雷編 呉の呪い 上
雷編 呉の呪い 上
建業から曹操軍を追い出すことに成功した劉備軍は孫権と呉の将兵の救出することに成功した。
だが姜尚の呉に巣くう怪物の問いから孫権の兄である孫策の死に越国が関わりがあること確信した周瑜達は呉の全軍と姜尚、孔明、ホウ統共に越国に向かう。
劉備軍は建業の復興を手助けするべく留守と城の改修作業を行うこととなった。
建業から越国への街道は呉軍の長蛇の列で埋め尽くされる。
甘寧「へへ! 化け物退治かおもしろれーじゃねか。なっ凌統」
凌統「本当にいるのであれば見てみたいものだ」
蒋欽「どうせ化け物って言っても実は熊さんでしたーなんてオチだろ? 俺の弓で一発だって! 眉間にビシッっと! ぶち込んでさ!」
蒋欽は弓を構える。
徐盛「熊かぁ……みんなで熊鍋で乾杯といきたいもんだな……今の熊の肉は美味いぞ。冬眠前で丸々太ってる」
朱桓「良かったぁ。私、魚より肉派なんですぅ! 小骨のない肉に歯を立てたいですぅう!!」
呂蒙「ほらほら。喋ってばかりいないで早く歩きなさい」
緊張感のない甘寧達に呂蒙は前に進むことを促す。
蒋欽「だって化け物退治とかありえないだろ?」
呂蒙「周瑜様に伝えようか? 蒋欽が文句があるって」
蒋欽「俺が悪かった! ほんと御免!」
凌統「それより呂蒙、聞いたぞ? 何だか劉備軍の誰かといい感じなんだって?」
呂蒙「はぁ……周泰だな。全くこの馬鹿共に余計な知恵を……」
呂蒙は溜息をつく。
陸遜「お姉様と姜尚様の間には何もありません!」
陸遜は言葉を強くし否定する。
甘寧「陸遜。呂蒙を盗られそうだからって怒るなよ」
朱桓「陸遜さんの気持ちも分からなこともないですけどねー。自分が焼いた肉を誰かが狙っていると思うと焦りますよね」
陸遜「違います! 朱桓さん! 姜尚様を焼肉に例えないで下さい!!」
徐盛「まぁまぁー陸遜。朱桓にとっては肉が恋愛に代わるものなんだ」
朱桓「何ですかそれ! そんなことあるわけないじゃないですか!」
徐盛は陸遜をなだめる。朱桓は否定する。
周泰「おーい! 越族との国境を越えたから警戒しろって先方の周瑜様からの伝達だ」
伝達係りの周泰が後方の呂蒙達に伝える。
呂蒙「そうか……いよいよってところだな」
先方の周瑜の元に姜尚はいた。
姜尚「ここが越国か……静かで入り組んだ地形のようですね」
周瑜「劉備軍の益州も天然の要害と呼ぶに相応しいが越国もまた同じ……要塞と言うよりも迷宮と言うべきか」
先陣の姜尚は初めて足を踏む越国の領内に驚く。山岳地帯は切り立った岩壁で同じ山岳地帯でも益州とは全く違った。
ホウ統「ここは危険だな……呉軍がまともに攻略できなかったのも頷ける」
諸葛亮「ええ。作戦自体に地理が把握出来ない程、恐ろしいものはありませんからね」
周瑜「しかし、越国に侵入しているにもかかわらず一切何もないとは……報復を恐れて奥地に逃げ込んだか?」
諸葛亮「報復を恐れて急襲などありえません。答えは一つ……」
ホウ統「誘いか……」
諸葛亮「どうしてあなたは私の言葉を先に!! まぁいいですけど……とにかくこれ以上の進軍は危険が伴います」
姜尚「いいえ。このまま進みましょう」
諸葛亮「姜尚?」
先に進む判断を下した姜尚に孔明は驚く。
姜尚「ここで問題を解決しなければ我らは呉軍と共に曹操軍と戦うことが出来ません。周瑜様。お願いします」
