表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超能力者一年生!  作者: アルリア
第三章
22/26

超能力者は権力の理不尽から人々を救う

 

 ヒロは未玖珠を探してはいるが依然手掛かりはつかめない。


 未玖珠以外何もかもどうでもいいと思っていたが、十年後の時間軸で生活するうちに

 大切なものができてきた。


 超能力が世界を変えたことはいい。

 それが誰かに手柄を奪われていたりしても自分が世界全ての構造を変えた一端を担っていたのだということが理解できるとうれしい気分になる。


 さて、それはいいが、権力を握っているのが香川重次郎会長だというのは未玖珠が生きていたらこんな世界はありえないだろう。


「未玖珠が死んでいるかもしれない」


 口に出してからヒロはそれもあり得るかもしれないと思った。


 二年ほど前のヒロだったら未玖珠が死ぬなどありえないと思い込んでいる、いや未玖珠が死ぬことは理解していても死んでいるという仮定を考えられないし、

 受れられないだろう。


 これはヒロが成長した証だろう。


「成長……? 未玖珠のことを忘れただけなんじゃないのか?」


 答えはない。それを否定できるのもまた己しかいない。


 古宇利はどうなっただろうか。橘はどうなっただろうか。そして上妻はどうなっただろうか。


「あいつら……俺が死んだら悲しむのかな」


 どうだろう。


「俺はあいつらが死んでも悲しいとは思わない」


(そうだ。未玖珠が死んだら俺は半身がもがれたような痛みと悲しみに打ちのめされるだろう)


 未玖珠以外に執着心を見せないヒロの思考は彼の精神状態の危うさを示していた。


 ヒロにとっては世界はどうでもいい。ましてやあの香川首相の下で働いているこの状況で愛国心もトップへの忠誠心は皆無だ。


 だからそういう忠誠心に溢れる部隊には馴染めず、忠誠心のない部隊へと行きついた

 のであった。


 だが軍事政権の下でやる気のない、だが力のある部隊は全体に疎んじられ最前線に送られ命を削られる。


(俺はこの世界で何をしているのだろう?)

 そんなことを思い始めた。


(この世界に俺が生れた理由があるはずなんだ。)


「生まれがいいやつは何かにつけて理由を求めたがる」


 ヒロは先ほどまでの自分の思考に対して自虐するような発言を自分でした。


「俺って被虐対質なのかな……」


 パパパパパパパパパドーン!!!

 エイセイヘーイ!!

 ウアワアアアアアアワアアアアアアア!!


 うるさくてまともに考え事もできやしない。


「バカっ。前に出るな! 常に姿勢を低くしていろ!!」


 念動力のサポートを受けられない他の兵士に俺は大声で叫ぶ。


 タイホウヨーイ!テェー!!

 ズドオオオオオオン!!

 パラパラ……。


 だんだん戦場にも飽きてきていた。言い換えるならうんざりしてきていた。

 確かに戦果を挙げ続けていたら自分の名前も有名になっていくし、地位も上がっていくが、結局はどこかの誰かのために人殺しをしているだけなのだ。


 もっと言えば香川重次郎と他の人間の利益になる。


 俺は何をしていても、もうまったく楽しくなくなっていた。


「潮時だな……」


 俺がそう呟く。ありとあらゆる種類の兵器が動き回り、ありとあらゆるサイズの弾丸が飛び交うここでそれが誰かの耳に入ることはない。


 そもそも、一部うまく防御ができる能力者と俺以外みんな鼓膜がやられてしまっている。


 塹壕からフラフラと出ようとする部下をサイコキネシスで掴み引き釣り戻す。

 こいつは三か月前までは都市の音楽大学を卒業したばかりの将来を期待された才能ある若手音楽家だった。

 戦争さえなきゃな……こいつは将来を約束されてとてもいい暮らしができただろう。

 そう、今の俺と立場が入れ替わるように。


 今まで才ある者とされていた者がおちぶれ、才無しとされていたものが成り上がる。

 上下左右逆転の世界。

 水面に石が浮かび、木の葉が沈む世界。


「クク……」


 テッターーイ!!!


