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元・社畜系女子が人生フルベットで運命ガチャを回したら~傾国の美女の人生は一度でいい~  作者: いづかあい
第6章 王の帰還

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第54話  放たれた矢


「面白い噂…?」

「ああ。中々興味深いよ」


入学式が目前に迫った日の午後の事。

疲れ切ったお父様が帰ってくると同時に、どこから湧いて出たのかよくわからない噂を手土産にカシオスもやって来た。


「なんでも、青髪の王子が現われて、国家転覆を狙う偽物を王子を討伐するために、ランザから颯爽と船に乗ってやって来たとかなんとか」

「……いつから、カシオス様は悪者討伐する勇者に?」

「ふふ、さあ?……それにしても、様はいいって言っているのに…何だったらレヴィでも」

「いいえ、そこは譲れませんので」

「そうか……残念だなあ」


(レヴィなんて、ファーストネーム、呼べるわけがない。この人もどこまで本気なのやら)


本当、包み隠さない好意は、過ぎるとマヒしてしまうから、厄介だ。

―――一線はきっちり引いとかないと。


「その噂、カシオス様はなんだか楽しそうにお話ししてますけど……」

「うん、面白い」

「わあ。きっぱり…」

「だって、何もしてないのに青髪の王子の名声が勝手に上がっていくんだ。こちらから宣伝する手間が省けるというものだし……」

「あまり、楽観視は控えてください、殿下」


あ、私が言おうとしたことを、疲れ切った表情のお父様が告げた。


「お父様、顔色が……」

「……レイドック、今日はもう休むといい。シャルが心配してるから」

「………」


一度、お父様は私の顔を見て…カシオスを見て、ため息をつく。


「あ、シャルの保護は私がいるのでご安心を」

「!ダイアナ様……」

「まあ。色男が台無しよ?わがまま王子様のお目付けも大変よね……同情するわあ」


すると、てきぱきと従者に指示をして、丸テーブルの一角を強引に空け、ダイアナ叔母様が座った。

瞬間、ピりっとした空気が流れる。


「……ダイアナ王女殿下。確か、以前アズレアの茶菓子はお気に召さなかったと仰ってましたが」

「あら?そうだったかしら。こちらのお邸のシェフは、ランザのお菓子にとても詳しいみたい。シャルもレイドックの好みはさすが、と言うべきかしら?つい美味しくて」

「おや、それはいけない。せっかくのデビュタントの為に仕立てたドレスを再度作り直すのは大変でしょう?何も今無理して食べずとも、お菓子は逃げませんよ?」

「うふふ!…お腹を空かした狼が、私の可愛い姪っ子の近くにいるのよ?心配だわ」

「それは大変だ!狼はどこにいるんでしょう?」


(……本当、この二人も仲がいいのか悪いのか)

「シャル」

「お父様、私はご心配なく…もうお休みになってください」

「ありがとう…今夜はこちらで食事ができる。しばらくぶりに二人で食べよう」

「はい!」


お父様を見送り、バチバチ火花を散らす二人を傍観していると、ふと、空の上に何か妙なものが飛んでいるのが見えた。


(何あれ?黄色の……鳥にしては飛び方が変)


ヘロヘロと、まるでくたびれた風船みたい。

生物にしては、色が不自然で…なんというか、蛍光色の黄色というか。


「……お二人とも、どうぞごゆっくりとお過ごしください」


ガタンと私が席を立つと、二人が同時に「えっ」と声を出す。

ごめんなさい、二人とも!ちょっとあれは、見過ごせない。うちの邸のほど近い上空に浮かぶ怪しげな物体……それだけでも気にはなるけど。


(あの飛び方…羽根の生えた神様ガチャの飛び方に似てる。もしかして)


神様ガチャを私は引けなくなったけど、アレは人間の一喜一憂を楽しんでいる。簡単に消滅するとは思えない。


「ヒロインになる資格云々言っていたし……更新され続けるキモイ日記、それに、急になくなったと思っていたスキルがまだ私の中にあるってことは」


誰か私以外にあれを引いてる人がいるんじゃないか―――そう考えている。

空飛ぶ物体を見失わないよう、邸内を走り……私はルドヴィガ伯爵家が抱える騎士達の訓練所を目指す。そう、こんな時のために、私は子供の頃からずっと続けてきていることがある。


「あれ?お嬢様?!またお稽古で―――」

「ねえ!弓を一つ貸して!」

「え?!」

「思い切り遠くまで飛ぶような大きい狩猟用の弓!早く!!」

「はっはい!」


騎士の一人が大きめの弓を貸してくれた。


「手入れ十分、弦の張りも良好!」


そのまま邸の階段を駆け上り、三階の部屋まで行き、テラスに出て弓を構える。


「……見っけ。あんたの正体……見せてもらうよ!」


思い切り弦を引き、放つ。

放たれた矢は強烈な勢いで風を切り、ビィイン…と綺麗な発射音を鳴らす。

そして…命中した。


「よっしゃ!」


ギャッ、みたいな妙な声が聞こえ、近くの木に落下した。


「お、お嬢様…一体何が」

「あ…ごめん。ちょっとあまりに天気がいいから、弓打ちしたくなって」


などと、意味不明な言い訳をする。

そう、私が練習をずっと続けてきたのは、この弓術。練習すればするほど、的を射る正確さが鋭くなるし、何より、この風を切る音がたまらない。


(今度、ケディに交代連続打ちプレッシャー・耐久射撃勝負申し込もうっと。…それより)


