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雷子  作者: 三幸
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雷編 波状逆落とし 中

雷編 波状逆落とし 中




 成都では軍議が行われていた。


姜尚「これより漢中に侵攻し曹操軍と戦います。敵・大将は夏侯淵。まずは、曹操軍が布陣している定軍山に向かいます」


馬超「早速、我が武勇を披露する機会に恵まれるとは」


姜尚「馬超さん。期待しています」


張飛「あー。兄ちゃんが馬超のことひいきしてるー」


姜尚「ひいきじゃないよ。張飛にも期待しているよ」


張飛「なんかとってつけた感じがするー。ねっ黄忠」


黄忠「人気急上昇中の姜尚軍師殿は気に入った者しか相手になさいませんからね」


姜尚「僕の知っている黄忠さんじゃない……凄く卑屈な感じがする……」


黄忠「何か言いましたか?」


姜尚「あっいえ、何も」


黄忠「しかし今回の戦は夏侯淵を討った者が一番の手柄になりますね。私が夏侯淵を討てば話しが早いということか」


張飛「そうすれば、兄ちゃんの相手にしてもらえるかもねー」


黄忠「張飛! そういう意味で言った訳では!」


張飛「じゃあ。張飛が夏侯淵倒して兄ちゃんを張飛の虜にさせちゃおうっと!」


黄忠「ならば私はそれを全力で阻止しましょう!」


 黄忠は力を込める。


趙雲「夏侯淵を倒した者が一番の手柄。それには自分も参加します」


張飛「えー、黄忠と私の勝負なのにー」


関羽「ふう~ん。趙雲まで……もちろん、それがしも……出陣して構わぬな」


馬超「子龍に俺の偉大さを知って貰う良い機会だ。夏侯淵の首は俺が貰う」


姜尚「賑やかでいいですね。ですが今回の定軍山の攻略には黄忠殿だけの参加とさせて頂きます。後は先鋒に孟獲さん、馬謖君と魏延さんと馬岱さん……そして張任さん」


張飛「なにそれ! どういうこと!」


趙雲「自分以外に夏侯淵を討てる者などおらんだろう! なのに何故自分を外す!」


姜尚「成都の守りをお願いします。敵の遊撃隊が益州に潜伏していることが分かりました。戦力までは把握出来ていませんが、こちらが攻撃の要と判断しました」


関羽「そういうことであれば仕方がないな。ここは素直に従おう」


趙雲「出来るだけ早く殲滅し救援に向かうから何とか踏ん張ってくれ」


姜尚「お願いします。馬超さんもよろしいですか?」


馬超「俺は子龍と共に戦えるのであれば何処でもいいさ」


張飛「張飛も兄ちゃんと戦えれば何処でもいいんだけど……駄目?」


黄忠「絶対に駄目!」


張飛「黄忠には聞いてない!」


姜尚「張飛は成都で劉備さんを守って欲しいんだ。益州はまだ完全に劉備さんに帰順していない。どうしても信用の出来る人に守りを任せたい」


張飛「うーん……分かった。全部終わったら分かち合おうね!」


姜尚「うっうん……」


趙雲「分かち合いか……次こそは鎧を脱がねばな……」


馬超「一体、何なんだその分かち合いとは?」


張飛「こうするの!」


姜尚「ぐぁああああ!!」


 突然の張飛からの分かち合いに姜尚は悲鳴を上げる。


黄忠「ひぃいいいい! 不潔です! 不純です!」

 分かち合いを目の当たりに黄忠は叫ぶ。


張飛「死線を超えた者通しが生き延びた喜びを分かち合うんだよ? 全然、変じゃないよ」


姜尚「はぁはぁ……まぁ……やりたい人だけでいいと思うけど……」


 姜尚は分かち合いから解放された。


馬超「死線を超えた者しかか……単騎で駆ければ条件は満たされるな」


趙雲「うん? 共に駆けるのではなかったのか馬超?」


馬超「うっ……悩む……俺はどうすれば……」


黄忠「ありえないわ……」


張飛「そう? 終わったら分かち合おうよ黄忠」


黄忠「張飛と……分かち合い……考えておきます」


姜尚「では各々、持ち場に向かいましょう」


 姜尚達は成都を出発する。





夏侯淵「劉備軍か……長坂で劉備を討ち取れなかったことがここまで響くとはな」


