17 リリアとトーマス ~レオナルド目線
レオナルド目線です
17リリアとトーマス
~レオナルド目線
「摩周、摩周、聞いて?今日の収録ねぇ、玄道と共演なの。あたし、アイツ嫌い。いっつもベタベタ触って来てさぁ、食事に誘われたけど瀬川さんが助けてくれたの」
「ねえ、摩周、新しい乙女ゲーム見つけたの!このヒロインめっちゃかわいーんだよ!でもこのナヨナヨした攻略対象はどうにかなんないかなぁ、スーパーヘビー級のボクサーみたいなのにすればいいのにね!」
「摩周、マサヤってどう思う? あたし、あの人なんか怖いんだよね。笑ってても、目が笑ってないの」
あの日を境に完全に壊れたリリアは、誰もいない空間に向かって意味の分からない事を喋り続けている。
まるでそこにマシューがいるかのように。
時に俺をマシューと思い込む。
「摩周、アイツが帰って来たよ!隠れなきゃ!」
そう言って俺をベッドに引きずり込み抱きついて、布団を被ってガタガタ震える。
「摩周、パン、食べる?はい、はんぶんこ」
枕の下に隠していたのか、カビの生えたパンを取り出して食べようとする。
ああ、リリア。
君はもう俺を見ないのか。
なあ、リリア。
君はこのまま夢の中で生きるのか?
「摩周、あたしから離れないでね、ずっとそばにいてね。約束だよ?」
潤んだ瞳で懇願するように俺を見つめ、ぎゅうっと抱きついてきた。
「ああ、そばにいる、ずっと。約束する」
君が嬉しそうに微笑む。
これでいい。
君が望むなら俺はマシューにだってなってやる。
君がここにいてくれるのなら、俺は何者でも構わない。
リリアの髪を撫で、頬を撫でる。
リリアの手を握り、その手に口付ける。
俺を背もたれにして眠るリリアを抱きしめる。
リリア、リリア、リリア。
夢の中で生きる君でもいい。
俺を見ない君でもいい。
愛してる。愛してる。
ずっとここにいて俺の腕の中にいてくれたら、それだけでいい。
コンコンコン!
慌てたようなノックが響いた。
「レオナルド様、セバスです!」
「どうした」
「そ、それが・・・・・・」
「何だ?なにか問題が起きたか?」
「ト、トーマス様がおいでになりました。奥様のナタリー様とご一緒です。今、メイドが客室に案内を・・・・・・」
一瞬で目の前が真っ暗になった。
駄目だ。リリアは渡さない!!
「すぐに追い返せ!!絶対にこの部屋に近づけるな!」
「か、かしこま・・・・・・」
ドタドタと廊下の床を踏みつける激しい足音が聞こえた。
「ト、トーマス様、今日のところはどうかお帰・・・・・・」
「うるさいどけ! リリア!リン!! そこにいるのかっ?!」
トーマスの叫び声がドアのすぐ向こうで響く。
やめろ!来るな!
お願いだ、お願いだから来ないでくれ。
リリアを離すまいと抱く腕に力を込めた。
「摩周?!摩周!!」
リリアが叫んできつく抱いた俺の腕からすり抜けた。
ベッドから転がり落ちるように抜け出してドアへ向かって走ったその瞬間、勢いよくそのドアが開かれ、トーマスが駆け込んできた。
「リン!!!」
「摩周!!!」
リリアがトーマスの胸に勢いよく飛び込んだ。
ああ・・・・・・終わった。
全て終わりだ。
リリアは行ってしまう。
マシューの元へ、トーマスの元へ。
「リン!大丈夫だ!もう、大丈夫」
「摩周ぅぅぅう!!!」
ぐっしょりと汗に濡れたトーマスの胸でリリアが泣きじゃくる。
トーマスはリリアを大事そうに抱き締めて、その首筋に頭を埋め、大きく息を吸った。
「ただいま、リン。遅くなってごめん」
「摩周!摩周!どこに行ってたの!?摩周がいなきゃ生きて行けないって、側にいてって言ったのに!!ましゅ・・・ま・・し」
突然リリアの呼吸がおかしくなった。
苦しそうに肩を上下させ、痙攣している!
「リリア!!」
リリアの元へ駆け寄ろうとする俺を、トーマスが片手で制した。
「リン!息を止めろ。そのまま5まで数えるんだ」
トーマスは素早く胸ポケットからハンカチを取り出すとそれを袋状に結び、リリアの口元を覆った。
「リン、落ち着け、大丈夫だ。ゆっくり吐いて、吸って吐くんだ、そう、ゆっくり吐いて」
トーマスは慣れた仕草でリリアの背を撫でる。
俺はそんな二人をただ見ていることしかできない。
「あんたがレオナルド?」
呆然と立ち尽くす俺に、ナタリーが話しかけてきた。
「トーマスの話を聞いてあげて。そんでリリアとトーマスを受け止めてあげて。あたしはどんなトーマスでも受け入れる覚悟は出来てる」
話?
そんなものは聞きたくない。
帰ってくれ。
頼むから、俺からリリアを奪って行かないでくれ。
「レオナルド、頼む。俺の話を聞いてくれないか?俺とリリアの本当の関係を。そして受け入れて欲しい。リリアはお前を愛してる。絶対だ、俺には分かる」
「リリアが俺を愛してる? 何故お前にそんなことが分かる!リリアを裏切ってそこの女にうつつを抜かし、傷つけたお前なんかに! 今さら何をしに来た! リリアは俺が守る! ずっとそばにいて永遠に守る! お前なんかには渡さない!」
「ああ、守ってくれ。俺のリリアを」
「・・・・・・俺の、リリアだと?!」
「そうだよ、俺はリリアでリリアは俺だから」
「なっ・・・・?」
「俺はね、リンの中にだけ存在した、リンのもうひとつの人格、摩周だ」
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18 リンと摩周①
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