93:箒で最速スピードを出したい
アヴァレラ魔法学校を囲う塀を跳び越え、リロとエリゼは飛行船の駅を目指して飛んだ。
空は晴れていて、スカイフィッシュも見当たらない。
風もそこまで強くはなく、飛行に適した日だ。
「エリゼ、飛ぶの早いね」
箒に跨がりながら、リロは隣を飛ぶ少年に声を掛けた。
「…………」
物言いたげな顔になったエリゼは、笑顔で併走して飛ぶリロを見る。
「箒でそんなにスピード出すやついるか?」
スピードをガンガン出すのは飛行ボードが適しているらしい。
箒は安定性と軽さと利便性に優れているオールマイティーな媒体みたいだ。
けれど、箒でも工夫すればスピードが出る。形状的にも出しやすい。
リロは「立って乗るボードよりも、箒の方が空気抵抗も少なく、最高スピードが出せるのでは……?」なんて思っている。
「まだまだ飛ばせるよ?」
「箒、壊さないようにしろよ」
喋りながら飛んでいたらすぐに駅に到着した。二人で一緒に飛行船に乗り込む。
飛行船は定刻通りに出発し、リロとエリゼは客室の椅子に並んで腰掛けた。
「ねえ、後宮へ行ったらフィオナさんやゼアンさんたちもいるんじゃないかな……というか、私は本当に入っても大丈夫なの?」
「妖精族はその辺りはゆるゆるだ。だから問題はない……というか奔放な性格ゆえに、制限のある生活ができない」
リロはマーガレット寮のミレナとエレナの双子を思い出した。
確かに彼女たちは奔放で、いつもやりたい放題している。
そして、寮の先輩たちに「あ~……妖精族だから仕方ないね」と言われている。
「なるほど。それに比べたら、エリゼは妖精族なのに、しっかりしているね。自由行動は多そうだけどさ」
「……個人差がある」
エリゼは目を逸らせた。
「そうだね。人間族や獣人族にもいろんな人がいるもんね」
「ああ。俺もだが、妹も妖精族っぽくはない」
少し口を閉じたあと、彼は迷った様子で告げた。
「お前さ……。……いや、なんでもない。後宮では獣人族と人魚族に気をつけろ」
「どちらも嗅覚が鋭い種族だね」
「ああ、フードを被っただけでは見破られる。俺が誰を連れてこようが見とがめられないだろうが、相手が人間族となると煩く騒がれるかもしれない」
「うん、避けるようにする。中級魔法大全に載っていた、臭い消しの魔法が使えるかも」
「……中級魔法大全? それ、二年生か三年生が使うやつじゃ……」
「頑張って、全部覚えるんだ。半分くらいは使えるようになったよ。こっそり練習して」
「……そうか。臭いが完全にないのも不自然だけど、そのままよりはいいかもな」
飛行船はトラブルもなく進んでいる。
リロは窓の外に目を向けた。
(待っていてね、ミネット)
種族の問題は難しい。
リロも、ミネットも、エリゼも、それぞれ抱えているものがある。
でも今は、大事な友達を優先したかった。