 定軍山の頂上に布陣する夏侯淵は一人呟く。


曹仁「夏侯淵! 補給隊が到着したぜ!」


夏侯淵「悪かったな曹仁。雑用を押し付けて」


曹仁「さっきはやられちまったからな。少しでも働かないとよ! 曹操様に怒られちまうぜ!」


夏侯淵「補給が間に合ったこと。今の状況から考えてこれ程嬉しいことはない」


曹仁「なんだかヤベー状況みてーだな……ちょっと劉備軍の偵察してきたら気合入っているのがいるわいるわ」


夏侯淵「出来るだけ定軍山に誘き出したい」


曹仁「仲達が言っていたぜ。攻めねえと補給線が絶たれるってよ」


夏侯淵「守りに徹する気などない。その為の別働隊を潜伏させたんだ。曹仁が負けてる間に」


曹仁「くぁあああ! 夏侯淵! それは言わないでくれよ!」


夏侯淵「地の利は我らにある。逆落しの波状攻撃。波状逆落としで劉備軍を叩く」


曹仁「俺様と夏侯淵の波状攻撃か。ははは! これなら劉備軍相手でも余裕だな!」


夏侯淵「ん? 波状逆落しは俺と……」


曹仁「やっぱ夏侯淵すげーわ。こんな状況で流石としか言いようがねえ!」


夏侯淵「いや……だから俺と楽進で波状逆落しを行うんだ」


曹仁「なんでだ!? なんで俺様じゃないんだよ!」


夏侯淵「曹仁では逆落しはまだ早いんじゃないか?」


曹仁「出来るに決まってんだろう! 俺様だぜ!?」


夏侯淵「では聞くが初手の逆落しの後、曹仁はどうする気だ?」


曹仁「決まってんだろ! そのまま乱闘よ!」


夏侯淵「楽進に決まりだな」


曹仁「なんで! 何がいけないの! 教えてくれよ! 夏侯淵!!」


夏侯淵「楽進の働きを良く見ておくといい」


曹仁「じゃあ! 俺様、何すればいいの!?」


夏侯淵「陣の守り」


曹仁「地味ぃいいい! 守りなんて地味ぃいいい!」


 曹仁は叫ぶ。


夏侯淵「駄々をこねるな。別働隊が成都を落とす為にも失敗するわけにはいかんのだ」


 夏侯淵は曹仁に言い聞かせる。





 姜尚達、漢中攻略部隊は定軍山の麓まで到着していた。


姜尚「ここが定軍山。馬謖君ここの地形を良く見て」

 

馬謖「敵は山頂に布陣している。これは攻めに有利で守りに堅い布陣だ」


姜尚「夏侯淵は逆落しで劉備軍の戦力を削ってくる。逆落しに最も適した地形だから使ってこない分けがないんだ」


馬謖「逆落し。兵法書にも記される極めて攻撃力の高い戦法ですね。奥義に近いものです。よく知っているものだ」


姜尚「逆落しは定軍山の様に敵が密集せざるを得ない地形で最大限に効果を発揮する。しかし山頂に布陣しても敵が密集せずに広がる地形の場合、逆にこちらが死地となってしまう……」


馬謖「なるほど……戦では山頂に陣を構えるのが上策と言われていますが全ての状況に必ずしも当てはまるわけではないということか……」


姜尚「山頂に布陣するのは確実な補給線を手に入れてあるから……夏侯淵殿は戦闘が長引くと補給線が断たれることを分かっている筈。短期決戦を両軍が望んでいるようだ」


馬謖「勉強になりますね。実経験の重要さを痛感致します。では逆落しを知っていて敢えて受け止めるのですね」


姜尚「受けるよ。受け止めてみせる。今の劉備軍の実力であれば必ず受けきれる」


馬謖「姜尚は若いのに実際に経験した様に話しますね。まるでどこかで逆落しを受けたことがある様に……どこかで戦っていたのですか?」


姜尚「うーん。そんな感じかな?」


馬謖「まあでも、逆落しは難易度が高い。失敗する可能性も高そうです。応用力がある私は自信がありますがね!」


姜尚「あははは……そうだね……」


 姜尚は笑顔で返事をした。


姜尚「さぁ行こうか! 先鋒は孟獲さん。藤甲軍の力を見せてもらいましょう」


 姜尚は定軍山に兵を進めた。


 姜尚は逆落しを誘発させるべく定軍山頂上に兵を進める。頂上からは落石や丸太が劉備軍に向けて行われるも魏延によって巨石は砕かれ丸太は跳ね除けられた頂上までの距離の半分までの位置に来た所で楽進の率いる部隊が逆落しを開始する。一気に駆け降りる曹操軍を孟獲の藤甲兵が受け止める。


