奇跡の秘薬アムリタと、バルガス師匠
「くっ……ダメです……! 通常のハーブじゃ、太陽樹の魔力に触れた瞬間に燃え尽きちゃいます……!」
太陽の光が降り注ぐ神殿の祭壇で、アスターの手は激しく震えていた。
オズワルド師匠の素焼きの乳鉢の中。
黄金に輝く『太陽樹の雫』は、神木のエキスゆえに生命エネルギーの純度があまりにも高すぎる。そのまま飲ませれば人間の身体を内側から焼き切ってしまう劇薬なのだ。
これを肉体に馴染ませ、石化の猛毒だけを的確に浄化・消滅させるには、太陽樹の荒ぶる魔力を受け止め、方向付ける【他者を慈しむ純粋な神聖治癒の触媒】が絶対に不可欠だった。
ボフッ……!
持参した清浄ハーブを投入するも、触れた瞬間に黒煙を上げて灰になっていく。
二度、三度と繰り返すも、ことごとく失敗。
「そんな……っ! 並の薬草じゃ太陽樹の魔力圧に耐えられない……! バルガスさんが言っていた『神聖な奇跡を宿した触媒』なんて、こんな迷宮の底にあるわけが……!」
タイムリミットは刻一刻と迫っている。
街では、バルガスの心臓まで石化が迫り、今まさに命の灯火が消えようとしているのに。
「どうしよう……僕の手じゃ、バルガスさんを助けられない……!」
手のひらに滲む血と汗。
悔しさと焦りでアスターが胸を押さえた時――ポケットから、ミレイの日記帳がポロリと床にこぼれ落ちた。
パラリと開いた頁から現れたのは、あの日、裏山で二人で摘んだ――透き通るような『青い野花』の押し花。
幼い頃から十年間、病弱なアスターの身体を治すために、ミレイが毎日「治れ、治れ」と純粋な祈りを込め続けてくれた花。
大聖女として覚醒するほどの、国家規模の神聖治癒の魔力が十年間分染み込んだ、枯れることのない奇跡の花弁。
(これだ……! ミレイさんの神聖な祈りと愛が宿ったこの花なら、太陽樹の荒ぶる魔力を包み込める……!)
アスターは震える手で青い野花をすり潰し、その青露エキスを一滴、黄金の太陽樹の雫へと垂らした。
ジュワァァァッ……!
黄金の雫が青い光を帯び、初めて拒絶することなく薬液が融合を始めた!
「いける……! あとはこれを完全に均一に練り上げれば、アムリタが完成する……!」
アスターは乳棒を握り、渾身の力で乳鉢の中を旋回させた。
――だが。
ボフッ……!
「うわっ!? だ、ダメだ……っ! 魔力圧が強大すぎて、僕の未熟な調合速度じゃ、均一に混ざりきる前に熱暴走して焦げ付いちゃう……! 僕の腕力とスピードじゃ、どうしても混ざりきらない……!」
恐怖と悔しさで、アスターの視界が涙でぐしゃぐしゃに滲む。
その時だった。
焦るアスターの姿をじっと見つめていたクララが、ハッと目を見開き、自分の腰のポーチを漁り始めた。
(……待てよ。アスターは普段は三キロの壺すら持てないヒヨコだ。だけど、痺れ草で麻痺した時、風邪で高熱を出した時、泥酔した時、激辛煙幕を吸った時……『何かのデバフにかかった時だけ』、神話級のデタラメな力を発揮した……!)
クララの瞳に、確信の光が宿る。
(調合だって同じなんじゃないか……!? こいつの脳と身体を極限の異常状態に追い込めば、人間業を超えた神速の調合ができるはずだ!)
「アスター!」
「は、はい……? クララさ――むぐぅ!?」
クララがアスターの顎を掴み、ポーチから取り出した漆黒の小瓶――徹夜探索用の超危険劇薬『超濃縮覚醒黒ハーブエキス(カフェイン千倍原液)』の栓を引き抜き、アスターの口の中へとダイレクトに一気飲みさせたのだ!
「んぐっ!? ごくっ……ごくんっ……!?」
「いいから飲み干しな! バルガスのおっちゃんを助けるんだろォォッ!!」
ドロリとした超苦い劇薬が、アスターの胃袋へと雪崩れ込んだ。
ゴクンッ……!
