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縫修師ライム・ライト  作者: 野中炬燵
第1話 勝率を下げる男と新緑に彩られた神々
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26 神々の喪失  その3

2017-05-17 縦書き対応、減量修正。

 超越した存在に対する些か不釣り合いな言葉の登場だ。勝利はきょとんとした様子で湖守に尋ね返す。

「裁かれた、って…。誰にです?」

 勿論、興味半分、残りの半分は回避目的の質問だ。

「神自身を構成するものの一つに、だ。仕込んだのは…。うーん、一体誰なんだろうね。神々の上位は、僕も存在すると思っていなかったから見当もつかないよ」湖守が、キッチンに立ったまま両の掌を天井に向けた。時に訳知り顔をする彼だが、これは間違いなく本音だろう。「わかっているのは、システムが第一世代神の内に存在する共通する因子の一つだったって事くらいかな。当然、破壊的なインパントが災いして、嘆きの後の更なる混乱の原因にもなってしまった」

「湖守さんは、事後について随分とお詳しいんですね。俺は全然です」

 声に出してしまってから、これは皮肉だと後悔する。

「そう? まぁ確かに、僕は幸運な方ではあるんだよ」勝利の言い方をどう解釈したのか、湖守は嬉しそうに回想を続ける。「何しろ、目覚めた後にあまり神格の下がっていない、言わば主神と再会できたからね。僕は、鍛冶神の下で工房務めをする神だったらしい。神々の喪失後、鍛冶神が一度だけ工房に戻って来た。その時に色々と詳しい話を聞く事はできたし、乃宇里亜との再契約もする事ができた。…本当に、あれが無ければ、今の僕はどうなっていたのやら…」

 しみじみなどという緩やかなものを通り越した恐怖の痕跡が、湖守の眼光に滲み出ている。

 当時の混乱を幸運な再会だけで辛くも凌ぎ切った、という鍛冶神の下級神。彼が再会に縋る心境は十分に理解できるし、得た情報に対する信頼度は、そのまま鍛冶神への信頼に繋がっているのだろう。湖守は改めて、その幸運を噛み締めている様子だった。

「その頃、君はどうしていたのか。全然覚えてないの?」

 油断した直後、勝利に意図的な直球が放り投げられた。慌てつつも、「わかりません」と正直に打ち返す。「さっきの話も、たまたま景色が見えてきたような錯覚に陥っただけで。今はもう、いつも通りの俺です」

「そう…」

 問いかけか、或いは、隠しきれない落胆なのか。単色ではない思いを滲ませた湖守が、ぽつんと短く失望ぎみに漏らした。

「すみません。俺の妄言で、何だかその気にさせてしまって…」

 成り行きから笑って誤魔化す勝利だが、その内面も決して単色ではない。

 自分でもわからないのだ。相反する感情が、いつも別な所から同時に噴出する理由は。

「でも、続きを聞かせてください。湖守さんが鍛冶神を信じている、その気持ちもわかりますし」

「勝利」ダブルワークがスツールで姿勢を改め、訝しげな表情でカウンターに肘を突く。「お前は、知りたくなったり嫌がったり、ころころ態度が変わるんだな」

「ごめんなさい」

 怒られるのもやむなし、だ。詫びたい心一色で、軽く俯く。

「おそらく、君の在り様と関係があるのだろう」ライムもスツールに座り直し、「性格や気分とは違うところに原因の根がありそうだ」と、立ち会ってきた者なりの推測を口にした。

「まぁ、こうなってしまったら、焦っても仕方ないよ」

 湖守が再度、新しい手拭きを差し出すので、勝利は受け取って顔を冷やす。(自分は一周勝利だ。今は、まんぼう亭のカウンターにいる)と繰り返し言い聞かせながら。

「僕の場合、神々の内にある賞罰付与システムについては鍛冶神から聞いているんだ。それを僕が、なるべく多くの神々に伝えようとして広めた経緯がある。思えば、その頃はまだ神と神の間で色々とできる事も残っていたのにね。下がった能力と神格だけで満足した神は、ほとんどいなかったよ。そこにも愚かさが出てしまった」

「愚かさ、ですか」

「ああ。神格が下がったと言っても、神サマと神サマの間では心話によるやりとりができたし、能力を使って互いの位置を知る事もできた。天を駆ける事もできた。だから僕は、天界と地上にいる神サマ達に、鍛冶神から聞いた話を伝えた上で、提案したんだよ。『無限の時間を敵に回したくないなら、今はじっとしていよう』ってね」

 不意に、湖守が間を置く。あまり良いものを回想している雰囲気がしない中で。店内に流れるジャズが気怠げなだけに、それは湖守の心境にも重なった。

「だけど、賞罰付与システムの存在は、神サマ達にとって高純度の清浄さを否定する、そういう厄介なものと映ったんだ。永遠の穢れを内に秘めているような、そんな悍ましさも、まぁわからないではない。やがて、多くの神サマはこう考えるようになる。新しい体を手に入れてその中に自分を移せば、更に幾つか神格は下がるとしても、忌まわしい仕組みからは解放されるのではないか、ってね。彼等がそう考えたくなった根拠は、多分、勝利君。君の言うエル・ダという存在だ」

 勝利の体が、椅子の上で弾む。



          -- 「27 人間の時代へ」に続く --


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