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12 名を持たぬ機械  その2

「五〇センチ、ですか…」

 武装付きの形状で、サイズは小さめ。そして、万一の時には、勝利の身を守る戦士として戦う従者。ゲームならまだしも、吸魔の襲撃を受けた後では、かえって想像力が働かなくなる。

 吸魔を闇の使徒の全てと見立てるのは非常に危険だ、との正しい判断ができるからだ。遠くはない未来に遭遇するとはいえ、勝利の中にある闇のイメージは無惨な程貧困な方に傾いている。

 さて。どのような形状にしたものか。

「飛べる方がいいですよね?」と尋ねれば、「どんな形にしても、飛行の能力はつくよ。予めそういう機能を持たせてあるから」という返事が湖守から返ってくる。鍛冶神が用意してくれた護衛役の場合、どうやら形状と機能にはあまり因果関係がないらしい。

「あ、因みに。人間の目には映らないからね」

「普通の人からは見えないんですか?」

 それは、ダブルワーク達ヴァイエルや吸魔と同じ性質を持つという事でもある。リングの時にはスマホケースの付属品のような顔をし誰の目にも見えるが、いざ闇と対峙する時には不可視の戦士となる。吸魔よりもヴァイエルに近そうだ。

「武装だがな、勝利」ダブルワークが、カウンターの端からよく通る声でアドバイスを投げかける「接近格闘用と中距離射撃の武器は、最低でも一式づつ付く。使う奴が不便しないよう、見た目をデザインに配慮してやれよ」

「そんな工夫、素人には無理ですって!!」メニューの暗記もあるというのに、不慣れな戦闘用駆体のデザインなど良質なものにできる筈がない。「俺が自分で決めないといけないんですか?」

 勝利に泣きつかれ、流石の湖守も返事に窮した。

「そう言われてもなぁ…。仕様として決まっている事だし」

「ならば」と、ライムが割って入る。「いっその事、何かに似せてしまうのはどうだろう」

「何か…って…」

 アイディアが浮かばない勝利の視線は、店内を彷徨った挙句、ダブルワークのところで止まる。

「お、俺かァ!?」

「武装した犬や猫が空を飛ぶよりも、ずっと自然で強そうじゃないですか」

 脱兎の如くダブルワークが勝利に接近するや、右腕を首に巻き付け、左の拳をぐりぐりと頭頂部に捻じ込もうとする。

「強そうって何だ? そう、ってのは。あァ?? 俺は強いんだよ!!」

「わかってます!! だから、きっとすぐに飛んで来てくれるって信じてますよ」

「おう!! 必ずそうしてやらぁ!!」

「君達、仲がいいよねぇ」話の進度が下がってしまった事で、湖守がにっこりと中断を要求する。

 ぷっと吹き出すミカギを横目に、ダブルワークはこそこそと自分の席に戻っていった。

「まぁ、ダブルワークそっくりというのも一つの手だけど、五〇センチのサイズは偵察にも使えたりするんだよ」

「偵察、ですか…」

 まんぼう亭の従業員に必要だろうかと心の中で逃げをうちつつ、自分にも「敵」がいる事を渋々受け入れる。

「人間からは見えないというだけで、壁抜けとかはできないよ。だけど、今後何か起きるかわからないし。建物と建物の間が狭くてもこっそり抜けて行ける味方ってのは、結構頼もしいと思うんだ」

「はぁ…」

「ま、今日いきなり決めなくてもいいから、明日また話し合おうか」

 湖守に譲歩をさせた形で、護衛役についての話は一旦保留になった。

「はい…」

 自分の従者という存在に慣れなければ、と勝利は焦燥感を募らせる。しかも、人間としての縛りが強い勝利よりも遙かに優れた能力持ちである事は、今の段階で疑いようがない。

 そう。引っかかっているのは、主従という関係だ。これから従業員になる者に、護衛役の「主人となれ」とは。

 しかし、今は考えまい。

「あの…。湖守さん」勝利は、神々用の携帯端末を控えめに翳す。「この機械は、神様達の間で何と言っているんですか? 俺のスマホと、こう上手く呼び分けたいんですけど」

「ああ、それね」湖守が、首を傾げて視線を逃がす。「実は、これっといった正式名称は僕や鍛冶神の方では決め手いないんだ。所持する君が好きに呼んで」

「ええっ!? そんな!!」

 神々と接していると、名の大切さを思い知る。だからこそ尋ねた問いに、適当な対応をと答えられたのでは質問した意味がない。

「勝利君」湖守の為に、ライムが助け船を出した。「もし君が、その機械を人間の友達の前でスマホとして使った場合、それは『スマホ』になれるんだ。多くの人間が持つスマホの中に紛れる事ができる。『俺のスマホ』と声に出すなら尚更だ」

 勝利は、しみじみと手元にある携帯端末を見下ろした。

「スマホとして紛れさせる…」

 勝利は理解する。つまり、神々が人間に紛れる為に編み出した三世代循環なるものと同じ思想の下にあるのだ、と。

 湖守と鍛冶神は、神々の妥協を前提に人間の中に紛れる共存を選んだ、という事になるのだろう。

 しかし、疑問も残る。

「本当に、そのやり方で全てが上手くいくのでしょうか…」

 消え入りそうな声で、勝利は独りごちる。

 幸か不幸か、その問いを聞き取った者はまんぼう亭の中に一人もいなかった。

 勝利は見つめる。

 携帯端末と、ケースにはめられた透明なリングを。



           -- 「13 土地守が営む店」 に続く --


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