 伝令が響き渡る。全部隊が慣れた動作で退却の行軍を始めた。


「よし! 撤退だ!」


 全軍が我先にと引いていく中ヒロは重傷者が付近にあまりにも多いことに気が付く。迫撃砲の命中を食らいすぎていたのだ。


「ま……待ってくれ。置いてかないでくれ……」


 だが非力な部隊員たちはもう何十回目かの交戦に生き延びられた者は重傷者には目もくれず、逃げ出している。


 潮時だな。とヒロが呟いた理由はここにもあった。

 旗色が悪くなりすぎている。


 この戦争は負ける。

 ヒロがいる国では超能力者の途用が遅すぎたのだ。対して弩国は早期から超能力者の積極的な重用をしていた。弩国ではこの国よりはるかに超能力者が優遇されている。


 この国にいるメリットはもうないかもしれない。名を上げることによってヒロは『能力災害』と呼ばれる認定までされたほどだ。世界で十人しかいないらしい。


「し……死にたくない……」


「いやだ……いやだ……母さん……」


 すぐ近くの煤けた肌の血で軍服を染める兵士がうううと呻いている。

 あたり一面では死にかけか死んでいる人間しかいなくなっていた。ヒロは同軍の連中が遠ざかっていく中、重傷者のいる塹壕部分に残った。


「死にたくない……」


 こいつらを助けてこの国での仕事は終わりだ。

 諦めきっている奴らに希望の光を見せてやろう。

 土を隆起させ、飛んでくる砲弾を防ぐ。そして砲弾が飛んでこない間に重傷者を味方の陣営まで運んでやる。


 大量の命をこの手にもって運んでいる。生かすも殺すも俺の自由。神が力を与えた者にはこの世界は優しく、力を与えなかった者には厳しい。

 持つものと持たざるものでは世界はまったく形を変えるのだ。


 顔が驚愕に彩られた敵兵士が見える。戦場を俯瞰し、コマを倒すようにして敵の兵器や、兵士を潰していく。


「死にたくない……」


 敵兵士のその感情が見える。


「みんな死にたくはない」


 たくさんの死を見てきた。

 俺は多くのものを失ってきた。


 その戦場の命が飛び交うその場所でもっとも力のある超能力者が全てを支配し、塗り替えていく。


 ここにいるすべての人間が超能力というものを自分自身の魂に刻んだことだろう。その身に上書きしてやったのだ。

 事実を。超能力者ヒロがもっとも強い個体であるということ。決して逆らってはいけないということ。


「フフ……」


 大地をひっくり返し、精巧なジオラマをショベルカーで掘削するようにたやすく、戦場を支配した。

 この場にいる数万人は直にヒロの災害的な力を目の当たりにした。


「ああ……神様」


 味方は歓声を上げることもなく、畏怖の感情を覚えているようだった。

 遠く離れた味方陣営にも敵陣営にもこれで大きな影響が出ただろう。このやりとりで億単位の人間の人生を変えただろう。良い方にも悪い方にも。


「ハハハハハハハハ。強者よ! 俺を憎め! 弱者よ! 俺を憎め!」


 哄笑は戦場にいつまでも響いた。



 ◇



 思った通り、各国から様々なアプローチ方法で俺のもとにメッセージが届いた。

 様々な形での刺客、様々な形での勧誘。


 刺客は叩き潰した。勧誘も気に入らないものは叩き潰した。

 叩き潰して、叩き潰して、叩き潰して、叩き潰し続けた。

 壊して、壊して、壊して、壊して、壊し続けた。


 勧誘者の方はいろいろと選定を続けていたがやはり弩国が良いようだった。

 なにしろ報酬が良い、待遇が良い。


 人探しに諜報部や警察の手を使う権限も亡命の条件に含まれていた。

 そのうえ、大都市一つの実質的な支配権限と弩国の銀行の西部部門をくれるとのことだった。


「天球の音楽には闇を切り裂く力がある」


 名も知らぬ勧誘者は俺にそう言った。


「共鳴が始まる。共鳴を信じるもの達の手によって、世界規模の地球規模の宇宙規模の共鳴が起こる」


「ナニ言ってんだ?」


「それが起こったとき、闇を超えて一つになる」


