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雷子  作者: 三幸
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怨嗟の息吹

怨嗟の息吹





 五丈原の戦いを終えた馬岱と魏延は魏との最終防衛線である剣閣を守る為に本拠地である成都に増援を率いる為に向かっていた。


 魏延と馬岱は道中、そえれぞれの胸の想いを吐き出す。


魏延「馬岱さん。私ね孔明軍師と仲良くなれてとっても嬉しかったの……」


馬岱「俺もそうさ。孔明軍師は初めはどこか冷たい感じだったけどとっても素敵な方だなって思ったよ」


魏延「そうなんです……私、孔明軍師のこともっと知りたかった……そしたら私達に出来たことって沢山あったんじゃないかなって……」


馬岱「それは今からでも間に合うことじゃないか。そのことに気が付けただけで勝ち組なんじゃないのかって俺は思う」


魏延「そう……なんですかね?」


馬岱「孔明軍師は俺達に未来を託したんだ! それを知ってる俺達はやらなければならないことは山の様にある! そうだろ!?」


魏延「いつまでも悲しんでいられないってことですね!」


魏延と馬岱は足を早めた。





 魏延と馬岱は馬を駆け成都に辿り着き城門をくぐる。


魏延「成都に着きましたね……馬岱さん」


馬岱「ああ。準備をして直ぐに剣閣に向かおう。俺は文官達に兵を送る手配を伝えてくる」


魏延「あの……ここ本当に成都ですか……」


馬岱「当り前だろう。なに言い出すんだよ」


魏延「だって……」


 成都の門をくぐった魏延と馬岱は民の冷たい視線に晒されていた。


馬岱「たしかに……一体どうなっているんだ……」


黄皓「おお! お帰りなさい。魏延さん、馬岱さん」


 成都で黄皓が二人を出迎える。


魏延「黄皓さん。ただいまです」


馬岱「黄皓殿。実は……」


黄皓「はい聞いておりますよ。孔明軍師が亡くなったことは」


馬岱「そうか。姜維殿と孟獲殿が剣閣で防衛線を張っている。直ぐに増援部隊を率いて剣閣に向かう。準備を手伝ってくれないか」


黄皓「それは出来ませんねー」

 黄皓の口が歪む。


馬岱「何だと?」

 馬岱は黄皓を睨み付ける。


黄皓「馬岱を捕えろ!」


蜀軍兵士「はっ!」


 馬岱は兵士に囲まれ縛られる。


馬岱「黄皓殿……これは一体どういうことだ!」


魏延「馬岱さん! 黄皓さん、どうしてこんなことを!」

 魏延が悲痛な声で叫ぶ。


黄皓「戦いに明け暮れている間、蜀は私が牛耳らせて頂きました。いやーあなた方は馬鹿の一つ覚えのように戦ばかり……おかげで薬草が高値で飛ぶように売れましたよ」


馬岱「お前! 一体何を企んでいる!」


黄皓「孔明軍師が亡くなったことは信じましょう。しかし、姜維殿が剣閣で防衛線を張る? またまたー冗談にしてはあまりにもおちの出来が悪い。この黄皓、その様な戯言は信じませんぞ。姜維は軍をまとめ、この蜀を滅ぼそうとしているのではありませんか? そして魏に売り渡そうとしている。姜維……卑しい奴め!」


馬岱「黄皓! 本気でそう思っているのか! 魏から成都を守っている者達への冒涜だぞ!!」


黄皓「その怒り様、ますます怪しいですな。魏延さん、兵をお貸ししますので剣閣に向かい姜維の首を獲って来て頂きたい」


魏延「そんな! そんなこと出来ません!!」


黄皓「魏延さん。この蜀は劉備様と多くの将兵の血と汗で造られた国です。あなたはその国の……いや、ご自分の帰る場所が無くなっても良いのですか? 惨めですよー」


魏延「!」


馬岱「魏延! こいつの言うことに耳を傾けては駄目だ!」


黄皓「うるさいですねー馬岱殿は。魏延さん、馬岱殿は人質として預かります」


馬岱「どこまでも卑劣な!」


魏延「わっ私、どうしたら……」


黄皓「姜維の首を獲ってきなさい。さもなくば馬岱殿には死んで頂きます。早く行きなさい!」


魏延「ひっ……」


 黄皓の怒声に魏延はその場を去る。


黄皓「全く、頭の弱い子ですね。これだけ強く言われないと分からないなんて……」


蜀軍兵士「馬岱様は牢屋に入れますか?」


黄皓「ええ。そうして下さい」


馬岱「無念だ……姜維殿……」


 馬岱は牢屋に閉じ込められた。





 牢獄の中で馬岱は脱出する方法を模索する。

 

