22 解放
「これがリンと俺の前世だ」
レオナルド様が泣いている。
厳ついその顔をぐしゃぐしゃにして、泣いている。
ああ、泣かないで。
私はレオナルド様を泣かせたくはないのよ?
優しい世界で優しいあなたと笑っていたかったの。
だけどごめんなさい、私はあなたを苦しめる。
私はトーマスと離れる事が出来ないから。
離れてしまえば壊れてしまう。
私も、トーマスも。
摩周を産み出したのは私だ。
摩周は今世では、自身の肉体を持つトーマスとして生まれて来た。
私はトーマスの命に責任を持たなければならないわ。
もう、私の中の摩周ではないのだから。
「俺たちは結婚なんてしない。元々一人の人間なんだ。結婚なんて出来るわけがない。だから婚約破棄をして隣国に逃げて、二人でひっそりと暮らすつもりだったんだ。でも俺はその計画を勝手に変更してリリアをお前の婚約者に据えた。リリアは何も知らなかったんだ。ごめんねリリア。・・・・でもレオナルドはいい男だったろ?」
「うん、とってもいい男だった。トーマス、ありがとう」
「レオナルド、お前を巻き込んで悪かった。リリアを守るには、お前に託すのが一番確実だったんだ。でもそれだけじゃない、リリアに幸せになって欲しかったんだ。リリアはお前といれば幸せになれる。俺たちは身体は別々になってもやっぱり一心同体だからね、分かるんだよ。だから頼む、リリアと俺を受け入れてくれないか?同居させろなどとは言わない。三日に一度会わせてくれるだけでいいんだ」
トーマス、駄目よ。
私はもうこれ以上、レオナルド様を傷つけたくはないの。
「いいえ、レオナルド様、貴方が傷ついてまで私とトーマスを受け入れる事はないわ。私たちは隣国で静かに暮らします。・・・・この1ヶ月間、私は幸せでした。私が心から愛する事が出来たのは、前世でも今世でもレオナルド様だけ。もう、それだけで幸せなんです。だから、お願い、もう、泣かないで・・・・・・」
「リリア・・・・・・」
呟いたレオナルド様は涙で濡れた顔を乱暴に拭うと、私の顔を挟み込むように両手で掴み、大声で怒鳴った。
「お前は馬鹿か!!! リリア! お前は俺がどれだけお前を愛しているのか解っていないのか! お前がいなければ生きて行けないのは俺も一緒なんだよ!! 出ていくなど絶対に許さない!!」
思いの全てを爆発させたようなレオナルド様の叫び声に、私の全身が震えた。
「リリア、リン、どっちでもいい。どんなお前でも愛してるんだ。トーマスが引っ付いて来ようと、マシューが引っ付いて来ようと構わない。お前の全てを受け止めてやる。俺の側にいろ」
「レオナルド様・・・・・・」
「リリア、よく聞け。俺は俺の全てを懸けてお前を幸せにする。お前の『新しい幸せな世界』は俺の隣だ!分からないなら何度でも言ってやる。俺の隣で幸せになれ!」
目眩すら覚えるほどの幸福感が私を満たした。
ああ、見付けた、見付けたよ摩周。
地獄のような世界を生きていた。
耐えきれずに摩周を作り出し、私の地獄に引きずり込んだ。
地獄を抜け出しても、私たちは離れられない。
二人でいい。摩周がいてくれれば何もいらない。
寂しい二人、悲しい二人。
本当は、ひとり。
ずっと探してた。
真っ暗闇の中を手探りで探し続けていた。
どこある?どこに行けばあるの?
ねえ、摩周、摩周、摩周、摩周。
今、新しい幸せな世界がここにあった。
「リン、見つかって良かったね、『新しい幸せな世界』」
トーマスが泣いている。
私も泣いている。
私たちは、もう、気付いている。
リンと摩周が、本当の夜明けを迎えていることに。
「トーマス、私はやっと摩周を解放してあげられる」
「解放されたのはリンだよ。リンはあの地獄の世界にずっと縛られてた。解放してくれたのはレオナルドだ。俺はリンが俺を生んでくれたことに感謝してる。ありがとう、リン」
「摩周、ずっと、ずっと側にいてくれてありがとう。手を繋いでいてくれてありがとう。抱き締めていてくれてありがとう」
「うん、リンが幸せになって良かった。レオナルド、リリアをよろしくね。俺たちはもう、大丈夫。離れても生きて行ける。俺たちはお前のお陰で、初めて一人の『リリア』と一人の『トーマス』になれた。・・・・・・ありがとう、レオナルド」
手を繋ぎ、静かに目を閉じた。
今この瞬間、私とトーマスは『リン』と『摩周』の葬式をしているのだと思った。
辛かったね、苦しかったね。
でも、頑張った。
そう、あなたたちは、頑張ったんだよ。
さようなら・・・・・・
寂しい、悲しい二人はもう、いない。
『新しい幸せな世界』に足を踏み出したリリアとトーマスがここにいた。
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23 マサヤの遺書
~レオナルド・ボンディング目線 へ