 申東赫(シンドンヒョク)がそこにいた。彼だった。彼が喋っていた。


 そう喋り終わったあと男はふっと全てが報われたような顔をした。重たい荷物を下ろしたような、大事な仕事が終わったような。

 いや、ただの錯覚だった。そこにいたのは申東赫ではなかった。にもかかわらずこの男を彼だとヒロが錯覚したのは理由があるのだろうか。

 ヒロはそう考えて男に質問をぶつける。


「オマエ……あの男の部下か?」


「ええ、そうです。あなたにこう伝えるように言われていました」


「そうか……」


 ヒロはコトリ、と音を立てコップをテーブルに置く。そして、腕を彼の方に伸ばした。

 その伸ばされた腕は俺に接触してくる、様々な組織の人間ならその意味が分からないはずがなかった。


 彼はもうこの瞬間から、いつ死んでもおかしくはない。彼は当然それを理解し、口元には笑みを浮かべてはいるが緊張度がまた一気に上がった。

 メッセージを伝えて、緩んだ気持ちがまた引き締められていた。


「意味が分からないんだけど。……それだけ?」


 謎文言を俺に伝える意図は? なんにせよ意味不明で暗喩みたいな言い回しに腹が立つ。


 男はキョトンとしていた。そしてそのあとまた笑みを浮かべた。

 分からないんだ。あなたには分からないんですね。というようなものだ。


「やつはどこにいる?」


 俺はそう問うた。答えは期待していなかった。


「くっく」


 俺が笑い声を漏らすと、男は恐怖で体を大きく揺らした。

 そういえば初めて未玖珠に会ったときもこんなシチュエーションだった。


「彼は、亡くなりました」


「なに?」


 死んだ。申東赫が。そう言ったのか。こいつは。


「老衰です」


「老衰だと?」


 あれから十二年経ったとしても、まだ彼は45歳のはずだ。


「まだそんな年齢ではないはずだ」


「ええ、それは____」


「待て、時間が惜しい。俺はこれからやることがあるんだ。その道中で話してもらおうか」


 男は柔和な笑みを浮かべて頷いた。まるで神父のような万人に対しての友愛を表すかのような態度だった。


「二番街まで行ってくれ」

 エリたちがいる区画だ。


 俺は顎で話の続きを、と促した。


「あなたもご存じの通り、彼はまだ若く、そのような老いが与える数々の不条理とは一見まだ関わりのないことのようでした」


「彼の能力に関係しているんだろう?」


 男はハッとしたように顔を上げた。


「彼の能力を見て分かった。時間に影響させるO波の流れが異様ではあったんだ。おそらく時間を操る能力は、自分自身の細胞の年齢も大きく損なうことになるんだろう」


「すごいな……機械も使わず……」


「死んだのか……本当に。残念だ。墓は?」


「弩国です。彼の故郷。南部の村に埋葬するのが彼の本意であったのではと思っていますが、弩国の首相の意向で首都にあります」


「ふーん。彼の作った組織はどうなったんだ? 位置的に弩国にもう取り込まれたか?」


「ええ。もはや跡形もなく」


「ふん。彼の後任者は無能だったか」


「厳しいことを仰る……それだけでもないですね。思想的にも我々と弩国の今の首相とは対立はほぼありません。今の弩国の体制をあなたもご存じでしょう?」


「ああ」


 俺は皮肉気に口を歪めることにした。弩国は超能力者には楽園。無能力者には地獄。

 特に能力の有無による優遇制度が弩国とライロでは真反対になっている。

 ライロのような能力があることによる差別ではなく、能力がないことによる差別だ。


「このような戦時下だ……共通の敵、が必要なんだ。誰にとっても。情報統制なんかもうできない。海を挟んだ向こう側に行けば今地獄にいる人間が天国に行ける。お互いにな。なんとも。なんともな状況とは思わねーか」


「そうですか? 無能力を傘に自分のことをまともな人間であると考えている人間は何かしらの罰を受けるべきだと思いますがね。この国からは一秒でも離れたいですね。今の今、超能力者の差別が行われていると思うとやりきれません」


