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物語の主人公からは遠く離れた例えるなら周囲の雑踏Aのような存在、それが神崎碧という男。

しかし人は誰しも自分という物語の中では主人公を演じると言う、冴えない奴がある日突然・・・なんていうのは物語の中ではよくある事。

ならばその冴えないやつに分類される碧だって少しは希望を持ってもいいんじゃないか?


否、ハッピーエンドに向かって調整された物語と先行き不明の人生を同一視するのは間違いだ。

断言しよう、全人類の大半が迎えるのは納得いかないノーマルエンドであってハッピーエンドに行けるのはほんの一握りだろう‥‥クソゲーめ。

結局人は持つか持たざるか。

高校生の段階で真理に至ってしまった碧は毎日を平凡に生きるだけの雑踏Aである。

さて、そんな碧は目が覚めるとあたりは夜なのだろうか暗かったがかろうじて月の光でそこが木々がうっそうと生い茂った森の中だというのは分かった。


「‥‥‥ここは、何処だ?」


なぜこんな場所にいるのか全く思い出せない。たしか学校が終わって教室で友達同士馬鹿騒ぎする連中を尻目にさっさと家に帰って趣味に興じようと意気揚々と帰り支度を進めていたところまでは記憶がある。

名前も帰宅してからの崇高な目的も覚えているのだから記憶喪失では無いはずなのだがここに至るまでの経緯がすっぽりと抜け落ちている。


「どうなってる?」


状況が全く把握できず、しばらく辺りを歩き回ってみる。しかし、家はおろか道路のような人によって舗装された道すらも見つからない、草木だらけの獣道。

誘拐でもされたのか? だとしたらなぜこんな場所で放置されているんだ? それ以前に自分なんかを誘拐して何の得になるのだろう、別に親が大企業の社長という訳でもなくごく一般的な家庭の一般的なお子さんなんだが。それに誰かに恨みを買うほど人との関わりも無い。

訳の分からない事態に恐怖を感じながらもじっとしていたってどうにもならないと碧は目指すべき場所も分からないけどとにかく移動してみる事にした。

しかし月明かりだけで森の中を進むなんて無茶がある。数メートル先もまともに見えない闇の中、変わらない景色、確かに足は動かしているのにいつまでも同じ場所で一歩も進んでないみたいに錯覚してしまう。まるで出口のない迷宮に迷い込んだみたいだ。


「誰か居ませんか〜〜!」


大声で助けを求めても返ってくるのは木々のざわめきだけ。

完全に遭難、さすがに命の危機を感じ始めてきたその時、遠くの方に人影を見つけた。


「すいません!」


ようやく人に会えたことに安堵し急いで駆け寄るもそこにはもう居らずまた少し離れた地点にその人物は立っていた、これを数度繰り返しいい加減苛立ちを覚え始めた碧は語気を強くし訴える。


「あのっ、助けて欲しいんです!」


しかし何の反応も示さない。

今度はずっと目を離さずに近づくと見えた輪郭が女性のように見えて足を止める。

夜中、人の気配を感じない森の中に女性が一人。声をかけても返事は無く近付けば消えるように遠ざかる、ついでに長い黒髪‥‥‥‥‥導き出される答えは心霊。


「いや‥‥まさか‥‥」


ついつい声に出る。

今までそういうのは見たこともない。霊感なんて無くて金縛りにすらあったことはないのに。

まさかここは心霊スポットか!?

驚愕の結論を導き出した時、女の顔が見えてしまった。

長い黒髪をかき分けた先にはTVから這い出て来る有名な怨霊の如く人を呪うような恐ろしい形相があるのかと思っていたがそいつは薄ら微笑んでいた。特徴的なのは赤い瞳、あまり見ないが故に少しだけたじろいでしまうも‥‥‥‥ちょっと、いや、かなり綺麗だと思ってしまうちゃっかりしている碧。しかし駆け寄る勇気もなく足を止めその場で硬直していると突然、煙みたいに女は消えた。

目の前でしっかり消える瞬間を目撃してしまった以上、それが人である可能性は消えた。

恐怖がより加速して不安が募ったせいか周りの音がやけに気になる。草木が風で揺れてるだけかと思っていたがそこに何かの息遣いも混じっているようにも聞こえてきた。

少し歩くとその音も後ろから追って来る。

先程の女とは違いちゃんと重みのある生き物がこちらの移動に合わせてずっと後ろをついて来ているみたい。

獣がこれほど慎重に様子を伺うとも思えない・・・・かと言って人だとしても助けを求める人間の後を黙ってついて来るだけの人はさすがに怖い。碧は振り切ろうと走り出す、すると後ろの何かも走り出す。

距離が離れない、どこまでも追いかけてくる。


「何なんですか?」


碧の言葉は森の暗闇に呑み込まれたみたいに返事は返ってこない、けれど何かの息遣いは確かに感じる。

そこには確実に何かが居る。

訳の分からない状況と疲労でいい加減腹が立ってきた碧は近くに落ちていた石を拾い上げて放り投げて威嚇。

思えば危険な行為。相手は碧をこんな状況に追い込んだ犯人かもしれないのに刺激するような真似をして何をされるか分かったもんじゃない。

しかし追い詰められた焦燥からの無謀ではあったがそのおかげで追跡者の正体は分かった。

それは熊・・・・のような生物。

四足歩行からの立ち姿は熊だがおかしいのは耳が長く毛は刺々しい、そして一番目を引くのは口が裂けているかの如く大きいところ。碧に熊の知識が豊富にあるわけではないが少なくとも自分の国でこんなのは見たことも聞いたこともない。

とするとここは海外かはたまた・・・・などと考えている場合ではない!

大きな口から滴り落ちる涎が碧の命の危機を表している。


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