瞬間。
致死量寸前の超高濃度カフェインが、病弱で刺激物に弱いアスターの中枢神経を一瞬で完全ジャックした。
バチバチバチバチッッッ!!
脳内で何かが音を立てて千切れ飛んだ。
アスターの瞳孔がカッと見開き、瞳がバキバキに血走って、視界が一面の極彩色に染まる。
「う、うおおおおおおおおおおっっっ!!」
下戸で病弱なアスターの身体が、極限の【カフェイン過剰覚醒ガンギマリデバフ】を発症したのだ!
「世界が……世界の時間の流れが止まって見えますぅぅぅぅっ!! 頭が冴え渡りすぎて宇宙の誕生と終焉が見えますよおおおおおっ!!」
「い、いいぞアスター! そのテンションで調合しろォォッ!!」
「調合だあああああっ!! 混ぜ混ぜ神速オーバードライブうううっっっ!!!!」
普段の弱気でおっとりしたアスターの人格は完全に消滅していた。
ガンギマリの笑顔で乳棒を握りしめたアスターの両腕が、神話の領域へと突入する。
シュバババババババババッッッ!!!!
祭壇に、目にも留まらぬ無数の白銀の残光が走った。
一秒間に数万回を超える超絶神速の乳棒回転。
太陽樹の荒れ狂う神聖魔力圧を、素焼きの乳鉢の中で瞬時にねじ伏せ、ミレイの青い野花の粒子と分子レベルで完璧に完全融合させていく!
「混ざる! 混ざるぞおおおおっ! 完全調和アアアアッッッ!!」
絶叫しながら乳棒を旋回させること、わずか三秒。
カアァァァァァァッ……!
乳鉢の底から、神聖なエメラルドグリーンの眩い光の柱が天を衝いた。
太陽樹の黄金と、青い野花の奇跡が完全に調和し、芳醇なハーブの香りを放つ温かい薬液へと変貌したのだ。
古代秘薬『万能浄化薬――アムリタ』。
あらゆる呪いと猛毒を完全に浄化する、神話の奇跡の完成だった。
「アムリタ……完成……ですぅ……」
小瓶にキュッと薬液を詰めた瞬間、アスターの脳の過剰覚醒スイッチがプツンと切れた。
「……ふぅ。一気に電池切れました……すやすや……」
コテン、とアスターの身体はクララの胸元へと倒れ込み、そのまま完全な熟睡モードへと突入した。
「調合した瞬間に電池切れすんなバカアスター!! ……でも、本当によくやったよ!」
クララは満面の笑みでアスターを背中に担ぎ上げ、小瓶を胸に抱いて神殿を駆け出したのだった。
――迷宮都市・路地裏『緑竜の息吹亭』。
傷だらけのトーマス君やレオン君たち路地裏連合軍と合流し、店に飛び込んだ時、バルガスの身体はすでに顎から首筋、そして左胸の心臓近くまで漆黒の石化に覆われていた。
脈拍は弱まり、体温は氷のように冷たい。
「トミー君、リリィちゃん、どいて!」
クララの背中から目を覚ましたアスターがベッドサイドへ滑り込み、完成したアムリタの小瓶を抜いた。
「バルガスさん、飲んでください……!」
エメラルド色の温かい薬液を、バルガスの唇からゆっくりと喉の奥へ流し込み、残りを黒く石化した右腕全体にたっぷりと塗り広げる。
一秒、二秒――。
そして。
パキッ……!
澄んだ硬質な音が鳴り響き、バルガスの右腕を覆っていた漆黒の結晶に、白い亀裂が走った。
パキパキパキパキッ……!!
亀裂は瞬く間に胸元、首筋へと広がり、内側から眩い黄金の光が溢れ出す!