楽進「押せ! 一気に劉備軍の中核を食い破るんだ!」


 楽進は叫ぶ。


曹操軍兵士「楽進様! 敵に刃が通りません!」


楽進「なんだと!? 一体、どうなってやがるんだ!」


孟獲「ははははは! そんなもので藤甲兵が敗れるものか!」


楽進「斬れないなら! ブッ叩く!」


 楽進は渾身の力で戟で藤甲兵の顔を叩き潰す。


孟獲「てめぇえええ! その武器は斬るもんだろうがぁああああ!」


楽進「そんなの知らん! お前たちがこんな風に使わせたんだろうが!」


 藤甲の鎧は刃に強くとも殴打に非常に弱い。楽進の戦い方を曹操軍の兵は真似る藤甲兵を押し込む。だがそれでも完全に押し込めることは出来なかった。

 

 頂上までの経路は完全に線引きされた形で両者譲らぬ戦いが繰り広げられる。


 そこに藤甲兵に向けて一斉に矢が放たれた。山頂の夏侯淵率いる弓兵が放ったのである。


孟獲「そんな矢はあっし等には聞かねえぜ!」


 矢は藤甲の鎧を貫通することなく地面に落ちる。


楽進「これは! 夏侯淵さんの合図か!! 全軍敵を左右に避け! 次の逆落しに巻き込まれるぞ!」


 頂上から巨木の先端を削り尖らせた衝車が坂を勢いよく走る。流石の藤甲兵もその衝撃を受けることを出来ずに多くの犠牲が出る。劉備軍の奥深くまで巨大は杭が撃ち込まれた。そこに夏侯淵は自ら兵を率い逆落しを開始した。

 

 劉備軍は一気に窮地に追い込まれる。


姜尚「ここが正念場だ! 黄忠さん! 夏侯淵殿を!」


黄忠「任せなさい!」


 後衛の黄忠が逆落しを止めるべく夏侯淵の部隊に矢を放つ。一斉に弓兵も続く。


 夏侯淵の逆落しは劉備軍のど真ん中で止まり乱戦が行われる。


姜尚「今だ! 右路を捨て左路を抉じ開けて下さい!」


 姜尚は叫ぶ。


 右路は孟獲の率いる藤甲兵が奮戦し左路を魏延が抉じ開けた。


姜尚「馬岱さん! 張任さん! お願いします!」


馬岱「了解した! 張任殿! 行こう!」


張任「はい!」


 馬岱と張任は左路を一気に駆け上がり山頂目前に到達した。


 曹仁を目の前にして馬岱は反転し一気に坂を下る。逆落しを実行した。人ではない騎馬の逆落しは曹操軍に大打撃を与えた。

 

