」
「悪魔のせいでたくさんの人が死んだし、それに大切な家族も殺された。だが同時に命を助けてくれたのも悪魔だ」
思い浮かぶ元親友の顔。
今ではその顔が憎くてたまらない。大切な仲間だと思っていたのに今では殺したくて仕方がない。
あまりの表情の変わりようにヒツギは少し驚いた顔をする。
「それは……立ち入ったことを聞きすぎた。それじゃあ助けてくれた悪魔以外は嫌いになるのも当然だね」
突然真面目な顔で見つめられ健司はどうしていいかわからずそっぽ向く。
「……お前はなんで俺の力がいる? お前の魔法があれば戦闘なんか問題ないだろ」
「そうでもないんだよ。ボクは肉弾戦がからっきしダメだから、君みたいに肉弾戦が強い人がそばにいて欲しいのさ」
「つまり盾か?」
「盾ってわけじゃないよ。名前を唱えるだけでいい魔術もあるけど強敵を倒すには詠唱が必要なのさ。その間は相手を抑えることの出来る人が」
「それを世の中では盾って言うんだよ」
健司はヒツギのことが少し気になった。ヒツギを見ていると、あの日命をかけて守ってくれた悪魔と同じ感じがした。
「味方なら知り合いの悪魔に頼めばいいだろ。世界がこんなことになってるのも悪魔なら事前に知っていた奴もいるだろ」
強さなら味方してくれるは悪魔の方が心強いはずなのにわざわざ健司をパートナーにしたがる理由が分からなかった。
「悪魔の中でヴァサゴみたいなのがヤバいやつを倒そうなんて考える奴はいないんだ。大体は自分の身を守り高みの見物さ。つまり、ボクと一緒に戦ってくれる悪魔なんていない」
悪魔のほとんどが敵というのはこういうことなんだろうと健司は理解した。
「それにボクは十年くらい研究所にこもって魔術の実験をしてたから外の状況を知ったのは最近なんだ。つまり、友達なんていないんだよ」
サラッと悲しいこと言うヒツギの常識が欠如しているのはそれのせいだと健司は理解した。
「一人で研究してたのか?」
「いや、十数人いたよ」
「そいつらは? そいつらに頼めばいいだろ」
「ボクと一緒に研究してたような輩だよ? 肉弾戦が出来るわけないじゃん。それに、ボクともう一人の悪魔を除いて全員殺されたよ」
さっきまで肉を食べていた健司の手がその言葉でピタリと止まった。
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