黒い結晶はキラキラと光る粉塵となって蒸発し、その下から――十年ぶりに血色の戻った、健康な皮膚が現れたのだ。
「う……うぅ……っ」
バルガスの喉から力強い息が漏れ、固く閉じられていた瞼がゆっくりと開いた。
「お、おっちゃん……!?」
「バルガスさん……!」
バルガスは信じられないといった様子で、自分の右手を持ち上げた。
十年間動かなかった指先が、滑らかに握り拳を作り、力強く開かれる。
「腕が……動く……? 毒の気配が……完全に消えてやがる……」
バルガスは呆然と呟き、やがて、涙でぐしゃぐしゃになったアスターの顔を見つめた。
「小僧……テメエ、本当に薬を作ってきやがったのか……」
「……はい!」
張り詰めていた緊張が一気に解け、アスターの瞳から大粒の涙が溢れ出した。
アスターはバルガスの温かい胸に飛び込み、泣きじゃくりながら叫んだ。
「治って……治って本当によかった……! バルガス師匠……っ!!」
初めて口にした『師匠』という言葉。
バルガスは目を見張り、やがて――苦笑するように煙管を取り出すと、大きな掌でアスターの頭を乱暴に、けれど誰よりも温かく撫でてくれた。
「……フン。オズワルドの野郎に自慢してやりてえくらい、生意気で最高の弟子を持っちまったぜ。……よくやったな、アスター」
「「「わあああああああああっっっ!!!!」」」
部屋中が、割れんばかりの歓声と涙に包まれた。
クララが泣き笑いでアスターの肩を抱き、レオン君やトーマス君たちが抱き合って飛び跳ね、トミー君とリリィちゃんがバルガスに抱きつく。
路地裏の小さな薬屋は、奇跡の歓喜に満たされていたのだった。
――それから、半年余りの月日が流れた。
石化の古傷が完全に完治したバルガスのもとで、アスターはさらに厳しい調合修行と薬草学の講義に励み続けた。
十年前の宮廷薬師院で培われたバルガスの超一流の技術、あらゆる素材の癖を見抜く眼、そして患者に寄り添う薬師としての魂――そのすべてを、アスターはスポンジのように吸収していったのだ。
手のひらの豆は固くなり、調合の精度とスピードは目覚ましい成長を遂げ、いまや『緑竜の息吹亭』の看板調合師として、迷宮都市中の冒険者たちから絶大な信頼を集めるまでになっていた。
そして――。
迷宮都市に弟子入りしてからちょうど半年が過ぎた、ある秋の日の夕暮れ。
カウンターで煙管を燻らせていたバルガスが、分厚い革張りの推薦状と、一振りの上質な薬草採取ナイフをトンと置いた。
「小僧。……いや、アスター」
「はい、バルガス師匠」
「俺が教えられることは、全部テメエの頭と手に叩き込んだ。今のテメエの腕なら、王都の宮廷薬師院の鼻持ちならねえ連中相手でも、胸を張って渡り合える。……オズワルドの野郎との約束を果たしに、そして待たせてるあの大聖女を迎えに、王都へ行け」
「師匠……」
「俺の店をここまで大きくしてくれたんだ、あとは俺とガキどもでしっかり守る。……テメエの道を、前だけ見て進んでこい!」
バルガスの力強い言葉と温かい眼差しに、アスターは深く、深く頭を下げたのだった。
――そして、王都へ発つ前夜。
店では路地裏の仲間たちを集めた、アスターの盛大な送別会が開かれた。
アスターが腕によりをかけて作った特製ハーブポトフと焼きたてのパンを囲み、冒険者もスラムの子供たちも、みんなで歌い、笑い合った。
「アスター兄ちゃんの飯が食えなくなるの、寂しいぜ……」
「王都に行っても、俺たちのこと忘れないでくれよな!」
トーマス君やレオン君たちがアスターを囲んでグラスを合わせる中、ふと見ると、クララが一人、裏口の木製階段に腰掛けて夜風に当たっていた。
手にしたエールを口に運ぶこともなく、琥珀色の瞳でじっと夜空を見上げている。
「クララさん?」
アスターが湯気の立つハーブティーのカップを持って近寄ると、クララはビクッと肩を跳ね上がらせ、慌ててエールのジョッキを隠した。
「な、なんだいアスター! べ、別に夜風に当たってただけだよ! あんたのことなんか考えてないからね!」
「えっ? あ、はい……? 冷たい風に当たっていたので、温かいハーブティーをどうぞ」
「ふ、ふん! せっかくだから飲んでやるよ!」
クララはそっぽを向きながらカップをひったくり、ふーふーと息を吹きかけて一口すする。
とたんに、その白い頬がポッと赤く染まった。
「……べ、別に美味しくなんかないんだからね。ただ、ハーブの香りがちょっといいだけさ」
そう言いながら、クララは両手でカップを大事そうに抱え込み、ごくごくと幸せそうに飲み干していく。
「クララさん、今日は本当にありがとうございました。クララさんがいなかったら、僕、薬を作れませんでした」
「ば、バカ言んじゃないよ! あたしはただ、あんたの尻を叩いただけさ! ……だいたい、あんたは最初からそうだよ」
クララはカップの縁を見つめながら、唇を尖らせた。
(……ちくしょう。最初は三キロの薬壺すら持てないヒヨコのくせにさ。泥酔してあたしのために神速で剣を振るうわ、ガルシアの私兵から店を守るわ、迷宮最深部でおっちゃんのために命を懸けるわ……! いつの間にか、あたしの前でかっこいいとこばっかり見せやがって……!)