 張任も曹仁を討たんと頂上で奮戦し後詰の周倉と馬謖の到着によって曹仁は陣を捨てざるを得なかった。


夏侯淵「完全に止められただと……!ありえん!!」


楽進「夏侯淵さん! こいつら用兵術に長けています! ここは退きましょう!」


 乱戦の最中、楽進は撤退を促す。


夏侯淵「「止むをまい! 引くぞ! このまま森を抜けろ!」


 夏侯淵の号令に曹操軍は道なき道を進む。


曹仁「夏侯淵! 楽進! 波状逆落し、しくじっちまったか!?」


 曹仁が現れる。


夏侯淵「いや! 波状逆落としは完璧だった……」


曹仁「そうか……俺様達よりも相手が単純に強えというだけか……くそっ! 腹立たしいが仕方ねえ! 撤退だ、撤退!」


楽進「曹仁! 陣を捨てた判断は流石な!」


曹仁「好きで捨てたんんじゃねー! めっちゃいっぱい敵が来たんだよ!」


夏侯淵「しかしこの展開から察すると……おそらく退路はもう……」


曹仁「もう遅えってことか!?」


曹仁「じゃあ、俺たちは何だ……ここで殺されるってのか……」


夏侯淵「…………」


曹仁「何とか言ってくれよ! うおおお! 本気かよ!? ちっくしょー! 于禁のおやつ全部食っておくんだったぁぁ!!」


楽進「曹仁! お前が犯人かよ! 于禁から俺と李典が疑われたんだぞ!」


夏侯淵「于禁のおやつって……お前……」


曹仁「ちっくしょー!! ああ! こんなんなるんだったら曹操様のほっぺたツンツンしておくんだったぁぁ!!」


夏侯淵「ん? 曹仁はしたことないのか?」


曹仁「夏侯淵はあるのかよぉおおおお? ちくしょぉおおっ!!」


楽進「曹操様も大変だ……」


 夏侯淵達は潔く戦って死ぬことを決めようとした。


姜尚「夏侯淵殿、曹仁殿、それに楽進殿ですね。お初にお目にかかります。劉備軍軍師、姜尚と申します」


 「!」

 夏侯淵と楽進は姜尚の出現に驚く。


曹仁「ちっくしょー! ああこんなんだったら司馬懿にお前可愛くないって言っておくんだったァァ!! ぶりぶりのぶりっ子がぁあああああ!!」


楽進「黙れ曹仁! 今、それどころじゃない!」


姜尚「あの……劉備軍軍師。姜尚と申します」


曹仁「あっ! 敵の軍師がこんな所まで! 投降しろってか! こいつを人質に取れば退路を開けるんじゃね? 三対一なら余裕だろ!」


夏侯淵「無粋な真似はやめろ曹仁」


楽進「こんな所に一人で現れたんだ。何か伝えに来たんだろ」


曹仁「だよな。卑怯なことは俺様の主義じゃねぇ」


姜尚「波状逆落し、お見事でした。以前の劉備軍であれば確実に粉砕されていたでしょう」


楽進「ちっ……敵に励まされるのかよ」


姜尚「あなた達には、このまま曹操殿の元へ帰って頂きます。包囲に穴を空けております故、このまま山道を抜ければ無事に戻れるでしょう」


曹仁「どうする? 信じるのか?」


楽進「油断させての騙し討ちってわけでもなさそうだな」


曹仁「こっちに選択権はねぇんだ。でもよ軍師さんよ? ここで俺らを逃しちまっていいんかよ? 俺様の首は二度と取ることが出来ねえぞ?」


姜尚「構いません。曹操殿に劉備軍はもう以前の劉備軍ではないとお伝え下さい」


楽進「余裕だねぇ……」


夏侯淵「正直、そちらの考えがはっきりと分からない。捕虜にすることも出来るだろうに……俺と楽進を逃がすこと後で後悔することになるやもしれんぞ」


曹仁「あの夏侯淵……俺様の名前が……」


姜尚「成都の別動隊も失敗に終わって今頃、敗走しているでしょう。もし捕えられていれば後程、釈放致しましょう」


 「!!」

 夏侯淵と楽進は驚く。


夏侯淵「完全に読まれていたのか……!」


楽進「だが遊撃隊にはかなりの戦力を投入して……」


姜尚「どれほどの戦力を裂こうとも関羽さん、張飛、趙雲さん、馬超さん……劉備軍の主力に勝てるとは思いません」


夏侯淵「馬超までもが劉備に……ふふ……完敗だな」


楽進「やれやれ……はずれくじは実は遊撃隊の方か満寵、カク昭、鍾会も気の毒だな……」


姜尚「行って下さい。他の者が現れると何かと面倒なので」


曹仁「礼は言わんぞ!」


夏侯淵「姜尚殿と申したな。命を救って頂いたこと感謝する」