群がる騎士達をかいくぐり、先ほど例のブツが落下した木が茂った場所へと急ぐ。


「何これ…?」


辺りに散らばる羽根と、その中心にあったのは…矢が突き刺さった黄色の三角計の物体。

しっかりと私の矢が命中していたみたいだけど。

その形は、円錐型で…何処からどう見ても、()()()()だった。


「この世界にあったっけ…あ」


そっと触るとボロボロに砕け散り、最後は塵になって消えた。

いつの間にか羽根も消えている。


(どういうこと…?)

「シャル……そこにいたのか?」

「!あ…カシオス様」


何処から声が聞こえたかと思ったら。

この辺りで一番高い木の上からだった。…サルじゃあるまいし??


「な、何故そんなとこに?」

「君が何を見ていたのか気になって」

「!!」


一瞬目が合うと、得意げな表情でそのまま軽やかに私の前に飛び降りてきて…思わず拍手。


「すごい!」

「昔から昇るのが好きなんだ。…それにしても、何を射止めたんだ?」

「あー……外れたかも」

「ふうん……そう言えば、弓が得意なんだね」

「あ、はい。風を切る音が好きで―――」


その時、私は気が付かなかった。

カシオスは、()()からそこにいたのか……どうして、その場所にいたのか。

彼が色々詳しく聞いてこなかったことに不信感を覚えるべきだったと、あとで後悔したのだった。




その頃―――王宮。

穏やかな昼下がりに、けたたましい音が響く。


「お、…お 王妃 様…っ」

「青い髪の…先王の遺児…!」


ガタガタと震えるメイドを下がらせ、イリシユがそっと顔を出す。

割れた皿の破片を潜り抜け、恐る恐る近づいた。


「あの…母上。どうかされ」

「今すぐ、その男を私の前に連れてきなさい」

「……え?」


それは、今まで聞いたことのないくらいつ冷たい声だった。


「お前を辱めた、噂の偽物の王子とやらを…早く!」

「う、噂の王子って……」


(もう効果が出たのか…!すげえな。さすが―――)


「そうじゃないと…イリシユ。お前が偽物と笑われることになるのよ?!」

「え?!!お、俺がっ?」


グルンと振り返り、イリシユは近くにいたメイドに尋ねた。


「噂…って、青髪王子が偽物で、国家転覆を狙って……」

「どうやら、先日来たランザの船の噂も相成って、偽物王子を討伐する青髪王子が現われた、と巷じゃ有名ですよ」


メイドの替わりに応えたのは…セフィールだった。


「な…はあ?!なん…っで」

「イリシユ殿下。日ごろの行いを顧みては?例のカフェの一件、目撃者があまりにも多すぎる……民衆はいつも、王家のゴシップに興味津々ですから」

「……っでも それは」


カツン、とヒールの音が近づいてくる。


「セフィール……イリシユの監視はお前の役目。どうするつもり?」

「アゼンダリア様。ご心配なく…じき、エストランテ学院の高等部の入学式が行われます。殿下は成人を迎えてはいらっしゃいますが、世間ではいまだそのお姿は民衆に認知されていません」

「……社交には出ているようだけど、派手な行動ばかり目立っているようね」

「…っ」


ちら、とイリシユを見る目は冷たい。


「エストランテは我が母校であり、ヴァラモの力も未だに健在です。私は殿下を高等部に特別生徒として入学していただくことを提案いたします」

「…えっ」


イリシユの晴れやかな声に対し、セフィールの言葉は冷たい。


「エストランテ学園の真髄は、高等部という格差がはっきりしている小社会での振る舞いが全て。駆け引き、忖度、ありとあらゆる感情と念が渦巻く学生社交の世界は、今後の殿下の歩まれる道に大きな成果をもたらすでしょう」

「ふむ……悪くない」

「では、早速本家に連絡を。……その権力をもってすれば、予定外の生徒の入学など、容易いでしょう」

「任せたわ……イリシユ、お前は入学式まで謹慎していなさい。くれぐれも、入学して恥をかかぬように」

「わ、わかりました!」


どこか軽い脚どりを冷ややかに見つめ、セフィールは踵を返した。


(駆け引き、忖度、嫉妬、羨望。将来が約束された学生達は、小賢しく、残酷なまでに幼い)


ふ、と緩む口元を手で隠す。


「今年の入学者は……()()()()殿()も来るだろうし、彼女も」


そう。

エストランテの高等部は、地位と格差と、能力差がはっきりと暴かれてしまう場所である。

豪華な庭園に囲まれ、互いを淘汰しあう【管理者のいない無法地帯】。


――能力亡きものは、なすすべもなく淘汰されていく。


(カシオスと真っ向から対決したとき、イリシユは)


「喰うか、食われるか……さて」


その先は、誰も知らない。


お読みいただき&フックマーク、評価、コメントありがとうございます!精進します!

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