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超能力者一年生!  作者: アルリア
第三章
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超能力は諧謔しながらも前に進む

 怖い。変わらないものはないとはいえ、世界はめまぐるしく変わりすぎる。


 俺たちは世界を超能力とそれ以外で区別した。そこに調和はない、超能力とそれ以外で世界の法則そのものがまるっきり違うからだ。

 類似性は低く、既存の経験、知識、情報、思想、常識、なにもかもが違う。ここでは石が浮かび、木の葉が沈む。


 常識を捨てなければならない。

 アルベルト・アインシュタインが言った全ての常識は生まれてから積み上げてきた偏見である。ということがまるっきり本当になってしまう世界。


「なんて嫌な世界だ……」


 ヒロは皮肉げに笑みを浮かべた。

 地球に住むというくくりで考えられる社会で、そこに住む人間が全員常識という共同幻想を見ている。そんなことが普通にまかり通ってしまう世界。

 逆転現象。地を這う者が喝采を浴び、空を征く者が罵倒を受ける。


「そんな世界嫌だなぁ……」


 そんなことを呟く。

 敗者と勝者の逆転。それが俺たちの目指した世界だったよな。未玖珠。俺たちは少数派で、なにもなく、そしてなにもかもを持っていた。

 時が経過した。かつて俺たちが住んでいた町も情報も全てが過去のものとなった。俺たちはもともとどこにも所属なんてしていなかった。


 超能力が帰属先であり未玖珠の作っていた組織が俺の身を寄せる場所だ。

 父も母も姉弟たちもどうでもいい。大事なのは超能力があり、香川未玖珠がいること。その二つがあるなら、ユダヤ人収容施設だろうと、弾圧極まる江戸時代だろうと、例えば白亜紀でもかまわなかった。


 そんな独白をしている。

 だがヒロも未玖珠もそんな世界に希望を見たし、そんな世界でなければ明日の光が見えない境遇だった。

 貧乏人とお嬢様、立場は全然違うようだったけれど共通するところがあったのだと思いたい。

 俺は揺れている。未玖珠も揺れている。


 針が振れている。急激な振り方をする時もあるし、真ん中に留まっている時もある。全世界の人間の針の触れ方を平均した値が中央値だ。

 ヒロは針がかなり振れている。+? -? どっちだろうね。未玖珠も振れている。右に、左に。

 急激な振れ方をする時、必ず反対側に急激に振れる。右翼に、左翼に。


 若いうちは極端に振れることがある。時間はない。歳を重ねるごとに振れた針は戻らなくなっていくものなのだから。

 だが実際、この時代は今までヒロが暮らしてきた時代よりもはるかに居心地が良い。全ての居心地が悪く、生きづらいと感じている人。もしかしたら、間違っているのは


 周囲の方かもしれないよ? 世界の方がおかしいのかもしれないんじゃないのか?


