後日談 女友達に報告しました
おまけとして書いたので、だいぶコメディ寄りです。
「良かったじゃん。付き合えることになって」
あのときの階段にて、事の顛末をゆみに報告した。
「お陰さまで。あれがなければお姉さんと付き合えなかったからさ。ほんと、ありがとう」
「私は思ったことを言っただけだよ。でもそっかー。一日でお姉さんを落として来たんだ。やるね!」
とってもいい笑顔なんだけど、最後のところ、なんだか二重に声が聞こえた気がした。
(きっと気のせいだ。………たぶん)
そう思うことにした。
意識をゆみに戻すと、なにやらモジモジと膝を擦り合わせながらチラチラと僕を見てくる。
まるで今から告白でもしそうな雰囲気を醸し出すゆみに、お姉さんという者がいながら僕は胸を高鳴らせてしまう。
ゆみは何度も「あのね」と繰り返し、高鳴る心臓を抑えるように胸に両手をあて、大きく息を吸い込み、
「お姉さんとの恋バナを聞かせてほしいの!!」
一世一代のテンションでそんなお願いを口にした。
「………………へ?」
そんな反応になるのも仕方ないと思う。
あんな雰囲気で、告白以外のことを言われるとは誰も思わないはずだ。
もちろん、断るつもりだった。僕にはお姉さんという大事な恋人がいる。
お姉さんを捨てた、あんな元カレと同じことをするわけがない。
それでも、同年代の女子からの告白に胸を高鳴らせたのは事実なわけで、
『う わ き で す か?』
見られたわけでもないのに、脳裏にすっんごい笑顔のお姉さんがゴゴゴという効果音を伴い現れる。
ダラダラと流れる冷や汗。
ただの幻影だとわかっていても、気分はまるで浮気現場を見られた夫のようだ。
(お姉さんの新妻姿………)
ふと、新妻になったお姉さんの裸エプロンを想像してしまい惚けてしまうが、お姉さんの圧にすぐさま理性を取り戻し、
(僕はお姉さん一筋お姉さん一筋お姉さん一筋お姉さん一筋お姉さん一筋お姉さん一筋お姉さん一筋お姉さん!!)
決して浮気はしていないと、お姉さん一筋であると訴える。
そのときに決して目を逸らしてはいけない。目を見て話すことが大事だと、本能で察する。
それが功を奏したのか、お姉さんの幻影は穏やかな笑みを浮かべて消えた。
ホッと安堵を吐く僕の額に、ぴとりと触れる人肌の温度。
驚きから現実へと意識を戻せば、すぐ近くにはゆみの顔があって、
「冷や汗すごいけど、大丈夫? 熱はないみたいだけど、保健室いく?」
「えっ!? ………あ、いや、大丈夫。うん。大丈夫、だから」
平気だと、そう言いながらも僕の口先はひりつく。
視線が向かう先、ゆみの背後から陽炎のように再び現れるお姉さんの幻影。
さっきまでの穏やかな笑みはどこにいったのか、真顔で僕たちの様子を眺めている。
漏れそうになる悲鳴を押し殺して、ゆみの肩を掴んで距離を離す。
「わ! ちょっと、どうしたの突然!?」
「あ、いや、………ほら! 恋人ができたからさ、他の女の人と至近距離でいるのはどうかと思って!!」
僕の必死な言い訳に、胡乱げな視線を向けるゆみだが、それでも納得はしてくれたのか「まっ、それもそうね」といって離れてくれた。
疑わしげな眼差しのお姉さんに、僕は必死に赦しを乞う。
(ほんとうに浮気じゃないんです。僕はほんとうにお姉さん一筋ですから………!)
その願いが通じたのか、徐々に消えていくお姉さん。
お姉さんは決してなにも言わなかったが、その瞳は雄弁に語っていた。
『次浮気したらわかってるよね?』
浮気と断定されていることに思うことはあるけど、決して否定してはいけない。本能が教えてくれた。
ただ深くうなずき、今後絶対にしないと誓う。
今度こそ完全に消えたお姉さんを見届けて、僕は心からの安堵に胸を撫で下ろす。
「チャイムなりそうだし、私、先に帰るね。あの件忘れないでよ!」
「え?」
スマホで時間を確認したゆみがそう言って、困惑する僕を置いて行ってしまった。
呆然と立ち尽くす僕の頭のなかで、何度もゆみの言う『あの件』とはなにか考えるものの、お姉さんの幻影しか思い出せず、頭を抱えることになった。