「クク……」


 俺は笑った。


 俺が時間を気にしているのはこの国で超能力者によるテロ行為が行われたというニュースが流れたからだ。

 以前より、超能力者排斥の流れが強くなり始めたがこの事件が決定打となった。


 あのアブシェリヒとか言う男が言っていたのはこのことだった。

 この国の情報部が超能力者によるテロ事件を大々的に取り上げることでさらに超能力者に対して敵対感情を抱くように国民を扇動しているのだ。


 二番街に近づくにつれ、道が混むようになってきていた。


「ここから先は通行禁止だ!」


 隊長らしき男が声を張りあげている。

 下っ端兵士が車を誘導し始めた。


「今日だったか」


「なにがあったんでしょう?」


「超能力者の貧困層が集まる区画の大規模摘発だ。それが行われることは知っていたが、正確な日時は掴めていなかった」


「どうしますか?」


「先に港へ行け。俺は二番街に用事がある。持てるだけの荷物を持ってからそちらに合流する」


 バタン、俺は車を降りた。〝持てるだけの荷物だけを持っていく〟。



 ◇



 薄汚れた路地裏がこの世の悪意でくべられた炎で燃えているようだった。ごうごう燃え盛る炎による生き物の燃える匂いは強烈なゴミの燃える匂いに飲み込まれた。


 少女にとって自分の家であるバーが燃えている。

 少女は今自分の故郷が、自分の国によって燃やされている。彼女の安全地帯が大きな大きな権力によって燃やされている。


「ちくしょー……! オレたちが何をしたっていうんだよォ……!!」


 目には大粒の涙が。

「クゥーン……」


 エリの超能力生物のカルもエリの悲しみを代わりに表わしているかのようにエリに顔を擦りつけた。

「ワン! ワン!」


 カルがエリのズボンの裾を噛んで引っ張った。ここにいたらまずいと急かしている。

「じいちゃんを探さなきゃ……」


 エリは涙を拭ってそこを後にした。バーが燃え落ちるのをこれ以上見たくない。

「ちくしょう……ちくしょう……」


 誰が悪いんだ? 私たちが悪いのか? なんで私たちがこんな目に遭う? なんで? なんで? なんで?

 悲しみや怒りはエリはこの時点で自分の感情として認知できない。


 あるのは何故!? という心の中の熱だった。まるで外の炎がエリの内部にまで燃え移ったかのように。


 ドシュウッ! 


「あ…っ!」

 叫び声を上げそうになる前にカルがエリの前に立ちふさがることによって防がれる。


 路地の先では二番街に住む住人がこの国の治安維持部隊によって捕縛されているのを見たからだ。こいつらは悪名高く、収容所に連れていかれたらまず無事には帰れない

 ということだった。


「や……やめてくれ……堪忍してくれ……」

 怯えた表情で顔を振る住民が黒い砂袋のようなもので思いっきり殴打され、それきり動かなくなった。


「______ッ!」


 エリは恐怖で全身の毛が総毛だった後引きつって動けなくなった。

 ダシャダシャダシャと地面が打ち付けられるような音が当たり一面を埋め尽くし、時折怒声と悲鳴が聞こえた。

 鋭く悪魔の使いのような兵士たちは無慈悲に上から与えられた聖なる任務を遂行していった。


 大虐殺が行われていた。もともと、殺すために集めているのだ。今ここで殺してもなんの問題もないということだった。

 むしろ今死ねばのちのち殺す手間が省けるとまで全体が考えているようだった。



 心臓の音は聞こえない。

 エリは真っ先みんなのことを考えた。

 みんなが死んでいく。オレが弱いせいで。悔しかった。

 空はまだ明けない。

 目の前で自分の知っている人たちがあっけなく殺されていく。

 気が付けばエリは他の住人と一列に並べさせられていた。

 エリは早く大人になりたかった。それ以上に強い能力者になりたかった。

 弱ければ、奪われてしまう。それが何故? でいっぱいになった頭が導き出した答えだったからだ。

 だからあんなにもヒロに憧れた。


「お慈悲を……」


「これは兵役証です。わたしは30年お国のために働きました……助けてください……」


 兵士にすがるおじさんが銃の柄で殴り倒された。

 この国は私たちを殺す気なんだ。一切の慈悲なく。


「乗れ!」


 号令と兵士たちに乱暴に押され、トラックに乗せられていく。


「じいちゃん。アニキは?」

「あの若者にも立場があるじゃろう。彼は軍人だ。軍人は上の決定には逆らえん。彼にもどうしようもない」

「アニキでも? あんなに強くてすごいのに……」

「この国がそう決めているんだ。国全部が決めたことはすべてその通りになる」


 そうだよな……それにアニキからしたらオレらはただの貧困層のみすぼらしいホームレスだもんな。確かな地位を手に入れ始めたアニキからしたら助ける価値もない。それどころか、軍に逆らったらアニキまで収容所行になってしまうかもしれない。……来るわけがないんだ。