周瑜「いいでしょう。呉軍の勇猛さを考えれば越族がどれ程現れても蹴散らしてみせましょう」
諸葛亮「ホウ凌統、止めなくて良いのですか?」
ホウ統「止まるような連中じゃねーだろ? お前も分かってるだろ?」
諸葛亮「そうでしたねー」
姜尚達は越国の奥深くに足を進める。
周瑜「うん? 少し開けた場所に出たましたね……」
姜尚達の目の前には山岳に囲まれた平原地帯が広がっていた。
姜尚「良い場所です……きっとあると思いました」
諸葛亮「あると思った? どう言うことです?」
姜尚「物資を中央に集めましょう。それと呉から持って来た魚油も」
諸葛亮「魚油をあんなに大量に……」
姜尚「建業の蔵から勝手に持ち出してしまいました。きっと必要になると思いまして」
諸葛亮「野営地を探していたということですか……まぁそれなら納得です」
ホウ統「後方の部隊と共に休める良い場所だ……酒……飲んでもいいかな……」
姜尚「一口だけですよ? おやっさん。ここで後方部隊を待っている間だけですからね」
ホウ統「へへへ……姜尚が大将だと物分りがよくて助かるぜ」
ホウ統は酒の入った瓢箪の栓を抜く。
周瑜「ふむ危険な場所だが日もまだ高い……急襲されても充分、応戦できるか」
姜尚達は後続部隊の到着を待つ一刻経過したところで後続の部隊が到着する。
呂蒙「追いついた追いついた」
周泰「げっ先方の部隊、休んでるよ。私も先方の部隊に居ればよかったな」
蒋欽「周瑜様や黄蓋殿達の世話をすんのか?」
周泰「いや、それはちょっとー」
徐盛「はははは! 俺達は俺達で居るのが一番さ!」
徐盛は笑う。
呂蒙「ふふふ。そうだね」
甘寧「んぁ? 何か霧が出てきてないか?」
凌統「ああ」
朱桓「でも何か……普通の霧と違うような……」
後続部隊が到着するころうっすらと白い霧が辺りに広がっていた。
辺りに冷たい空気が流れ込む。
周瑜「後方の部隊も追いついたようだが……霧が!」
諸葛亮「そんなまさか! こんな日が高いうちから霧が出るなんて!」
ホウ統「おいおい! マジで化け物が出んのか! 俺はまだ飲んでる途中何だよ!」
姜尚「…………」
姜尚は広がる霧の中から刺す様な殺気を感じ取った。
呂蒙「周瑜様! 霧が!」
周瑜「呂蒙、分かっている!」
姜尚「全軍に伝令! 物資を中央に集め物資の周りに展開してください!」
ホウ統「方円の陣か! 悪くない!」
周瑜「急ぎ姜尚殿の指示の元、物資を中央へ!」
陣を展開する間に霧は益々、濃くなる。
諸葛亮「くっ! 完全に視界が妨げられそうな、この濃霧……」
于吉「ふふふふ。アホよのう……呉軍の兎どもめ」
一面を白く覆った霧の中から于吉が現れる。
呂蒙「誰だ!」
周瑜「きっ貴様は! 于吉!」
陸遜「于吉? 孫策様を亡き者にした男が何故ここに!」
于吉「曹操軍に滅ぼされたかと思うたのに悪運だけは強いようだの」
周瑜「一体何故、貴様がここにいる!」
于吉「儂は呉の呪いとして呉に住む者に災厄を招く者。貴様らのひ弱な孫策など儂の力で簡単にあの世に行きおった」
周瑜「ふざけるな! 孫策は決して弱くなどなかった! 貴様が卑劣なことをしたに違いない!」
于吉「粋が良いのー。儂は越族の首領として君臨しておる。貴様等は既に包囲されておる……この地を生の最後の場とするがいい」