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられるように熱い。
(本当はさ……『王都なんか行くな、ずっとあたしのそばにいな』って……言いたいよ。……でも、そんなこと言えるわけないだろ。あいつには、オズワルド師匠との約束があって……王都で待つ幼馴染がいるんだから)
アスターが大切そうに抱えている手帳や鍵、そして王都を見据えるまっすぐな瞳を見つめ、クララは自分の胸に湧き上がる切ない想いをそっと飲み込んだ。
(あたしの惚れた男なんだからさ……。王都の偉そうな宮廷薬師どもを、アッと言わせてきなさいよ……!)
クララはふっと息を吐き出すと、立ち上がってアスターの頭をクシャクシャと乱暴に撫で回した。
「アスター!」
「ふぁっ!? は、はいっ!」
「あんたの淹れたお茶、世界一うまいよ! ……明日早いんだから、主役はとっととみんなの所へ戻って飯を食わせな!」
「……はい! クララさんも一緒に食べましょう!」
アスターが笑いかけると、クララは真っ赤になった顔を背けながら、「うるさい、あたしは後で行くよ!」と照れ隠しにアスターの背中を小突いたのだった。
――そして翌朝。
迷宮都市の青空の下、西の乗合馬車停留所。
アスターの腰にはバルガスから授かった上質な薬草採取ナイフ、バッグの中にはオズワルド師匠の手紙とバルガスの分厚い推薦状、そしてミレイの実家の鍵と日記帳が大切に収められていた。
二人の偉大な師匠に背中を押され、一人前の薬師として認められたアスターは、満を持して王都へ旅立つことになったのだ。
「アスター、ほら!」
見送りに来てくれたクララが、首から下げていた古い真鍮の古銭ペンダントを指先でパキリと二つに割り、その半分をアスターの首に乱暴にかけてきた。
「これは……?」
「べ、別にあんたのために用意したわけじゃないからね! たまたま二つに割れたから、ゴミにするのも勿体ないし、あんたが途中で野垂れ死なないように、お守り代わりにあげるだけなんだから!」
クララはプイッと横を向きながら、琥珀色の瞳を潤ませていた。
「あたしはさ、この迷宮都市で、トミーやリリィたちを守りながら、もっともっと強い一流の冒険者になる。だから……」
クララはツンと鼻を鳴らし、それから、とびきりの笑顔を向けた。
「あんたも王都で、立派な宮廷薬師になりな! ……離れてても、あたしたちはずっと最高の相棒なんだからね!」
「……はい! クララさん、本当にありがとうございました!」
アスターが頭を下げ、馬車に乗ろうと背を向けた――その瞬間だった。
「……ちょっと待ちな、バカ!」
グイッ!!
クララの強い手が、アスターの胸ぐらを勢いよく引き寄せた。
「えっ……クララさ――」
振り返ったアスターの言葉を遮るように。
ちゅっ……!!