「うっふっ……ふっふっふっふっ……」


 呼吸がおかしくなりなにも分からなくなる。

 すぐ近くで体に密着しているカルートの鼓動ですら実感がなく現実感というものがどこかへ行ってしまっていた。


「はーっはーっはーっはーっ」


 エリの息を吸うスピードがどんどん速くなっていく。


「!?」


 エリは急に苦しくなった。

 過呼吸だ。それに気が付いたディホルメされた狼のような姿のカルがエリを落ち着かせるべく短く吠えた。


「はー…はー…」


 前脚をエリの肩に乗せてじっとエリを見るカル。

 それによってエリは落ち着きを取り戻した。


 エリの能力はエリの欠けたものを補うために動物の形をとって現れている。カルートはエリの半身であるのだ。本当の意味で。とても直接的に。

 全ての銃口がエリ達に向けられた。


 世界を呪う。

 弱い自分を呪う。

 最後の瞬間までエリは自分たちを殺すものを睨んでいた。


 その瞬間災害が発生した。弱者の前に立つ彼は天使のように美しく、戦いの神のように強かった。

 暴力は暴力によってなぎ倒された。最新の兵器や暴力の象徴のような恐ろしい兵隊たちを彼はたった一人で屠っていく。なにが起きているのだろう。ここの住人たちは自分たちが肯定されているような気がした。


 ただ殺されていくはずだった自分たちが、能力者によって助け出されていく。その力は自分たちが死ぬ必要はないということをこれ以上ないくらいわかりやすく教えてくれているのだ。


 死ななければならないと教えられた。生きていてはいけないと育てられた。

 制度が、法律が、世論が、超能力者に対して不利になっている。


「みんなこれでもまだこの国にいたいか?」


 青年は誰もが考え付かないようなことを言った。

 他国に行くなんて考えられない。この国の外は地獄が広がっているのだと知っている。この国が情勢的にも資源豊かでほかの国になんて行くなんてありえない。

 誰もがしり込みをしている。こんな目に遭ってもこの国から出るなんてことはありえないことなんだ。


「アニキ!!」

「エリ!」

「まさか来てくれるなんて」


 エリはまだ信じられないというようにヒロに抱き着いてから見上げた。


「来るさ。俺は全ての助けを求める人の味方だ」


「でもお前さんせっかく勲章も何個ももらって真能力者認定も受けて、準佐にまでなったっていうのに」

「いいんだ。そんなもの。いったいそれになんの価値があるっていうんだ?」


 ヒロは屈託のない晴れ晴れとした笑みでそう答えた。


「生きたいものはついてこい。俺たちは今からこの国を脱出する!」


 ヒロの提案に乗ってくれる能力者は多くはなかった。


「おかしいぞ! お前は軍で戦果を上げたって新聞にも取り扱われるぐらいじゃないか! そんなやつがこんな簡単に自分の地位を捨てるなんてありえない! きっとこれは罠だ! 俺はいかないぞ!」

「そうだ……たしかにありえない」


 誰もがうらやむような能力者にあるまじき好待遇、名誉ある地位を捨て、大悪人の汚名を受ける、そして国から命までも脅かされる。そんな状況になることを平気で、それどころかあんなにも笑顔で言ってしまう中井ヒロという青年を人々は理解ができなかった。

 老店主ですら疑った。まず畏怖を覚え、本当にこの青年についていって大丈夫なのか、と。


「オレは……! アニキと行く! みんな! 確かにアニキはちょっとおかしくて、うさんくさいところあるかもしれないけど、それでもアニキはオレたちの味方だよ!」


 エリの説得にざわつき始める。この少女はここに長く住んでいただけあって人々からの信頼がある。


「いいぞ。エリ。お前のおかげでみんなが助かりそうだ」


 そしてヒロと二番街の住人たちは、阿原と合流して、滑走路までたどり着いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