馬岱「何とかして姜維殿の元へ戻らないと……」


黄皓「私の許可なくここから出ることなど不可能ですよ」


馬岱「黄皓!」


 牢屋の冷たい檻を隔て馬岱と黄皓は向き合う。


馬岱「一体どうやって成都を牛耳った!」


黄皓「簡単ですよ。あなた達が戦う為に多くの負傷兵と訃報が届きました。いいですか? 戦うことしか出来ないあなた達には分からないででしょう。成都は悲しみに明け暮れていたのです」


馬岱「それは劉備様の意思を継いで平和な世を実現させる為だ! 私利私欲の為ではないぞ!」


黄皓「本当に馬鹿ですね。劉備様の意思? 平和な世? その結果が家族を失い悲しみに暮れる日々を過ごすこととなったことに何故気づかないのですか?」


馬岱「戦争を終わらせる為の戦いだ! 犠牲はつきものだろうが!」


黄皓「人の本質を理解していない返答をありがとうございます。全ては勝てればなんの問題もなかったのです。だがあなたちは事実上、負けました。頼るべき孔明軍師は亡くなり勝ち目のない戦争になったのです」


馬岱「だから魏に降伏しろと言うのか! 魏の圧政に耐え、希望のない世界で生きていけとお前は言うのか黄皓!」


黄皓「あーうるさいですね……圧政? 馬岱殿。一度しか言いませんからよく覚えておいて下さいね? 人はねどのような苦労や逆境も慣れるのですよ」


馬岱「!」


黄皓「やっと分かってくれましたか。私はね負傷兵に初めは無償で薬草を与えていたのです。そうすると民はこう言ってくるのです『是非、対価を支払わせてくれ』と私はこう言いました。それなら次の薬草を必要とする者の代金を支払ってくれと……もうね! 馬鹿かと思う位の対価を置いていくのですよ! 笑いが止まりません! 見えとか善意は底なしの愚行です!」


馬岱「人の善意につけ込んだのか……! 糞以下の存在だな!」


黄皓「その糞以下の存在は成都の民心を掴んだのです。さてとそろそろ集まっている頃合いでしょう」


馬岱「集まって? 一体何を始める気だ!」


黄皓「主役の馬岱殿には成都の民の心を静めて頂かなければなりません」


馬岱「なっ何を考えているんだ……」


黄皓「馬岱を連れ出しなさい」


成都兵士「はっ! 馬岱来い!」


馬岱「くっ!」


 馬岱は拘束されたまま牢から連れ出される。





馬岱は成都中心の広場に連れて来られ、そこには成都の民が集まっていた。


馬岱「黄皓! 俺を一体どうするつもりだ!」


黄皓「馬岱を縛り付けなさい」


 黄皓は馬岱を無視し木の柱に縛り付けた。その足元には多くの藁と薪が置かれた。


馬岱「黄皓! 俺を火刑にするつもりか!」


黄皓「いいえ。まだ火刑が決まったわけではありませんよ。その決断を下すの民ですので」


馬岱「民がだと?」


黄皓「成都の民よ。あなた達は大きな悲しみ背負い今も尚、生きている! これはあなたちが望んだ生でしょうか!? 愛する家族を失い、戦いを好む指導者の為に財産を浪費させらた! 劉備の支配する生活はあなた方にとって本当に望むべき暮らしだったのでっようか!?」


 黄皓は民に向けて叫ぶ。


馬岱「ふざけるな! 劉備様がいなければとっくにここは曹操の支配下に置かれていたんだぞ!」


黄皓「聞きましたか! あなた達の家族を指先一つで指図し命を奪った男は謝罪の一つもなしに己の勝手な都合で自分を正当化しようとしています! この男の処遇はあなた達に委ねます!」