諸葛亮「把握出来ない地形、敵の数も分からない……そして退路を断たれた包囲網……完全な死地に足を踏み入れてしまいましたね」
于吉「ほー誰かは知らんが、よー分かっておるな」
周瑜「于吉! 一つだけ分からぬことがある……どれほどの知を持ってしても呉軍の精鋭を容易く破ることは出来ない! どうやって対曹操軍の布陣を知った!」
呂蒙「周瑜様!? それはどういう意味ですか!」
周瑜「内通者からの情報漏洩を防ぐ為に極秘で必滅の陣で曹操軍を向かい討つつもりだった。その為に陣を展開する場所はギリギリまで関係者以外には知らされていない」
于吉「察しがいいな周瑜……孫輔よ出てくるがいい」
孫輔「……」
霧の中から孫輔が現れる。
周瑜「孫輔様!」
孫輔「周瑜……お前達が悪いのだ。無能な孫権を担ぎ私をないがしろにしたお前達が……」
周瑜「なんと愚かな……国を想う気持ちがあれば于吉の言葉に傾けることもなかっただろうに……」
孫輔「呉は既に滅んだ。私を君主として崇めるのであれば私から于吉に話を通しても構わない……その時は周瑜。お前を第三婦人として迎えてやろう」
周瑜「私が第三婦人? 第一と第二は?」
孫輔「朱桓と陸遜だ」
「え!?」
朱桓と陸遜は驚く。
朱桓「わっ私……周瑜様より偉くなれるんですか!?」
陸遜「朱桓さん……そこに反応しては駄目です……」
周瑜「この……色ガキが……国は臣下を私物化しようとすることしか考えていないのか!」
孫輔「子孫を残すことに執着して何が悪い! それこそ王の役目であろうが!」
周瑜「貴様は最早、呉にとって必要ない者だ! 誰が貴様についていくものか!」
孫輔「後で泣き言を言っても知らんぞ周瑜! 」
于吉「やれやれ……くだらん問答は終わったか……さてでは料理を始めるか……何も出来ず死んでいくがいい!!」
于吉は声を張り上げる。
姜尚「ふふふふ……ははははは!」
姜尚は高らかに笑う。
于吉「ん? あまりの絶望に気でも狂うたか?」
陸遜「姜尚様……? 姜尚様! しっかりして下さい!」
ホウ統「姜尚! 大丈夫か! 酔ってもないのに正常な判断が出来なくなったか!?」
姜尚「于吉と言ったな! お前が何者かは知らない。しかし誘い出されたのは貴様の方だ!」
于吉「負け惜しみにしてはおもしろい冗談だ……貴様は儂が直々に殺してやろう」
姜尚「全軍に告ぐ! 松明を用意し! 物資に投げ込むのだ!」
姜尚は号令を掛ける。
諸葛亮「姜尚! それでは長期戦に備えることが出来ません!」
姜尚の号令を孔明は止める。
陸遜「何故、そうするか分かりませんが姜尚様のご命令であれば私は従います!」
ホウ統「姜尚! 付き合ってやるよ! そーらよ! え? しまったぁああああ!間違えて酒を投げちまったぁああああ」
諸葛亮「酒を断てて良かったではありませんか」
甘寧「姜尚の野郎……しょうがねーな。ほーら燃えろ燃えろ!」
甘寧に続き兵達が松明を起こし物資に投げ込む。魚油に引火し物資は大きな炎を上げた。
于吉「はははは! 死地にて物資を燃やすとは! これほど可笑しいことはない!」
姜尚「于吉……お前が笑っていられるのももう少しだ……」
于吉「負け惜しみを……何だ……これは……霧が炎に吸い込まれる!」
辺りの霧が炎の上昇霧流により吸い込まれ天に昇る。その光景に于吉は驚く。
周瑜「そうか! 物資を燃やし上昇気流を作ったのか……」
