9 リリアの好みのタイプ
トーマスの事を聞くとボンディング公爵はなんだか少し機嫌が悪くなってしまった。
私とトーマスの計画を知らないのだから当然だわね。
ボンディング公爵と初めて会ってからまだ数時間。
まだ、お互い知らないことだらけだけど、彼が優しい人なのは間違いないわ。
私のことを "愛する婚約者に捨てられたかわいそうな令嬢" だと気を使い、トーマスに対してはそんな私を捨てた "浮気者の最低男" だと怒っている。
そうじゃないんだけどな。
トーマスの真意が分からない今の段階では、あの婚約破棄が私とトーマスの計画だったことはまだ言えないし。
「君を裏切るような男とはよろしくしたくはないのだが」
あ、これはまずいわね!
これじゃ、今後トーマスと同居とか無理じゃない?
トーマスの株を上げなきゃ。
トーマスは優しいのよ?
私は裏切られてなどいないのよ?
トーマスが私を裏切るなんてことは天地が避けてもあり得ないのよ?
だからトーマスを嫌いにならないで?
「トーマスは優しい人間ですわ。今回の事も、沢山考えて、沢山悩んだ末に出した結論だったのだと思います。私はトーマスの事を信じておりますもの」
「・・・・・・・・・・」
あ、なんだかもっと機嫌が悪くなってしまった気がするわ!
これはしばらくトーマスの話題は避けた方がいいわね。
「こ、このスープもとっても美味しいですわ!トマトとコンソメのバランスが絶妙ですわね。あら、こちらのお魚も。これはヒラメかしら、ふわふわしていて塩加減も素晴らしいわ!」
とにかくニコニコ笑って、料理を誉めてみた。
後ろで控えてる料理長が、真っ赤になって喜んでいる。
うん、これからも美味しい食事をお願いね!
「ボンディング様は沢山食べられるのですね。私も見かけによらず結構食べるんです。でもボンディング様のように大きくはなれませんでしたわ」
「俺は大き過ぎる。魔物のようだと噂がたつのも仕方がない」
「私は大きな人が好きですわ。お顔も甘い顔よりキリッとしている方が好きなんです。本当ですわよ?ボンディング様は私の好みのタイプなんです」
この『アレクサンドラ王国の恋する乙女』の世界は中性的な甘く整った顔の男ばかりだ。
体つきも身長は高いが、ヒョロッと細くてなんだか頼りない。
さすが乙女ゲームの世界ね。
そんな顔だけ男など芸能界でいくらでも見てきたわ。
私の好みはアスリート系なのよ。
特に格闘技系。
柔道にレスリングに空手にプロレス、その中でも一等好きなのはボクシング!
フライ級の体型もいいが、やっぱり大きいほうが好き!
ボンディング公爵はまさしくスーパーヘビー級のボクサーそのもの!
私の好みドストライク!
この世界で初めて見つけた理想の男なのよ!
「・・・・・・俺が君の好みのタイプ?」
「はい!他の人より頭一つ分大きな体も、どんなものからも守ってくれそうな太い腕も、硬そうな髪の毛も、獲物を狙う鷹のような目つきも」
そこまで言って、にっこり笑って見せた。
ボンディング公爵、機嫌は直ったかしら?
あ、顔を真っ赤にして下を向いてる。
これは怒りで赤くなってるわけじゃないわよね?
「ご、ごめんなさい!私ったら大きな声ではしたないことを・・・・・・」
「か、構わない。君が大きな人が好きだということは分かった」
分かってくれるのね!
機嫌もすっかり直ったようだし、良かったわ。
「ああ、だから熊なのか」
「え?」
「ぬいぐるみ、あれは熊だろう?熊と言えば大きな動物の代表格だからな」
「ああ、マシューのことですか?」
確かにマシューは熊だけど小さいわよ?
それに、いくら大きいのが好きって言っても動物は違うわ。
大きな『人間の男』が好きなんだけど?
「マシュー?名前が付いているのか」
「勿論です!小さい頃からずっと一緒ですから。私はあの子がいないと眠れません」
「そうか、ずっと大事にしているんだな」
「はい、とっても大事な子なんです」
そうよ、大事な子なの。
昔、眠れない私にトーマスがくれたの。
「摩周の代わりだよ」
って。
────────────────────
10 愛してしまう
~レオナルド・ボンディング目線