第65話 ──御門家の圧力──
第65話 ──御門家の圧力──
軍本部・第七会議室。
深層事件の報告書が机に積み上がり、
重苦しい空気が漂っていた。
司令官
「……被験体“篠原悠斗”の扱いについてだが、
本部としては継続監視を――」
その瞬間、
会議室の扉が静かに開いた。
入ってきたのは、
黒い和装に身を包んだ男。
御門家当主、
御門 宗一郎。
軍人たちが一斉に立ち上がる。
参謀
「み、御門当主……!?
なぜ本部に……」
宗一郎
「用件は一つだけだ。」
宗一郎の声は静か。
だがその静けさが、
会議室の空気を一瞬で支配した。
宗一郎
「――篠原悠斗に、軍は一切関わるな。」
司令官
「……っ!?」
参謀
「そ、それは……国家としての管理対象で――」
宗一郎
「国家、か。」
宗一郎はゆっくりと視線を向ける。
その目は怒りでも威圧でもない。
ただ“事実を述べる者の目”だった。
宗一郎
「深層事件の後処理すら満足にできぬ軍が、
何を管理するというのだ。」
参謀の顔が青ざめる。
宗一郎は一歩、前へ。
宗一郎
「篠原悠斗は深層の被害者だ。
そして……御門家が保護する。」
司令官
「しかし……空間欠損を持つ者を野放しにするのは――」
宗一郎
「野放し?
彼は軍の実験体ではない。」
宗一郎の声は淡々としている。
だが、その一言一言が軍の喉を締め上げる。
宗一郎
「これ以上、篠原悠斗に接触するなら――
御門家は軍との協力関係を“即時解消”する。」
会議室が凍りついた。
御門家は魔法界の中枢。
軍の魔法部隊は御門家の術式支援なしでは成り立たない。
司令官
「……脅し、ですか?」
宗一郎
「事実だ。」
宗一郎は淡々と続ける。
宗一郎
「深層事件の責任は軍にある。
悠斗を追い詰めたのも軍だ。
これ以上、彼に触れることは許さない。」
参謀
「……しかし……空間欠損は危険で――」
宗一郎
「危険なのは“深層”であって、
悠斗ではない。」
宗一郎の瞳がわずかに細められる。
宗一郎
「彼は深層に触れた。
だが、深層に飲まれなかった。
それは……“選ばれた”ということだ。」
司令官
「選ばれた……?」
宗一郎
「深層は人を選ぶ。
拒絶する者もいれば、
飲み込む者もいる。
だが――
篠原悠斗は“残った”。
それが何を意味するか……
軍には理解できまい。」
司令官は言葉を失う。
宗一郎は背を向け、
扉へ向かいながら言った。
宗一郎
「繰り返す。
悠斗に関わるな。
監視も、追跡も、接触も……
一切だ。」
そして最後に、
振り返らずに告げた。
宗一郎
「――彼は、御門家が守る。」
扉が閉まる。
残された軍人たちは、
誰一人として声を出せなかった。
司令官
「……御門家を敵に回すわけにはいかん。
悠斗への接触は……全面禁止だ。」
参謀
「……了解……」
こうして――
悠斗は軍の手から完全に外れた。
だが同時に、
御門家という巨大な影の庇護下に置かれることになった。
それが守りなのか、
監視なのか、
あるいは――
別の意図なのか。
悠斗たちはまだ知らない。
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第三章始まりです