柔らかく、温かい感触が、アスターの唇を真っ正面から塞いだ。
朝の光の中、甘酸っぱい野苺の香りと、クララの熱い吐息が一気にアスターの五感を支配する。
「…………っ!?!?」
思考が完全に真っ白になった。
ほんの数秒、それとも永遠のような時間。
唇が離れた瞬間、クララの顔は耳の先から首筋まで、全身が茹でダコのように真っ赤に沸騰していた。
その琥珀色の瞳には、大粒の涙がキラキラと光っている。
「……へ、へへっ! こ、これは魔除けの『前払い』だよ!」
クララは赤くなった顔を手で隠しながら、照れ隠しにアスターの胸をドカドカと両手で叩いた。
「いいかいアスター!? 王都に行ったからって、貴族の令嬢や聖女にデレデレ鼻の下伸ばしたら、あたしが王都まで殴り込みに行って長剣で八つ裂きにするからねッ!! ……絶対に、誰よりも立派な薬師になって……あたしを迎えに……じゃなくて、顔見せに来なさいよバカアスターッ!!」
「ふ、ふにゃああああああっっっ!?」
アスターの顔からもプシューッと湯気が吹き出し、頭が真っ赤にショートした。
唇を押さえてパニックになるアスターたちの後ろから――。
「「「「ヒュウウウウウウウッッッ!!!!」」」」
「クララ姉ちゃん、完全告白キタァァァァァッ!!」
「アスター兄ちゃん、男前だぜェッ!!」
遠巻きに見守っていたレオン君やトーマス君たちが、口笛を吹き鳴らして大歓声を上げた。
トミー君とリリィちゃんも「お姉ちゃん、アスター兄ちゃんとちゅーした! ちゅーした!」と手を叩いて跳ね回っている。
バルガスだけが「ケッ、朝っぱらから特大の惚気を見せつけてくれるぜ」と呆れ顔で煙管を燻らせていた。
「うるさい! 見てんじゃないよこのバカ共ォォッ!!」
クララは長剣の鞘を振り回して仲間たちを追い散らし、真っ赤な顔のまま、アスターの背中を馬車の中へとドンと突き飛ばした。
「早く乗りな! 馬車が出ちまうよ!」
「は、はいっ……!」
ガラガラと車輪が回り出し、馬車がゆっくりと前進を始める。
窓から身を乗り出したアスターに向かって、クララは涙を手の甲でゴシゴシと拭い、満面の笑顔で誰よりも高く手を振ってくれた。
「アスター! 元気でねェェェッ!! 浮気したら八つ裂きだからねェッ!!」
「クララさんも! バルガス師匠も、みんなも……行ってきます!!」
迷宮都市の石畳が、遠ざかっていく。
唇に残る熱い感触と、首にかかる真鍮のペンダント。
胸の中には、誰にも負けない強い勇気と誇りが満ちていた。
――だが、その時。
ポケットの中で、大司教ヴィンセントからもらった飴玉が、冷たい紫色の光を一瞬だけ微かに放ったことに、アスターはまだ気づいていなかった。
同じ頃――遥か東の王都、壮麗なる大聖堂の最上階。
豪奢な結界の部屋に軟禁されたミレイは、鳥籠のような窓から夕暮れの空を見つめ、静かに祈りを捧げていた。
「アスター……。会いたいよ……」
だが、教会本部に厳重に囲われた『奇跡の大聖女』と、身寄りもない一介の新人薬師。
二人の間には、あまりにも高く分厚い身分と陰謀の壁が立ち塞がっていた。
再びミレイの隣に立つためには、王都中の薬師たちを凌駕し、国を動かすほどの最高位薬師へとのし上がるしかない。
アスターの、本当の試練と成り上がりの旅が――いま幕を開けようとしていた。
これにて、第1章『旅立ちと迷宮都市編』(全15話)が堂々の完結となります!
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
クララの機転によるカフェイン過剰覚醒デバフ神速調合、バルガス師匠の完治、半年間の厳しい修行と免許皆伝、前夜のツンデレなハーブティー、そして涙と赤面の別れのキス……!
クララを残し、舞台はいよいよ大都市・王都へ!
しかし王都では、大聖女として軟禁されたミレイとの間に身分と陰謀の分厚い壁が立ちはだかります……!
もし少しでも「面白かった!」「クララ最高に可愛かった!」「第2章も読みたい!」と思っていただけましたら、
下部の【★★★★★】評価や【ブックマーク追加】で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!
次回より、第2章『学術都市アイゼン編』が開幕いたします!




