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ボクは仕事につかれました。  作者: 新京極宮子
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第一章⑧

 何の説明もされずにその場に立つ僕は、状況がわからず何をすればいいのか全く分からなかった。本来なら今すぐにでも家に帰って、漫画でも読みたいところなのだが、今日の状況からして学校も名前も割れている。明日また押しかけられて何をされるか分かったもんじゃあない。

 でもここの中には何があるかもわからないし。頭の中は危険な妄想しかできない。

 病室の前で一人試行錯誤を繰り返していると、ナースや患者が何人も僕の横を通っていく。

 この廊下は各階にあるナースセンターから見える位置にあり、長時間ここに立っていると不審者と間違われそうな勢いだ。通る人たちに笑顔で軽く会釈をする。

 病室って誰でも入れるんだね。人の命を救う場所って結構危険な場所なんじゃないか。

 何があるか怖いな。というより何もないわけないか。中にいる人たち全員が見知らぬ人とかナンセンスだし。とりあえず中を確認してみるか。

 僕は国に守られた病院だと自分に言い聞かせて、病室の扉にそっと手をかける。

 ゆっくりと扉を開け、病室内を覗き込む。開けた先に広がっていたのは予想以上に綺麗な病室で、中には六つのベッドが並べてある。

 扉の前に立つ僕から見て左右のベッドは不在なのか、誰もいなかった。荷物が置いてあるので今は席を外しているようだ。

 不在ならここまで案内しないよな。まぁ、ここに案内されたってことは何かあるんだし、一応、全員確認してみるか。

 真ん中に位置するベッドはカーテンがかかっていた。開けなくては確認できないので、小さく「すみません」と声をかけてカーテンを開ける。

 そこにはベッドに寝転んだおじさんとナースがいた。ナースは慌てたように男から距離をとった。かなり慌てた顔をしている。


「す、すみません、間違えました」


 僕も慌ててカーテンを閉め飛び出る。

 何をしていたかは知らないけれど、うん、何も見なかったことにしよう。

 左の真ん中に位置するベッドは、正面はカーテンが開いており、覗くとガラの悪そうなおじさんがベッドで横たわりながらテレビを見ている。これも他人だな。


「おい、何見てんだ。うるせえぞ」


「あ、いえ。すみません」


 ええ! というか何も言ってません。なんて理不尽な。

 何もしてないのに喧嘩吹っかけられそうになった。病院なんだし、喧嘩は控えようよ。

 その隣に位置するベッドには気の強そうなおばあさんが寝ている。


「なんだいジロジロ見て。いやらしい子だねぇ」


「あは、すみません」


 こ、このばあさんに何の興味も湧くか。殺意が湧くよ。おっと、ここは病院だった。不謹慎な言葉も控えよう。

 そして、消去法で残った窓際のベッドは、おばあさんの真向かい。そこは全体にカーテンが閉められており中を窺えない。

 先ほどの件もあり、カーテンを開けるのが少し怖いな。でもここが……そうだよな。

 カーテンの中からは何やら音がする。


「す、すみません……」


 一言かけてカーテンをそっと開ける。そこにいた人物は、右足をギブスで固定しており、ベッドに取り付けられた装置で足を吊るされている。頭部と左腕も包帯でぐるぐる巻きにされている。包帯は全身の六〇パーセント近くを占めていた。

 そこでようやく何故、病院に連れてこられたかを理解した。病院に何の用があるのかと思っていたが、僕は被害者でもあり加害者でもある。

 この人は今朝、僕が事故らせた車の運転手だ。一目でわかる。

 体中から汗が出てくる。何を言われても文句の言えないことをしたからだ。だが、その人はこちらに視線を向けることなく右手一本で、タブレットを操作している。

 僕はその本人が今朝、事故を誘発させた玄崎さんと呼ばれる人物だとわかり、血の気が引いたように罪悪感でいっぱいになった。


「あ、あの……今朝は本当にすみませんでした。その飛び出してしまって。でも元気そうでよかったです」


 僕は深々と丁寧に頭を下げると、言葉に反応して、ぴたりと手を止めた。正確には僕の言った言葉の後半部分。元気そうでよかった、に反応した。


「頭部裂傷、左腕右足の打撲橈骨骨幹部骨折および尺骨骨幹部骨折、そして、肋骨、鎖骨の一八本の骨折だ。確かに大したことない。ただの全治九ヶ月だ」


 どうやら言葉を間違えたらしい。かなりご立腹でいらっしゃる。

 今の言葉で半分近く理解できなかったのだが、相当重傷だということは理解できた。

 聞くだけでどれほどの痛みなのか想像できないんですけど、事故に遭った時、歩いていませんでしたっけ? 人間? ですよね?


「本当にすみませんでした」


 再び誠心誠意頭を下げる。心からご冥福……違った、心から反省しております


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