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20 リンと摩周③ ~レオナルド&トーマス目線

前半レオナルド目線

後半トーマス目線です。


~レオナルド目線


「レオナルド、大丈夫か?」

トーマスが泣いている俺を気遣う。


俺は両手で顔を覆った。

溢れ出る涙は留まることなく、俺の手の平を濡らしていく。


幼いリンが、心の中に架空の人物を作り出してしまうほどの、過酷で残酷な日々。


『摩周がいなければ生きて行けないの』


リリアの言葉が頭の中でこだまする。


リンの壮絶な幼少期。

リリアはリンの時に、既に壊れてしまっていたのだ。


「・・・・・・それで、そのまま命を落として・・・・この世界に来たのか?」


「いや、俺たちが死んだのは24歳の時だ。まだ続きがあるんだ。レオナルド、お前がこれ以上聞きたくない、リリアを受け止められないと言うならここで止めてリリアを連れて出ていく。どうする?」


もう聞きたくないと耳を塞いでしまいたい。

でも、聞かねばならない。

俺はリリアを守る。

俺はリリアの全てを聞き、理解して、受け止める。


「大丈夫だ、聞かせてくれ」


涙を拭い、真っ直ぐにトーマスを見た。


「分かった。続けるぞ」







トーマス目線


・・・・・・それから直ぐに、あの部屋に警察が来たんだ。近辺の住民から異臭がすると通報があったらしい。




ドンドンドンドンドンドン!!!


「加々美さん!警察です!いらっしゃいませんか!いるなら開けてください!」


「警部!この臭い、尋常じゃないですよ!」


「ああ!管理人さん、鍵を開けてください!」




ガチャガチャと鍵を回す音がする。

もう、あの女は死んだのに。



ドアの向こうから4、5人の男たちがバタバタと入ってきた。


みな顔を歪めてゴミの山を見上げると、ハンカチを口許に当てた。


「け、警部!!遺体です!女性の遺体発見!」


「ああ!直ちに署に連ら・・く・・・・」


閉じることさえも出来ないリンの虚ろな目と、『警部』の目が合った。


「・・・・・・子供だ、子供がいるぞ!おい!大丈夫か!生きているか!おい!」


リンはもう動けない。

俺は力を振り絞って、ゆっくりと瞬きをした。


「生きてる、生きてるぞ!救急車を呼べ!保護!保護!少女一名緊急保護だ!」


小さなリンの体は更に痩せ細り、『警部』に軽々と抱きかかえられた。



そうして、俺とリンは生まれて初めて違う世界に出た。



ああ、このドアだったのか。

こんな薄っぺらいドアの向こうにあったのか。

なんだよ、すぐそこにあったんじゃないか。

リンと俺が、あれほど、あれほど憧れた『違う世界』




病院に運び込まれたリンは衰弱した体に点滴を打たれ、激しい虐待による傷の治療を受けた。


背中の火傷はジュクジュクと膿を出し、虫が湧いていた。

医者がピンセットで取り除き、銀色のトレーに乗せていく。

それを見た俺とリンはまたそのまま気を失った。




どのくらい、入院していただろう。

俺とリンは点滴と栄養のある病院食を食べて、少しずつ元気になっていく。



「摩周、これ美味しいよ?半分あげる」


── こっちのも美味い!リンも食べな?


初めて食べる『調理』された食べ物。

違う世界には、こんなにも美味しいものがあったのか。


心地よい満腹感に幸せを感じながら、今日も二人抱き合って眠る。



あの女の死因は、酔っばらって寝ていたところにゴミの山が崩れてきたことによる窒息死と結論付けられた。





「ねえ、加々美リンちゃん?君、心の中に誰か棲んでいるよね?」


それはいきなりだった。

お医者さんが背中の火傷に薬を塗りながら聞いてきたんだ。


「はい、摩周です。ずっと一緒です」


リンが馬鹿正直に答えると、医者は「やはり解離性障害か」と呟いた。

そして、優しげな笑みを浮かべて残酷な言葉を吐いた。


「あのね、ずっと一緒にはいられないよ?君にはもう "ましゅうくん" は必要ない。解放してあげよう?」


その瞬間、リンと俺はパニックを起こした。

立ち上がり、椅子を倒し、棚に並ぶ薬品をなぎ払い、医者に掴みかかって叫んだ。


「─離れない!離れない!ずっと一緒にいるって約束した!ずっと一緒にいる!─」


あまりの剣幕に驚いた医者だったが、その後も事あるごとに、リンと俺を引きはなそうと話をしてきた。


俺とリンはその度にパニックを起こし、暴れ、奇声を発し、呼吸困難と痙攣を繰り返した。


「今はまだ、そっとしておいた方がよさそうだね」


くそ医者がやっと匙を投げた。


リンと俺は離れない、離れられない。

離れてしまえば、俺は勿論、リンも死んでしまう。





そうして二人、手を繋いだまま、児童施設に入り、学校へ通い、成長していく。


栄養のある物を食べ、毎日風呂に入り、清潔な服を着て、あの女に怯えることなくぐっすり眠り、朝は優しい陽の光りを浴びて起きる。


この頃が俺とリンの人生で、一番幸せな時だった。



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21 リンと摩周④

     ~トーマス目線 へ



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