 「殺せ!」 「息子を返せ!」

 馬岱に対し怒号が飛ぶ。



馬岱「こいつら……駄目だ……黄皓に洗脳されてまともな判断が出来ていない!」


黄皓「民の審判は下りました。火を付けなさい」


成都兵士「はっ」


 馬岱の足元に火が点火され火は勢いよく馬岱を包む。


馬岱「ぐわぁあああああ!!」

 馬岱の断末魔が成都に響き渡った。






 孔明の埋葬を終え姜維は剣閣に辿りつく。


姜維「孟獲さん。ただいま戻りました」


孟獲「孔明軍師とのお別れは済んだかい?」


姜維「はい。ありがとうございます。孟獲さんには帰らなければならない国があるのに……剣閣の守りは僕一人で……」


孟獲「おっと、そこから先は言うんじゃねー。なぁ姜維。あっしは南蛮の王だ。近くに劉備さんの作った蜀の国があれば南蛮も平和に暮らせると思ってる。蜀が魏に滅ぼされたら今度は南蛮が滅ぼされるだろう。もうおめーだけの戦いじゃねーんだ」


姜維「孟獲さん……ありがとうございます」


孟獲「しかしよ。馬岱と魏延ちゃん遅くねーか?」


姜維「えっ? まだ到着していないんですか?」


孟獲「おうよ……まさか馬岱の野郎、道中で魏延ちゃんを……」


姜維「さすがにそれはないでしょう……」


蜀軍兵士「大変です! 敵襲です!」


孟獲「何だと! 魏の奴らもう来たのかよ!」


蜀軍兵士「いえ! それが攻撃して来ているのは……成都から来た蜀軍の様です!」


姜維「そんな! 一体、何が起こっているんだ!」


孟獲「おい! 姜維! 今は考えてもしょうがねー!」


姜維「はい! 状況を把握出来ませんが応戦します!」


 姜維と孟獲は迫りくる蜀軍を迎撃する為に出撃する。成都から向かってくる蜀軍は正面から攻めてくるも剣閣は防衛に特化した城塞で敵蜀軍は剣閣の正面で立ち往生しているところを姜維と孟獲に挟撃され容易に撃破された。




蜀軍兵士「敵大将を捕えました!」


孟獲「おう! 連れてこい! 全く味方を攻めるって……一体どういう神経してんだ! 説教だ説教!」


姜維「とにかく会ってみましょう。情報が交錯しているのか魏軍の偽報によって謀られたものかも知れません」


蜀軍兵士「連れて参りました」


魏延「…………」


 兵士に連れて来られたのは魏延であった。


 「!!」

 姜維と孟獲は驚く。


孟獲「魏延ちゃん! 一体どうして……!」


姜維「なぜ……なぜこんなことを……」


魏延「ごめんなさい……うっうっ」


 魏延から大粒の涙が頬を伝う。


孟獲「魏延ちゃん何か理由があるんだろ? ああ! さては馬岱に悪戯されて、それで気が動転して? 馬岱の野郎! 後でとっちめてやる」


魏延「馬岱さんが黄皓さんに捕えられて……姜維さんの首を獲って来ないと……うっうわーー」

 魏延は大声で泣き始める。


姜維「黄皓さんが! 魏延さん詳しく教えて下さい!」


魏延「遠征してる間に成都が黄皓さんに牛耳られてて……姜維さんが蜀を魏に売り渡すつもりだって……馬岱さん、そんなことはないって黄皓さんに言ったけど……捕まっちゃって……」


孟獲「許せねー黄皓! 姜維、馬岱を助けに行くぞ!」


姜維「はい! 馬岱さんを助けに行きましょう!」


 姜維と孟獲は怒りに震えた。


蜀軍兵士「報告します! 魏軍が侵攻して来ました!」


姜維「何て間の悪い……!」


孟獲「ぱっぱと魏の連中を退けて成都に戻ろうぜ!」


姜維「はい!」


魏延「私も戦います!」


孟獲「魏延ちゃん! 大丈夫かい?」


魏延「大丈夫です!」


姜維「三人でこの窮地を乗り切り馬岱殿を助けに行きましょう!」


孟獲「おうよ!」


魏延「はい!」


 姜維達は剣閣に迫る魏軍迎撃に向かう。


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