 ヒロとエリとバーのじいさんは今日表町の方で買い物をしていた。ずいぶん前にエリやじいさんとバーの改装の手伝いをする約束をしていた。その材料を買い出しに来ていた。

 戦争―――。この時代は戦時下だ。


 平和に見えるこの街の数百キロ向こうでは殺し合いをしている。テーブルに座って三十分でなされた会話で百万単位の人間の命運が左右されている。


 だがヒロにはそんなことは関係ない。関係がないんだ。なぜならヒロの頭の中には政治に関する知識も興味もまったくないからだ。


 ヒロには政治が理解できない。だからそんなバカには存在していないも同然なわけだ。

 一部の金持ちや裕福な層だけが貧困を無視していられる。自分と貧困の間に技術的能力や、共同の組織、システムをつくることでそれを感じずにすむ。

 超能力でありとあらゆる不幸から遠ざかってみせる。


「……だから、少しづつ積み上げていかないとな」


 小さなヒロの呟き。


「ん? アニキなにか言った?」


 そうして見上げてくるのはエリ。


「いや、なんでもないよ」


 そう言って頭を撫でるとエリは嬉しそうに、やや恥ずかしそうにした。


 こうして触れるとエリ潜在的超能力が分かる。ヒロの水準に達すると人がどれほど超能力の潜在能力があるのか分かる。


 毎日少しづつ進もう。牛のようにゆっくりと押していく。何を押すのか、人を押すんだ。


 決意を新たにした。向こう側の社会で同じくらいの人びとを不幸にしたとも言えることを心の奥に隠しながら。


 ヒロがこの時代にとばされてから一年半が経過した。

 ヒロのような超強力な超能力者は戦線の最前線に往かされる。もはやヒロがくるだけで味方の士気は暴騰し、敵の士気は暴落する。

 天災、最前線の総督、などとさまざまなあだ名がつけられた。


 ヒロはもはやそれらの悲惨極まりない戦場を昼下がりのコーヒーブレイクのように平常に闊歩できるようになった。

 代償はもちろん払ったし、これからも払い続けなければならないのだろう。

 日本は最大の負債国となった。かつてのドイツのように各国から莫大な借金を負わされる条約を強制的に結ばれてしまったのだった。


 ヒロは読書をしながら戦場で戦っていった。敵戦闘車両の撃破、航空機の撃破、無人機の撃破。そして人間兵器の撃破。


 最前線で読書をしながら戦闘を行っているのはヒロだけだった。

 もうすでに味方も敵もヒロの能力の足元にも及んでいなかった。

 そのため味方からはやはり距離を置かれた。


 わずかに顔を上げて銃撃音と味方航空機の耳をつんざく音のする空を見上げた。


「……人殺しはやっぱり嫌だな」


 バコォォォォオンンン!!!!


 そのヒロが一瞬にして爆炎に包まれた。

 巻きあがる炎、人体は一瞬にして吹き飛び、超高熱で骨すら残らないほどのエネルギー。

 しかし、ヒロはごく普通の足取りで死の炎の中から姿を現した。

 戦場でヒロは人間の性を見続けた。人間というものをもともと愛していただけにそれはなかなかにきついことだった。ほとんど心が折れてしまいそうな状態に陥っていたことも何度もあった。


 だが、脳にアイロンをあて続けられるような日々でも何度も何度も何度も涙ととも誓ったことはそう簡単に忘れはしなかった。

 思考できなくなっても覚えている。


 作戦本陣はみなきれいな服装だったがヒロは自ら最前線まで行きながら服に砂塵すらついていない。テント内にいる士官たちは息を飲んで、化け物級の能力者を見ていた。


 まだ若いエリート士官が口を開いた。


「おおむね制圧が完了したようだな。これで少しは休めるというものだ」


 みなはその言葉に緊張を和らげたようだった。

 しかし、ヒロは気になる部分があった。地図上の南の部分に古い浄水施設があり、そこの貯水場の水を全部抜けばそこに大多数の兵を忍ばせることができる。


 さらにそこはこのあと撤退する時の進行ルートに重なっている。

 この和らいだ空気のところにあと何千も敵戦力が存在する、などといって水をさすのも面倒だった。

 ヒロは作戦本部を後にした。

 古びた貯水場。

 ここにはヒロの読み通り数千の兵と兵器が格納されていた。


「まさか水を全部抜いてここを臨時拠点にするとは思わなかったぜ……」


 敗戦ムードだったところに上官の出した奇策に兵たちは驚いていた。


「ああ、そうだな。まさか数字の蛇がここまで一か八かの作戦に出るとは思わなかった。と、いうより捨て身……か」


 ヒロはでかいパイプから見下ろしながら兵士の会話に口の中で応える。


(数字の蛇。元科学者の傭兵。海を脳髄化する研究を手掛ける)


 まるで重力の方向がひっきりなしに切り替わったみたいに高速で移動するヒロ。上下左右に効率よく落ちていた。もちろん念動力の応用だったが。


(馬鹿げた研究だ。その過程でいくつもの発明をし、超低コストでの海の浄化を可能な技術を発明したりなど数十の新技術を発明)


 それが今数字の獣たちという一大民間軍事会社のCEOを務めている。そしてなぜかその男が最前線に来ている。

 ヒロが勢いよく着地したそこには数字の蛇と呼ばれる男と、その部下たちだった。


「敵襲! 撃て!撃て!!」


 ズガガガガと襲来者に集中砲火を;行うがヒロはそんなものは効かなかった。アサルトライフルはヒロには無力だ。


「こ、こいつぅっ。超能力者だ。しかも化けモン級の!」


「こいつがヤツじゃねぇのか!? やつだ! 敵の戦略級兵器がここまで来てる!」


 男たちの雄たけびと銃撃音が数秒跳ね上がるかのようにあたりに散らばったかと思うと爆発。

 ヒロが右手を掲げるだけですべて吹き飛んだ。


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