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第十八話 終話

「なぁ、喜一……」


 ふらりと日向は揺れる。ただ、彼を見つめ何もしないで立っている。

 名前を呼ばれた喜一は眉根を寄せた。


「喜一さん、撃ちますか?」


 横にいる特殊部隊の人間を、彼は手で制していた。その表情は、完全に自惚れて調子に乗った笑みを見せている。


「いや、遺言くらいは聞いてやろう」


 その言葉に腹が立つこともなかった。

 完全にこちらを見下した彼の顔を見て、日向はゆっくりと口を開く。


「喜一、お前には正義があるのか?」

【嘘は死】


 条件提示をしていることに日向は自分で気がついていない。

 周囲の人間たちも、変わった様子はない。


 喜一は満面の笑みをたたえたまま、日向の質問に答える。


「少なくとも世間では俺が正義だ」


 言い切った。淀みなく、はっきりと。


 彼は自分が悪意に満ちていることに気がついていない。

 彼は自分が世界の総意であると勘違いしている。

 彼は何もかも自分の思い通りに行くと思っている。


 その自己中心的な考えは、果たして世界が正義として認めるだろうか。


 答えは現象としてやってきた。

 喜一の首はちぎれ飛ぶ。血が吹き出し体が地面に倒れる。


「……は?」


 遅れて喜一の声が聞こえてきた。飛んだ顔の表情は、何が起こったのか分からないとでもいうように歪んでいた。

 

 周囲にいた軍人たちが、一瞬息を呑む。日向も何が起きたか分からずに呼吸を見出した。


「こ、攻撃! 総員一斉攻撃!」


 沈黙を破ったのは、誰かの命令だった。特殊部隊員たちは一斉にサブマシンガンを構えてこちらに向ける。

 引き金が引かれ、一斉に弾が発射された。


【動くと消える】


 条件提示が頭の中に響き渡る。マスクの条件提示だと気がついたのは数コンマほど遅れてだった。

 弾が、サブマシンガンが、人間たちの手が消える。


「実に面白いものを見せていただきました」


 マスクの声が聞こえたと思えば、日向は限界を迎えてその場に倒れる。



※※※※※※※※※※



 日向はゆっくりと目を開けた。自分がマスクのアジトのベッドで寝かされていると理解したのは、数秒ほど経ってからのことだ。


 静かな部屋は、日向の心を映しているようだった。


 しかし──


「め、目が覚めましたか!?」


 玲香の慌てた声が耳に入る。顔を向けると、ベッドの横で日向の手を握っていた。


 どういうことだと眉をひそめる。答え合わせをするかのように、マスクが部屋に入ってきた。


「これはこれは、日向さん。おはようございます」

「……なんで玲香がいるんだ?」

「彼女も協力することになったからですよ」


 馬鹿げた話に慌てて体を動かそうとして、痛みが全身に走る。起き上がれなくなり、そのまま枕に頭を沈める。


「慌てないことですね。あなたの内臓や骨はボロボロです。まるで、八十代の人間と見間違えるほどに」


 その一言で、寿命を削った代償だと思い当たる。あと一発でもあの銃を使えば死んでしまうと自分でも分かる。

 

 それはそれとして、顔だけ動かしてマスクを睨む。


「協力ってどういうことだ?」

「そのまんまの意味です。彼女は条件提示を身につけてしまったので普通には暮らしていけません。そして、彼女自身街を混乱に貶めた罰を抱えています」


 マスクの言葉に、玲香は申し訳なさそうに縮こまる。


「ということで、私が責任を持って彼女を仲間に迎え入れることになりました」


 明るく言うマスクにふざけんなと言いかけて、体の痛みがそれを邪魔した。


「日向さんに意思決定権はありませんよ? もう決まったことです」


 その言葉に何を言っても無駄だと悟る。


 小さくため息をつく日向に、玲香は背筋を伸ばして頭を下げた。


「ふ、不束者ですが、よ、よろしくお願いします!」

「嫁入りじゃねぇんだから……」


 呆れ、大きくため息をつき──


「よろしく」


 短く答えた。

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