70:一年生の料理
結果的に肉部門ではロバートの活躍によってダリア寮が優勝した。
準優勝はカメリア寮だ。マーガレット寮の謎肉は不評で三位だった。
(本当に、なんの肉だったんだろう……食べることの好きそうな、モミーナ先生も微妙そうな顔だったし)
次は二年生の番だ。
リロたちは見回りの仕事で歩きながら、二年生の様子を窺う。
マーガレット監督生で生徒会の会計をしている、ハヤブサの鳥人族ジャクリーンは魚料理を作っていた。
「あれ、海でしか捕れないアクーって魚だね」
滅多に市場に出ないけれど、すごくおいしくてリオパール家で人気だった。
寮での下処理では、ジャクリーンは魚を捌き慣れた様子だった。
「ジャクリーン先輩は大丈夫そうね」
ミネットも、彼女に期待をしているみたいだ。
もう一人の監督生、竜族のゲイルも器用に肉を焼いている。
監督生二人の安定感にほっとした。
クラゲの人魚族レドは海藻と野菜を用いたスープを作り、ドワーフ族のマイカとモモンガの獣人族スフィアは、予め用意してきたパン生地を焼いている。
魔族のオルターは繊細なデザートを作っており、もはや職人の域だ。
デザートで塔のようなオブジェを組み立てていて、凝った一皿を作り上げている。
二年生が頼もしすぎる。
残る一年生の役割分担だが、リロとミネットがご飯系、鳥人族のセリオスが魚系、エルフ族のユイリーが野菜系、妖精族のミレナとエレナが肉系とデザート系を担当する。
双子の彼女たちは、大変珍しい肉好きの妖精族なのだ。
同じ妖精族で偏食家なエリゼが聞いたら、ひっくり返りそうである。
彼は新鮮なフルーツや花などが主食なので。
(ただ、ミレナとエレナは新鮮な肉でないと駄目とか言っていたから、その辺りが心配ではあるかも……)
狩りから下処理を経て、今日の調理まで、多少の日数が経っている。
どんな風に新鮮なのかまでは、教えてくれなかった。
(何を作るかはお楽しみって話していたけど、大丈夫かな)
そうこうしているうちに試食が始まった。
ゲイルは手の込んでいそうな煮込み料理を提出している。調理過程で何か魔法を使ったのか、短めな調理時間にしてはしっかり煮込まれている感じだ。
ジャクリーンは軽くあぶった魚にハーブを乗せ、何かの実をすりつぶした茶色のソースを付けて出している。
(どちらも、おいしそう)
教師陣も、保護者たちも黙々と食べている。
(あ、モミーナ先生……お代わりした)
彼女はロバートの料理もこっそりお代わりしていた。気に入ったのだろう。
残りのマーガレット寮生の料理も好評だ。
そうしてなんと、マーガレット寮二年生は全員一位を取った……。
オルター先輩なんて、保護者の一人に『うちのパティシエ見習いにならないか?』と声を掛けられている……。断っていたけれど、かなりすごい。
(二年生、優秀なんだな)
そうこうしているうちに、一年生の番が来た。
リロとミネットは持ち場へ急ぐ。
そうして、ついに一年生の部が始まった。
ご飯はミネットが担当、リロはミネットを手伝いつつ、時間を見てフライを作っていく。
今回は三年生と三年生が獲ってきてくれたエビやチキン、二年生が収穫してくれた野菜を用いて、盛り盛り豪華なフライ丼にする。
ご飯部門は、なんでもありなのだ。雑食種族の強みを活かせる。
魔法を使ってお米を炊くのは技術が要った。
一年生でそれに挑戦するのは難易度が高いが、そのぶん成功したら評価が大きくなる。
リロとミネットは、この日のために部屋で自炊しがてらご飯を炊く練習を重ねてきた。
最初は料理が全く出来ないミネットだったが、今では簡単な手料理なら、レシピを見ながら、単純な魔法で作れるようになっている。
ただ、ご飯は……難しいのだ。
(時間内っていう制限もあるし……)
そして揚げ物も、魔法だけで調理するには、火加減にかなり気をつける必要があった。
下手をすれば火が燃えすぎて火傷してしまう。
リオパール家では魔法具のコンロを使っていたので、リロは魔法の調整を部屋で練習した。
攻撃用の炎の魔法は覚えていないが、加熱のための魔法は初級魔法大全に載っていた。
揚げ物の火加減は本当に気をつけなければならないため、ものすごく頑張った。
「ねえ、リロ。あなたが一緒に練習してくれたおかげで、私一人でもお米が炊けるようになったわ。お米さえあれば、いつでも好きなときにご飯が食べられるわね」
ボウル帝国ではパンが主食な人の割合が高い。
けれど、ご飯も普通に食べられている。
リロの出身国であるピア王国のハシノ村でも米や雑穀を植えていた。
「ミネットは料理初心者って言っていたけど、上手だよ」
「ドワーフ族は炎系の魔法と相性がいいのよ。それにもともと魔法の勉強はしていたからね。お母様に隠れて」
「隠れて?」
「魔法学校へ入るための勉強なんて、反対されるに決まっているから。そんな時間があるなら、淑女教育の本でも読みなさいって言われるわ……淑女教育が必要なのは、お母様のほうだと思うのだけれど」
ミネット曰く、彼女の母親は淑女教育を含めた全ての勉強をサボりにサボって今に至るそうだ。
その代わりに不特定多数との恋愛に忙しかったらしい。
しかし、周りを振り回した大恋愛の末に結ばれたミネットの父親とは、早々に離縁してしまったようだ。
現在のミネットの家は母子家庭で、叔母の支援で生活しているらしい。
支援の条件が、ミネットの次期側室入りだったなんて……かなり重い話だけれど。
「ミネットが隠れて頑張ってくれたおかげで、今日はおいしいフライ丼ができそうだよ」
「そうね、勉強をした甲斐があるってものだわ! 絶対に一位になるわよ!」
腕まくりしたミネットは最後の仕上げの、火の調節に精を出している。
予定より早く、リロも揚げ物を揚げ終わった。
油を切って少し冷ますため、別のテーブルに置いている容れ物へ、揚げ鍋の中身をまるごと移し替える移動の魔法を使う。
しかし、リロ自身もテーブルのほうへと移動している最中、隣のグループから悲鳴が上がった。
「やばい、鍋が!」
「温度を上げすぎだ!!」
カメリア寮の、様々な種類の揚げパンを作っていた一年生たちだ。
「だ、駄目だ……もう……」
「間に合わない!」
瞬間、彼らが調理していた鍋が燃え上がって爆発した。
四散した鍋の破片や熱い油が、リロたちのほうへも飛んでくる。
ちょうど彼らに近い位置でミネットが作業をしていた。
「ミネット! 危ない!」
「きゃあっ!」
リロは移動の魔法を即中止し、慌てて入れ替えの魔法を使用した。