于吉「馬鹿な! そんなことで儂の術が敗れるなど、ありえん!」
姜尚「于吉……いや、越に巣食う化け物め! お前には呉軍が兎に見えたであろうが呉軍は炎を纏う虎。炎虎だ愚か者め!」
姜尚は于吉に向かって吠える。
姜尚「お前は腹を空かした炎虎の巣に足を踏み入れた! 炎虎の腹に収まるがいい!」
于吉「霧だけが全てではない! 退路を失くしたことに変わりはない貴様等がここで朽ちる運命に変わりはない!」
ホウ統「何と言う男だ……最も攻撃的な陣形……背水の陣を作り上げた……いや、まさに背炎の陣と言うべきか!」
諸葛亮「姜尚は初めから長期戦に持ち込む気はなかった。いや、その必要がない……何故ならばここで終らせるつもりだったから」
周瑜「この周瑜を越える人物が現れるとは……この男……何が何でも呉に留めておかねば……」
周瑜は姜尚を恐れた。
姜尚「周瑜殿! 全軍に激を!」
ホウ統「最後には呉軍に花を持たせる! かぁああああ! 憎いな姜尚! 出来すぎだろ!」
周瑜「最後を私に譲ってくれるのか……ありがたい!」
周瑜は大きく息を吸い込む。
周瑜「呉軍、全軍に告ぐ! 呉軍は一つの家族のようなものだ! そして亡き家族、孫策の仇が今目の前にいる! これ程、嬉しく! これ程、猛れることもない! 我らの念願の獲物が我らを食そうとする事実! これ程、可笑しいことはない! 我らを兎と間違えた阿呆を我らの牙で引き裂いてやろうではないか!」
周瑜の激は呉軍の士気を一気に高めた。
周瑜「見えていれば貴様など恐れるに足らず! 全軍! 行くぞ!」
「おう!!」
周瑜の号令に呉の将兵は応える。
于吉「こしゃくな! 相手になってやるわ! 越国の精鋭の恐ろしさとくと味わうがいい!!」
姜尚「お前にとって最悪な一日の始まりだ于吉!」
霧が晴れた地には越軍の大軍が包囲するようにいた。
越軍によって囲まれた同盟軍は一斉に越軍に向かって行く。
背後の炎がそのまま己の闘志となり異常な士気の高さを見せた。
まさに火力とも言える怒涛の攻めに越軍は一方的な攻撃を受け戦況は連合軍圧勝と誰もが確信する。だが越軍は一兵たりとも逃亡せずひたすら向かってくる。
越軍の包囲を簡単に破る呉軍は于吉の場所を目指して突き進む。
姜尚「……」
姜尚は戦いの最中、ある違和感を感じ取っていた。
周瑜「姜尚殿。あなたも感じますか」
姜尚「はい。甘寧さん達の働きで既に勝敗は決したと思いましたが……まだ何かあるのでは……」
諸葛亮「二人とも敵の表情をよく見てください。恐怖に染まるあの表情……恐らく逃亡は死よりも恐ろしいことだと思っているのでしょう」
姜尚「死よりも恐ろしい……それは于吉の存在が恐ろしいということですか」
周瑜「だとすれば間違いなく家族を人質に捕られているのだろう」
諸葛亮「太古の常套手段ですね。今やそんな方法をとるものもいないと思っていましたが……」
姜尚「于吉……!」
姜尚は崖の上に立つ于吉を睨む。
周瑜「この戦い我らだけの問題ではない。越国の民を于吉の手から救いださねばなりませんね」
呉軍兵士「報告します! 甘寧様達が付近の越軍を撃破し于吉の元に向かっております!」
周瑜「うむ。流石は甘寧。呉軍最強の男です」
姜尚「僕たちもこの辺りの敵を殲滅し追いかけましょう」
姜尚達は越軍の撃破に向かった。