楽進「もしあんたが捕まったら命だけは助かるように曹操様に直訴する。それでチャラでいいか? まぁなんだ……ありがとうよ」


曹仁「あっ! 夏侯淵! 楽進! そこで礼を言ったら俺様の立場がぁあああ!!」


夏侯淵「いつも孟徳が言ってただろ? 礼を忘れては武将の品格が落ちると」


曹仁「そうだったな。じ、じゃあ、やっぱここは一つ俺様も……姜尚、恩に着るぜ」


姜尚「お気になさらず……それと夏侯淵殿」


夏侯淵「何か?」


姜尚「あなたの妹君・麗殿は黄忠を名乗り今は劉備軍に席をおいております」


夏侯淵「何だと! 麗が!」


曹仁「えっ何? 夏侯淵、妹がいんの?」


楽進「お前知らなかったのかよ……多分、知らないのお前だけだぞ」


曹仁「なんで俺様だけ」


夏侯淵「悪い虫が寄り付かないように」


曹仁「きびしぃいいいい! 夏侯淵厳しいわ!! 俺様、虫扱いひでぇな!」


姜尚「麗殿は劉備軍の仲間に囲まれて皆に愛されています」


夏侯淵「そうか……麗は劉備軍に……おやじの名を継いだのか……」


姜尚「はい。いつか曹操殿との決着が付ける日が来るでしょう。それまで麗殿は僕がお守りします。夏侯淵殿も決して命を粗末にしないで下さい。麗殿、いえ、黄忠さんが悲しみます」


夏侯淵「姜尚殿。曹操軍武将としてではなく黄忠の兄として礼を言わせて貰おう」


姜尚「夏侯淵殿はどうして黄忠さんの元を離れたのですか?」


夏侯淵「妹の麗を守る為だった……役人に麗を連れて行かれそうになり、その時、役人を殺め俺は長沙で暮らすことが出来なくなった。その時に孟徳と出会った……成り行きではあったが孟徳と出会えて良かったと思う」


姜尚「そんな理由があったのですか……全ては黄忠さんの為だったのか……」


曹仁「なーなー。夏侯淵の妹って可愛いのか?」


姜尚「え? ……おてんばな感じですかね」


楽進「馬鹿! 夏侯淵さんの妹だぞ? 可愛いに決まってんだろ! いや……可愛いと言うよりも綺麗系か……」


夏侯淵「姜尚殿は……麗の恋人か何かですか?」


姜尚「いえ。全く違います。どちらかというと保護者代わりです」


夏侯淵「そうか……姜尚殿が伴侶であれば俺としては嬉しかったんだが……こればかりは姜尚殿が選ぶことだからな。麗を頼みます。行くぞ楽進、曹仁!」


曹仁「ああ! 姜尚! 助かったぜ! 次は負けねーからな!」


楽進「今度、俺の親友の李典を紹介するからよ! 一緒に飲もうぜ!」


姜尚「ははははは」


 姜尚は夏侯淵達を見送った。 


姜尚「行ったか……これで黄忠さんも悲しまないで済む。それにしても愉快な人達だったな……」


黄忠「姜尚……」


 黄忠が岩陰から現れる。


姜尚「黄忠さん! 何故ここに!」


黄忠「夏侯淵を討とうと思い姜尚を追いかけて来ました。きっと夏侯淵を一番初めに見つけるのはあなただと思ったから。それと盗み聞きするつもりはなかったのですが……すみません。聞いてしまいました。まさか夏侯淵が兄上だったなんて……」


姜尚「こちらこそ勝手なことをしてすみません……」


黄忠「ところで姜尚殿はどうして私の名を麗だと知っているのですか?」


姜尚「えっ! あっ、そっ、それはですね! そうだ! 前に黄忠さんが寝言でですね……」


黄忠「寝言!? 私が寝ている部屋に来たのですか!」


姜尚「そっそれは!」


黄忠「女性の部屋に忍び込むなんて! 信じられません! そう言えば……起きた時に衣服の乱れが……!」


姜尚「それはただ単に黄忠さんの寝相が悪いからでは……」


黄忠「大体! 曹仁が私のことを可愛いかと聞いた時に! 『おてんばな感じ』って。そんな返し方ありますか! しかも恋人かと聞かれ『全く違います保護者です』って! 姜尚殿は保護者になってもらう程、歳は離れていません!」


姜尚「いやっだからそれは!」


黄忠「変態は近づかないで下さい……次に部屋に入り込んだら殺しますよ……!」


姜尚「参ったな……予想外の展開だぞこれは……」


 姜尚は頭痛の種が増えた。


 劉備軍は漢中に進軍する。定軍山の決着により曹操軍は漢中から完全に撤退した。



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