格の違い 肆
先程の昂ぶりから一転、初老の男はしんみりと呟いた。
男はもちろん、阿綺や他の若い者達もこういう世界だと覚悟の上で集っている。
だからといって、自分の子供同然の若い衆が命を落としていくのは慣れるものではない。
「せめてそやつを討ち果たし、手向けとしてやらねば……な」
「あ、阿綺は生きています」
「え!? ……生きてるの!?」
初老の男は鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔をした。
「はい」
「…………………………」
勝手に死亡扱いをしてしまった事にちょっとばつが悪そうな顔をしつつも、
「な、ならば何故戻って来ない? 敵に捕まっているのか?」
警察程度ならば脱出は容易。
ならば阿綺を捕らえているのは敵しかいない……結構な組織かも知れない……
「いえ、いるのは市内の病院です」
「それほどやられたのか!?」
脱出が困難な程にやられるとは……敵の実力とは一体…………
「いえ、多少の怪我は有りますが、概ね健康です」
「ならば何なんだ!?」
心配が悉く空振りに終わり、初老の男はキー! と、声を荒げる。
「身体に異常は無いらしいのですが、ただ……」
「ただ?」
「我等の事はおろか、自分の名前すら忘れていました」
「…………何?」
コレを偶然と捉えるほど男は鈍くはない。
どうやら敵もただ強いだけではないと見た。
「くっくっくっくっ……!」
自然と笑いが漏れる。
「面白い! ようやく現れた我等の敵……あらゆる面で楽しませてもらおうか!」
男ははやる気持ちを抑えるかのように右拳を左掌でパン! と鳴らして包み込む。
「そして今度こそ……我等が祖霊に最強という名の華を!」
組んだ男の手から紫の光が迸る。
「最強の忍は……我等『飯綱忍軍』よ!」




